むかしむかし、畑のイモを盗む性悪ダヌキを捕獲したおじいさん。縄で縛られ天井に吊るされたタヌキ。畑仕事に出掛けたおじいさんに「決して縄をほどいちゃダメ」と言われたおばあさん。「おじいさんが長生きできるタヌキ秘伝の饅頭を作る」とおばあさんをだまして、縄をほどかせたタヌキ。そして、おばあさんを殴り殺し、裏山へと逃げたタヌキ。と、この昔話の前半を超コンパクトにお伝えし、早くも中盤戦へ。
しばらくして帰宅したおじいさんは、倒れているおばあさんを見てビックリ。
「ばあさん!ばあさん!・・・ああぁあぁあっ、なんてことだ…」
おじいさんが号泣していると、背番号59番のユニフォームを着た、心の優しいウサギがやってきました。そう。ウサギですから、あの球団のユニフォームを着ています。ついでに言いますと、昨シーズンまで愛する広島カープの赤ヘルをかぶっていた丸選手も、今ではもう、このウサギと同じ黒い帽子をかぶっています。そう。このウサギはオレンジ色をしています。
「おじいさん、どうしたのですか?」
「タヌキの奴が、ばあさんをこんなにして、逃げてしまったんだ」
「ああ、あの悪いタヌキですね。私がかたきを取ってあげます」
ウサギは作戦を立て、タヌキを山の下刈りに誘いました。
「タヌキくん、3年前に植栽した飫肥杉の周りで、下草が成長しスギちゃって。飫肥杉に太陽の光が当たらないと育たなくなるから、一緒に下刈りに行かないかい?」
「ウサギくん、そんな面倒な作業、イヤだよ」
タヌキは下刈りをしたがりません。
「タヌキくん、山で美味しい焼きおにぎりをご馳走するからさ」
「ウサギくん、もちろん海苔付きだろうね」
誰かが下草を刈らないと、まだ幼い飫肥杉ちゃん達は育たないというのに、タヌキは食べ物目当てで手伝うことに。タヌキは、早くもノリノリです。
そして、その下草刈りの帰り道。ウサギは100円ライターで『カチカチ』と、タヌキが背負っている刈った草に火を付けました。
「おや? ウサギさん、今の『カチカチ』って音は何?」
「ああ、、この山の名前は、カチカチ山なのさ。だから『カチカチ』というのさ」
「へぇ〜」
「あと、立派な飫肥杉がたくさん立っているから、価値価値山とも呼ばれてるんだ」
「ほぉ〜」
「ねえ、ウサギさん、オレ達なんだか『ギスギス』してないかい?」
「ああ、、初対面だからね。それと、この山の名前は、ギスギス山なのさ。だから『ギスギス』してるのさ」
「ふぅ〜ん」
タヌキは、ついさっき、この山の名前がカチカチ山だと聞いたことは、もう忘れていたようです。
「ねえ、ウサギさん、この山ってスギぇ〜スギダラケで、なんだか『スギスギ』してないかい?」
「ああ、、この山の名前は、スギスギ山なのさ。だから『スギスギ』してるのさ」
「へぇ〜。こんなに立派な飫肥杉がたくさん立っているから、価値価値山って呼ばれてるんだ」
このタヌキ、話を聞いているのか、いないのか、理解しているのか、いないのか、よく分かりません。
こんな訳の分からないヤリトリをしていると、タヌキの背負っている草が『ボウボウ』と燃え始めました。刈ったばかりの草だったので、燃えるのに時間が掛かったようです。
「おや? ウサギさん、この『ボウボウ』って音は何だい?」
「ああ、、この山の名前は、ボウボウ山なのさ。だから『ボウボウ』というのさ」
「ふぅ〜ん」
「おや? ウサギさん、この『ムニャムニャ』って音は何だい?」
「ああ、、私がこの焼きおにぎりを食べている音ですよ」
「うわぁ〜! 焼きたての良い香り! しかも、香ばしい海苔まで付いてるじゃん! それ、どこの海苔?」
「山本山ですよ。この山の名前が、山本山なのさ。だから、この海苔にしたのさ。上から読んでも山本山、下から読んでも山本山」
「オレも食べたかったなぁ〜。下草刈りで、もう腹ペコだよぉ〜」
そのうちに、タヌキの背負った草が激しく燃え出しました。
「なんだか、熱いなぁ。・・・熱い!熱い!助けてくれーー!!」
タヌキの背中は、大やけど。
次の日、ウサギは唐辛子を練って作った塗り薬を持って、タヌキのところへ行きました。
「タヌキくん、やけどの薬を持ってきたよ」
「薬とは、ありがたい。まったく、価値価値山は、ひどい山だな」
どうやら、この名前だけ覚えているようです。
「さあさあ、ウサギさん。背中が痛くて、たまらないんだ。早く薬を塗っておくれよ」
ウサギは、タヌキの背中のやけどに、唐辛子の薬を塗りました。
「うわぁ〜! 痛い!痛い!この薬、めちゃくちゃ痛いじゃぁ〜〜ん!」
「ガマンしなよ。よく効く薬は痛いもんだよ」
そう言って、ウサギはもっと塗り付けました。
「うぎゃぁぁ〜〜〜っ!!」
タヌキは痛さのあまり、とうとう気絶してしまいました。
この後、この昔話は、背中が完治したタヌキをウサギが海釣りに誘い、ウサギが乗った飫肥杉製の立派な舟はかっこよくて頑丈で、でも、タヌキのは泥舟で、と続きます。そして、泥舟に水が染み込み始め、溶け出して、タヌキは海の底に沈んでしまうのです。
いや〜、ウサギのかたき討ちは、ものすぎかったですね。途中から、だんだんタヌキがかわいそうにも思えてきました。でも、もとはといえば、「おじいさんが長生きできるタヌキ秘伝の饅頭を作る」とタヌキがウソをつき、おばあさんを殴り殺した大事件からスタートした(代理の)仕返しでした。
でも、もっとうまくやれば、おばあさんもタヌキも、かけがえのない命を失うことにはならなかったのではと思わざるを得ない、ウサギも殺人(殺タヌキ)犯にならなくて済んだのではと思ってしまう、悲しい悲しい昔話だったとさ。
おしまい |