連載
  にっぽん飫肥杉仮面ばなし 第1話
文/ 河野健一
   
 
 
 

こんにちは。はじめまして、飫肥杉仮面です。
月刊杉への初投稿で、少々緊張しております。
しかし、ここは仮面を着けて勇気を出して、普段より少し大胆になって書いてみようと思います。

・・・・・などと思いつつ編集部に、ボクの連載(隔月)のテーマについて問い合わせました。しかし、お返事が無かったので、思いっきり大胆に書いてみようと思います。(笑)

   
   
  「飫肥杉仮面 誕生秘話」
   
 

むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんは山へ下刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
おじいさんは、いつも下刈りをしたがります。
おばあさんは、掃除をしようかとも思いましたが、洗濯を選択しました。

ちなみに、間伐(かんばつ)作業をする時は、山へついていきます。応援するために。 熱く暑苦しく「かんばって!かんばってぇ〜!」と。

さて、洗濯中は必ず9つの歌を繰り返し歌います。それ以外の歌は、いっさい歌いません。
つまり、9曲の洗濯。
今は失業中なので、昼間に洗濯ができます。
つまり、求職の洗濯。

そんなおばあさんが、川で選択した洗濯をしていると、130年生くらいはありそうな太い太い飫肥杉丸太が流れてきました。
「おや、誰かが伐採して、まちの貯木場まで流しているのかな?」
おばあさんは、杉をスルーしました。略して、スギーしました。

しかし、おばあさんが洗っていたアレのヒモに、その丸太が引っ掛かってしまいました。
ちょっとほどけば取れそうな感じでしたが、いつもよりかなり大きな声で「引っ掛かって取れないよぉ〜」「家に帰って、おじいさんに取ってもらうしかないよぉ〜」などと言い放ちつつ、飫肥杉丸太を家に持ち帰りました。(もう時効です。)

この当時、杉は貴重な燃料でした。薪にして燃やすのです。
少しずつ伐採しては、また植え、伐採しては植え、いつまでたってもなくならない燃料でした。
使う分だけ伐りました。使った分だけ植えました。
お父さんやそのお父さんが植えてくれた杉を生かして暮らす。子や孫の暮らしのためにまた植える。
そういった資源や人間や心の循環が、まだ当たり前に存在していた時代でした。

おじいさんは薪割りで、(目的は分かりませんが、)おばあさんに久々にカッコイイ姿を見せたくなりました。前日の家に帰りつく直前に、そんな気持ちになっていました。
「隣のじいさんには、まきられない!絶対に、まきられない!」
何かを見たのだと思われます。
そして、(あんなことを言う人には見えなかったのですが、)くだを巻きながら斧を思いっきり振り上げ、杉丸太めがけて打ちつけました。
この技は、くだ巻き割りと呼びます。

丸太の中から、赤ん坊のものすごい泣き声(いや、鳴き声か?)が聞こえます。
「すぎゃぁ〜〜〜っ! すぎゃぁ〜〜〜っ!」

そして、パッカリ割れた飫肥杉丸太の中で、まるでホットドッグのアレ(※)のように横たわりつつ、うつ伏せのままで、こう言いました。(※ホットドッグのようなアレではない。)
「ちょっと、すぎませんが…。お尻が割れたじゃないですか…。」
でも大事には至らず、ホッとした犬のような顔をしました。

そういう訳で、飫肥杉仮面は飫肥杉から生まれたことにさせてください。

   
  〈おわり〉
   
 
  2014年6月26日 宮崎日日新聞
   
   
   
   
  ●<かわの・けんいち> 日南市役所 広報担当 / 日南市 飫肥杉課OB / スギダラ飫肥支部長
   
 
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