スギダラ広場
  にっぽん飫肥杉仮面ばなし/第12話「おびすぎころりん(下)」

文/ 河野健一

   
 
 
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 そのように、宴会はめっちゃ盛り上がりました。こんなに盛り上がって、ええんかいって程に。その噂は、沿海の人々にも、遠海で漁をしていた人々にも届き、女性ロックバンド「SHOW-YA」が新曲「宴会ラバーズ」をリリースした程でした。

 おみやげにデッカイ箱をもらったおじいさん。言われたとおりにネズミのしっぽをつかむと、滑り落ちてきた穴をすーーーっと逆戻りして、地上に出て、自分の家の真ん前に到着。おじいさんは、まず、大切な箸を1本、ネズミにプレゼントしたことをおばあさんに謝り、今日の出来事を話しました。

そして、おみやげの箱を開くと、金銀財宝がざっくざく!「ありがいたいこっちゃ。ありがたいこっちゃ」2人で数えてみました。金を数えたおじいさんが「金は100枚」と言うと、おばあさんも続けて「銀も100枚」と。ダスキンのCMみたいに息がピッタリの2人。お互いのことが、今まで以上にダイスキンになりました。こうして、おじいさんとおばあさんは、何の不自由もない暮らしができるように。

ある日、隣に住む意地悪でひねくれ者のバアさんが訪ねてきました。「あの〜、電動ドライバーを貸してほしいんじゃが。貧乏人同士、助け合わないといけませんがな。困った時はお互いさまと、言いますからな」
「はいはい、何ですか」がらがら。
「うひゃっ!!」意地悪でひねくれ者のバアさんは、びっくり。おばあさんもおじいさんも、高そうな服を着て、肌もツヤツヤ。ジムに通っているらしく整ったボディライン。光る金歯。自分たちと同じ貧乏暮らしだったのに。

ひょいと家の中をのぞくと、おいしそうな御馳走が並んでいます。「こ、これは…どうしたことです!?」正直で働き者のおじいさんは、意地悪でひねくれ者のバアさんに訳を話しました。「大切な飫肥杉の箸を追いかけていたら、ネズミの穴に招かれて、おいしい料理や、若くてセクシーなネズミの楽しい餅つき。その上、おみやげまで持たせてくれたんです」

「た、たた、たいへん!!」意地悪でひねくれ者のバアさんは、話を最後まで聞かずに、ぴゅんと家に飛んで戻り、ジイさんに今聞いたことを話します。このジイさんも意地悪で、ひねくれ者で、怠け者で、もうどうしようもない男。「なんだっ?ネズミのおみやげ?それはいい。わしもマネしよう」

 全力疾走で山へ駆け上がり、見つけた穴にダイブしました。悪運が強く、すぐにネズミの国に到着。話に聞いたとおり、立派な屋敷があり、うぐいすが鳴き、ウグイス嬢のアナウンスが聞こえ、梅や桃や桜が季節かまわず咲き乱れています。とてもめでたく、華やかな感じです。

「おやおや??」見ると、お父さんネズミとお母さんネズミが、子どものネズミ数匹をかくまうように、ガタガタ震えています。突然現れたジイさんを怖がっている様子でした。
「何をしとるか。早く料理の用意!!」
「はいっ」
「酒!!」
「今すぐ」
「もちつき音頭をやれ!!」
「やります」
おじいさんは、わがまま放題に命令します。実に、えらそうな態度で。ネズミたちは仕方なく、餅つきを始めました。「ぺったんぺったん、ねずみのもちつき。ねこがこなけりゃ、せんねんまんねん、でんねん」
最後のフレーズ「でんねん」が、字余りで、明らかにラップのリズムを乱し、しかも「関西弁?」と突っ込みたくなったジイさんは、今にも怒鳴りそうな怒った顔に。正直で働き者のおじいさんが「楽しい」と感じたのとは大違い。人によって感じ方が、ぜんぜん違うようです。

イライラしながら、ジイさんは考えました。「ははーん、こいつら、猫が嫌いなのか。猫の鳴き真似をしたら、こいつら、ぱーっといなくなって、わしはその隙に、屋敷じゅうの宝という宝をかっさらって、
大金持ちになれるぞ。よーし…」よだれまで垂らし始めています。

「にゃあおーーーーーーっ!!」
するとネズミたち。「ね、ねねね、猫だ」「きゃああーー猫、猫」「猫いやーーーん」ぴゅん、ぴゅん、ぴゅん、ぴゅん。あちこちに逃げ散ってしまい、広い屋敷にジイさんが、ただ1人に。
「ぐしししし。大成功」屋敷じゅうの宝を集めて、箱に詰め込みます。これから始まる贅沢な暮らしが頭をよぎり、ニヤニヤしています。

しかし、しかし、「出口はこのあたりだったか。…違うか。確かこのあたりに…あれ、無かったか。こっちか。…ここも行き止まりか。まいったな。どこへ行っても、出口が無いじゃないか!!」

出口を探して、あちらへ、こちらへ、地下をさまよっているうちに、とうとう、ジイさんは、もぐらになってしまいました。今日も、もぐらのジイさんは地下のどこかで、出口を探して駆けずり回っていることでしょう。

 「おびすぎころりん(上)(下)」いかがでしたでしょうか。
 自分に置き換えて考えてみると、反省してしまいます。何だか、いつもイライラしています。分かっちゃいるけど。自分自身の気の持ちよう、視点で、ニコニコもできるはずなのに。人にやさしくしたら「やさしさ」が返ってくると知っているのに。意地悪したら、自分に跳ね返ってくるのに。本人がいない所で陰口を言ったら、その倍は自分も言われることになるのに。反省。反省。

 働き者のおじいさんのように「トコトン楽しむ」毎日のほうが、すてきですよね。

 「人の振り見て、我が振り直せ」

   
   
   
   
  ●<かわの・けんいち> 日南市役所 広報担当 / 日南市 飫肥杉課OB / スギダラ飫肥支部 広報宣伝部長・会員番号441
   
 
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