短期連載
  佐渡の話2 〜笹川十八枚村物語〜 /第7話 「最先端技術と真弓ちゃん」
文/写真 崎谷浩一郎
   
 
 
 

 ちょっと間が空いてしまった。文章を書くということは不思議なものだ。書きたいという気持ちはあるのに、脳が『書けない!』つまり『No(脳)!』と言うのだ…すみません。ちょっと色々立てこんでいてしばらくお休みしていましたが、佐渡の話2、再開します。

 サインのデザインが決まり、いよいよ製作、設置である。これは当初から南雲さんと話をしていたことだが、全部は難しいにしても、何か笹川の方々と一緒につくるようなことができるといいなと思っていた。また、南雲さんも、なるべく地元の技術で維持できるようにしたいという考えを持っていた。

 ポイントは解説文を表示する木材の部分だった。サイン本体は耐久性のことを考えて素材はステンレスに耐久性の高い塗装を選択。これは佐渡島内では技術的に不可能だが、おそらくサイン本体は50年以上持つ(相川大間港のフェンス支柱でその耐久性は実感できる)。一方で木材の部分はできれば地場材で、しかもそのメンテナンスも地元でできる方法を探った。

 そこで、我々は地元佐渡の工務店、金子建築へ協力を申し入れることにした。金子建築は島内で建物の新築や改修を行う工務店である。設計士の金子真弓さん(以下、真弓ちゃん)は非常に熱心な女性で、まちづくりの勉強会などに積極的に参加し、笹川集落内でも建物の改修を何軒かやっていた。真弓ちゃんの旦那さんは棟梁である。何度かお会いする機会があって話をする中で、彼女の家づくりに対する考えや佐渡や笹川に対する思い入れを感じていた我々は、今回のプロジェクトチームに加わって欲しいと思っていた。

『そんなに薄かったら絶っ対にもちません!すぐ反っちゃいますっ!』
『木が腐らないようにするならウレタン系の塗装をするしかありませんっ!』
『木だから狂いは出ます!そんなにギリギリだと入らなかったときどうするんですかっ!』

 真弓ちゃんは思ったことをはっきりと言う。木材の手配と加工、提供を引き受ける立場としては、至極まっとうな意見だった。しかも地元で下手な仕事はできない、というプライドもよくわかる。

『まあ、真弓ちゃん、そう言わずにまずはやってみようよ(笑)。板をちゃんと取り外せるようにしてさ、冬の間は外して皆でメンテナンスするっていうのはどう?笹川だったらできるよ。もちろん、木はいつか腐る。でもそれを塗膜で保護してもたせるより、地域の人でメンテナンスしながら持たせることができたら、それこそ最先端技術じゃない?』

 誤解がないように補足しておくと、上のやりとりはそんな真弓ちゃんとの印象的なやりとりのごく一部である。きつい印象は全くなく、高い志を持ちながら、気さくでサバけた気持ちのいい女性だ。しかも、美人である。生まれは大宮だが、もともとお父さんが佐渡だったこともあり中学から佐渡へ。卒業後、島外で証券会社に勤めていた時期もあったが辞めて再び島に戻って棟梁さんと結婚。その後、建築士の勉強をして資格を取得。今では娘2人の子育てをしながら設計士として設計や現場を仕切っている。自分と同年代(たまたま旦那さんと僕は生年月日が全く一緒)で、全くの異分野から建築に関わることも驚きだが、佐渡にいながらにして内に閉じこもることなく積極的に外に出て色んなことを吸収しようとする姿には敬服する。彼女の夢は佐渡の能舞台を改修に関わること。最近まちづくり専攻建築士の資格も取ったらしい。

 そんな真弓ちゃんの協力もありながら、サインの板面は越後杉に防腐剤のキシラデコールを塗布し、レーザー加工で文字入れする方向でまとまった。解説盤の部分は板面にビスを打ち込むことなく取り外し可能なディテールにしたので、設置やメンテナンスを集落の方でもできる。かくして、年度末最後の笹デ会で笹川集落の方々と一緒にサインの板面設置イベントをやることになった。

   
 
  南雲さんと真弓ちゃん
   
  (つづく)
   
   
   
   
  ●<さきたに・こういちろう>
有限会社イー・エー・ユー 代表 http://www.eau-a.co.jp/
Twitter アカウント@ksakitani http://twitter.com/ksakitani
月刊杉web単行本『佐渡の話』 http://m-sugi.com/books/books_sakitani.htm
   
 
Copyright(C) 2005 GEKKAN SUGI all rights reserved