連載
  スギダラな一生/第68笑 「スキーはスキー?」
文/ 若杉浩一
     
 
 
 

68笑の記事を遅めに書いたら、70笑として出そうという事になり、68笑の穴がどうしても気になったので、また書く事にした。軽い、笑い話を一つ。暑い季節に、滑る話し。スキーの話しだ。

僕は、九州の出身で、冬のスポーツといえば、だいたいマラソンだ、スキー場は、確か阿蘇に或る位で、スキー場さえ見た事も無ければ、滑った事等、殆どない。しかし、上京し、会社へ勤めると、冬場はだいたい、皆スキーへ出かける。入社、4年目だったろうか?同じ年代の独身の若い男女メンバーでスキーに行く事になった。僕は正真正銘の初心者だった、
もう一人、後輩の齊藤君も同じ大学卒でずぶの初心者だった。 僕は、当然、板から何から持っていないので、当時僕の大学の先輩で、宣伝課にいた長嶋さんに、相談した。

「う〜〜ん、若杉〜〜、俺、ウエア、一式持っとるばい。」

「貸そか?」

「まじっすか!!是非貸して下さい。」

「そしたらくさ〜〜探しとくけん、取りにき〜〜やい。」

「了解しました!!助かりました。」

「板と、ブーツはくさ、スキー場で借りればよかたい。」

「そげですね、いや〜〜良かった。」

僕は、先輩のスキーウエアを一式借りて、深夜の列車へ仲間と乗り込んだ。 夜発車した列車は早朝、着き、バスで移動、早速、朝から滑るのである。 目が覚めると、あたりは見た事の無い様な景色、正しく白銀の世界。 そして、バスの高さより、積雪量のある雪の合間の車道を、バスで移動しスキー場へと移動した。 見た事の無い世界、そして始めての経験。ドキドキ、ワクワクである。

やがて、バスは終点、のスキー場へ到着し、僕達は、民宿へと移動した。 男女15〜6人位のメンバーだった。みんな、独身、お互い何やらの期待もあった。正しくワクワク、ドキドキ。僕は年齢的にいうと上の方だったと思う。 しかし初心者。後輩の言うがままにするしか無かった。

「さあ、着替えて滑りましょう」

「若杉さん、齊藤さん、中尾さん、ブーツと板は、あそこで借りて下さい、その後集合です。」

初心者3人集団、(中尾君は自称初心者だった)装備をそろえ。着替えを始めた。

「あれ、これメチャクチャ、小ちゃくねえ?パツンパツンだぞ〜〜」

「わわわかすぎさん、それまた随分変わったウエアですね〜」「本当!!」

「あれ?お前達のと感じが違うぞ?」

「まじ、まじ、すげ〜っす。若杉さん。それ!!」

「めちゃくちゃ、すげ〜〜っす。」

他の二人は、ラフなルーズな感じのウエアに対して、僕の着たウエアは、例えるならモジモジ君のスーツみたいな、ピチピチ、モッコリなのである。全然スキーな感じがしない。むしろ大回転か、ボブスレーの選手のようで、絶対早い、凄腕にしか見えないのである。

「なななんじゃこれは〜〜」

他の二人は笑いこらえて、死にそうであった。

「おまけになんや、この帽子、毛糸で、何で先にポンポンがついとるんや?」

「あははは〜〜泣ける、泣けます〜〜」

「やりますな〜若杉さん。」

「おいおい、また、このゴーグル見てみろ!!」

「こりゃ、零戦のパイロットしかこんなんつけてね〜ぞ、おい!!」

「や、や、止めて下さい〜〜面白すぎる!!」

「すげ〜〜さすが〜〜若杉さん!!」

「これで、このブーツ履いて〜〜」「なんじゃこれは!!」

「俺はどこへ行くんや!!」

「あはははは〜〜涙が出る〜〜」

「すすすげ〜〜〜」

二人に笑い転げられながら、みんなの所へ向かった。

当然、大笑い、しばらく話題の中心になってしまった。いやそれどころか、周りの人達から熱い視線を浴びた。さながら、昭和初期のスキーヤーか、高速滑降の凄腕にしか見えない、どっちに付けてもずば抜けた感じなのである。 真っ黒なピチピチの前身タイツに、タンクトップ型のピチピチジャケット、毛糸のポンポン帽子、そして零戦ゴーグル。 それに、サイズが小さいせいか、ウエアの力で背中が曲がる。

