レポート 京都、杉屋台自転車で野点
  obisugi design×鴨茶
文/ 天江 大陸
   
写真/ 鴨茶会参加者
 
   この4月から週末になると自転車にカセットコンロや釜や茶碗などの道具を積み込むのが習慣となった。そして家前の石畳を下り、大徳寺敷地内を後に鴨川へと向かう。ガタガダと杉の天板が上下に踊り、音を立てながら鴨川に到着する。ここまでの道のりはいつも手汗がひどい。なんせ杉箱がバーニアのように2つ付いた自転車を運転するのだから慎重になってしまう。しかし、鴨川に着けば車は通らないので安心して風を感じながら目的地の出町まで走れる。今日も親子連れや学生、観光客や散歩する人たちで川沿いは賑やかだ。
   
 

 到着後、まずは妙音・弁財天さんにお参りを済ませ、市バスに飛び乗り、飲み水を神社へ汲みに行く。戻りぎわにおにぎりを2、3個購入し自転車をいつもの石ベンチ横に駐輪する。
荷物を下ろして、汲んできた水を釜に注ぎ入れ、カセットコンロにのせて火をつける。抹茶を漉したら茶碗を出し、お菓子を振出しに入れる。おにぎりを食べながら鴨川を眺めているとお湯が沸く。最後にテント生地の傘を差込み準備は完了する。

   
   しばらくすると道行くおばちゃんが「これはなにしてるん?」と訪ねてくる。「お茶してます」と答えると「自転車で??」と首を傾げる。逃げられる前に「一服点てますよ」とお茶を点て始める。僕は4月から自転車を使ってお茶をしているのだ。野点(のだて)の歴史上このような形は初めてだと思う。一客過ぎてもう一客。通り過ぎる人は自転車を見てしまう。子供から大人、外人から日本人、お茶をしてる人もしてない人もやってくる。中には重さ20kgもある鎧姿で登場してくれたお客さんがいた。しかしお茶を振舞うこの場では普通の風景なのだ。4月のある日は多くの子供たちが列を作り、お茶を飲んでいってくれた。茶室では出会わない人たちと鴨茶では出会い、つながった。人と人が混ざり合いなにかが始まる予感があった。
   
 

 初めてこの自転車をみかけたのはネットのブログに上がっていた紹介写真だった。
•大坪和朗建築設計事務所BLOG/スマート屋台
•月刊杉連載「スギダラな一生/第18笑 屋台が俺を呼んでるぜ」
釜ではなく鍋が乗っていたが僕には茶釜が乗るようにしか想像できなかった。きっと面白いことになるだろうと確信した。調べていくと宮崎県の南部に位置する日南市の飫肥杉を使用して創り上げたものだった。obisugi design に問い合わせたところ、話しが流れるように進み、京都にこの自転車がやってきた。突然連絡してきた私に心暖かい対応をして頂いたことに感謝の気持ちで胸がいっぱいだ。そして京都の鴨川で屋台自転車というハードにお茶というソフトが科学反応を起こした。その結果、多くの人がお茶を求めてこの自転車に集まった。野点の資料を見ると背負子(しょいこ)茶屋などは存在していた。今回そのコンテンツは変えずに現代の人たちがわかる形にしたことがキーだと思う。高いデザイン性とお茶を屋台自転車でやる珍しさは客観的にみても面白い。そして杉材のやさしい表情とお茶は相性がとても良いと感じた。やはり無機質なプラスチック材であったら違うことになっていたと思う。この二ヶ月間、使い込んだせいか材の色がいい具合に変化した。この屋台自転車が京都の風物詩になることを願う。

   
  注/鴨茶(かもちゃ)とは、鴨川のほとりで行き交う人々に茶を振る舞うこと。2009年「鴨ん会」という茶の湯集団が発し始めた造語。
   
 
  自転車に初試乗。
   
 
  噂を聞きつけてやってきた社会人の方たち。
   
 
  大学時代の同期が集まってくれました。
   
 
  鎧武者が二人来てくれました。鎧の着装体験をやっている方のよう。
   
 
  子供たちと桜に囲まれながら鴨茶。
   
 
  5月の鴨茶。
   
 
  子供にお茶の点て方を指導。
   
 
  京都・白川でのお茶席。
   
 
  お茶道具のレイアウト。
   
 
  通りすがりのお客さんが撮ってくれた写真。
   
 
  鴨茶の最終日は賑やかでした。
   
   
   
   
  ●<あまえ・だいりく> 陶々舎 代表 www.totousha.com
   
 
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