このスキー場の中で、絶対俺が早い、いや上手いと全身が主張している感じである。みんな涙流しながら笑い転げていた。

「まあ、みんなで、リフト乗りましょう、さあ行きましょう!」

みんなは、スキーを履いたまま、リフトまで軽々といくのだが、こっちは何とも進まないどころか滑りまくりなのである。

「あ、若杉さん、担いでいきましょう。」「はい、こんな感じで」

「悪いな〜〜」

「さあ、リフト乗りますよ〜〜」

僕は、何も知らずにリフトに乗せられ、ゲレンデに向かった。始めてのリフトに怖々ながら、終点まで向かった。

「さあ、ここから滑りますよ〜〜」一人一人滑降していった。

「おい、おい、おい、ここ頂上じゃ、なかや?ここから、俺どうやって降りると?なあ、どうやって、降りると?」

「滑って、降ります。」

「俺、始めてのスキーばい?」

「俺、板これから、始めて付けるとばってん?」

「大丈夫です。すぐ慣れますから。」

「それじゃ、下で。」

初心者3人だけが取り残された。

「おい、どげする?」

「どうします?」

「どうするって、降りるしか無いよな〜。」

「お前先に行け!!」

「ほら、中尾も先に行け、ただし、待っとけよ!!」

そうして。僕は思い切って滑走した。真直ぐに、スピードがどんどん上がる。

そうして。僕は思い切って滑走した。真直ぐに、スピードがどんどん上がる。 「意外に行ける。」そう思ったのも、つかの間。コブにバランスを崩し、大転倒。 ストックやら、板やら弾けとんだ。起き上がろうにも、上手く起き上がれない。腕の力で起き上がらないと、足下が定まらない。ようやく全ての道具を集めるのに大変な思いをした。ブーツの中は雪だらけ、膝はガクガク。
それから、ほぼ10メートル単位でこの重労働が起こる。 齊藤も殆ど同じだった。しかし、中尾君は、ボーゲンが出来るらしく、僕らの大回転ならぬ、大転倒を見ながら、ずっと待っていてくれた。 一体どのくらいの距離があったのだろう、途方もなく、レストハウスまで遠かった。

ほとんどが、大転倒と、物品改修。まるで、ゲレンデを腕立て伏せしながら、降りて来た様なものだった。もう体は痙攣し、雪が体中に入り込んでずぶ濡れだった。凍えそうだった。僕は早めに、終了した。しかし体が全身筋肉痛で老人のようにしか動けない。楽しい夕食も、無言、楽しいゲームタイムもなぜか周りが、僕に気を使ってくれているのを感じる。

「そこまで、出来ないと思ってなかったよ〜。なんか、顔はできそうじゃん、悪いことしたな〜〜」って空気が充満していた。

翌日は、思い切って、斉藤と二人でスキー講習を受けることにした。申し込むと赤色のゼッケンを貰った。そして集合場所へ。同じゼッケンを探した。なぜか誰もいない。

「少ね〜な〜〜斉藤、同じクラスは〜、やっぱりド下手は違うね。」

「いや、若杉さん、いますよ、同じクラスのメンバーが沢山。」

「あ〜〜?」

その方向を見ると、小学校低学年の集団。明らかに、同じ色のゼッケンだ。僕らは、その集団と、一緒に並んで滑った。

「何で、小学生と一緒なんや?おいおい、ド下手ですっていってるようなもんじゃん。」

「まあ、ヘタクソですけど。」

「まあね、確かにね。」

「さあ皆さん、お早うございます〜〜」

一人一人の点呼が始まった。小学生の中で僕は最後の「ハイ!!」を叫んだ。小学生が何となく、気を使ってくれるのが、身にしみた。そして、ゆっくりとした、授業を受けた。

やがて、ボーゲンも出来るようになったが、明らかに小学生のほうが上達が早かった。出立ちは、どう見ても先生にしか見えないが、僕だけ、スーパーな感じなのである。小学生は、できるだけ僕に目を合わせないようにしていた。そして激動の、最低の、予想を裏切る格好と、出来事で初スキーは終了した。

結局、最後まで、皆とは一緒に滑らなかった。

「一人、江頭2:50、スキー場にて大暴れ」だった。

 

長嶋先輩に、スキーウエアを返しに行った。経緯を話した。大笑いしていた。

「あはははは〜〜、若杉そりゃ面白かね〜 相変わらず話題が尽きんね〜〜。」

「なんば、言よっとですか〜〜そもそも長嶋さん、よくあげな変なスキーウエア着て滑りましたね!!」

「あ〜〜あれね〜〜俺で3代目、先輩の譲りものたい。おりゃ、着たこつなかもんね〜。だけん、若杉で良かったばい。あはははは〜」

 

お後がよろしいようで。

 

それ以来、誰も誘わなくなったスキー。

スキーはスキーになれない。

   
 
  飫肥杉仮面画伯によるイメージ画
   
   
 
 
   
  下妻画伯によるイメージ画
   
   
   
   
  ●<わかすぎ・こういち> インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 所属。
2012年7月より、内田洋行の関連デザイン会社であるパワープレイス株式会社 シニアデザインマネージャー。
企業の枠やジャンルの枠にこだわらない活動を行う。
日本全国スギダラケ倶楽部 本部デザイン部長
月刊杉web単行本『スギダラ家奮闘記』:http://www.m-sugi.com/books/books_waka.htm
月刊杉web単行本『スギダラな一生』:http://www.m-sugi.com/books/books_waka2.htm
月刊杉web単行本『スギダラな一生 2』:http://www.m-sugi.com/books/books_waka3.htm
   
 
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