特集 Obisugi Design in New York
  飫肥杉世界展開プロジェクトチームは最強のパーティーだ!
文•写真/田鹿倫基
   
 
 

「ニューヨークに行って、世界の真ん中で「OBISUGI」の文字を掲げるんだ!」

そう言った代表の齋藤潤一さんは、なんかよくわからない自信に満ちあふれていた。それを聞いた僕が「この人は何を言っているんだろう」と不思議そうに浮かべた表情を見透かしたように斎藤さんは続けた。
「世界に挑戦することが大事なんだ。次世代にチャレンジする姿を見せたい」
僕はそれを聞いて、さらに怪訝そうな表情になったと思う。何しろ、斎藤代表は35歳である。宮崎ではまだまだ若手の部類に入る年代だろう。僕は正直言うと「次世代とか言わずに、僕ら世代で頑張って行きましょうよ」と思った。

そんな出会いから始まったこのプロジェクトはグングンスピードをあげて進んでいく。
斎藤代表の妄言!?からたったの1ヶ月でクラウドファンディングがスタート。今回使ったFAAVOでは前人未到の250万円が目標だ。とりあえず日南市の飫肥杉を世界展開するのだから投げ込み(プレスリリース)をしておこう、と思ってしてみたらすごい感心を持たれてしまい、多くのメディアから取材が入った。結局、日南市長も交えて記者会見まで行うことになった。その時は何も思わなかったが、後々それがものすごいプレッシャーになってくるのである。
 募集期間は90日。90日で250万円の支援が集まらなければ企画も振り出しに戻る。「じゃぁ、また一からやればいいやー」と思って気軽に始めたものの、支援が全く伸びない。残り1周間を切ってやっと100万円に達したレベルである。残り7日で150万円を集めるだなんて、到底無理だと思っていた。「やっぱ、250万円は無謀だったなー。」と思っていた。
 そんな呑気に構えていたのだが、「記者会見を開いたプロジェクトがそんなすぐに失敗するだなんてどういうことだ!」などという声が上がりはじた。「事業なんて10回中2,3個当たれば御の字ですよ。また改善して頑張ります!」と答えると、「何を言っているんだ!テレビ、新聞で発表までしているではないか!」と返ってくる。 「なるほど、報道されるとは、そのくらいの責任を追うことなのか」と分かった瞬間に覚悟を決めた。250万円達成するために何をしてでも集めきる。 
 それからは徹底的に支援者になりうる人のニーズを聞いた。どうしたら支援したくなるか、支援するために障害になっていることは何か。 その中で出てきたのが、決済方法だった。「支援はしたいけど、クレジットカードをネットで使うのは気が引ける」という声である。都市部では普通に使われているが、まだまだ地方では抵抗があるらしい。 であれば、現金でも受け付けます!という前代未聞の手法も導入した。クラウドファンディングはWEBで寄付を募る仕組みである。現金の手渡しだなんて時代に逆行するかのようだが、「みんなの共感を得て、想いに応えること」こそが、クラウドファンディングの真髄だと想い、そのような手法まで導入して、支援を募っていった。結果、みるみる支援が集まってきた。やはり、支援はしたいけど、クレジット決済の心配というものが足かせになっていたようだ。答えは現場にあった。結果、最後の3日は毎日60万円以上が集まり、最終的には325万円が集まり、目標金額を75万円も上回りクラウドファンディングは終了した。

もちろん、これは本当にプロジェクトのスタートである。ここからニューヨークに出展し、販売していくフェーズに入るわけだが、このクラウドファンディングでのチームワークが本当に凄かった。

斎藤代表は僕たちメンバーが思い切って出来るように先導を切ってプロジェクトを進め、支援が伸びない時も励まし続けてくれた。
長友まさ美さん(通称:まぁちゃん)は企業協賛という大口支援を30万円×2本も取ってくるという大技を決めてくれた。そして何より、僕たちが心折れそうになった時、まぁちゃんの笑顔に何度助けられただろう。
桑畑夏生さん(通称:なっちゃん)はイベントのプロだ。ネットで資金を集めると言えども、共感を生み出すのはリアルの場である。そのリアルの場をコーディネートする天才なのだ。とりあえず、イベントはなっちゃんに任せておけば成功する、という安心感がある。そして、実際にすべて成功した。
河野健一さん(通称;健一さん)は日南市役所職員だが、飫肥杉を世界一愛していると言っても過言ではない。市役所職員ナノにもかかわらず、その情熱と変態性を見た僕たちは、「あ、まだまだやっていいんだ」と心のセーフガードを外してくれた。
斎藤隆太さん(通称:るたさん)はFAAVOの運営者である。運営者であるがゆえに多くの事例を見てきた。なので、どのようなお返しを用意したらいいか、どのタイミングでイベントを打つといいか、すべてを把握していてそれを的確に指示してくれた。実際るたさんの指示通りに行動すると支援金が伸びる。この人の才能を割る方に使えば詐欺師にでもなれるだろうな、と感じた(笑)
飯干真さん(通称:飯干さん)通称が無かった。ごめんなさい。飯干さんはデザイナーとして、WEBやチラシのデザインを担当してくれていた。代表をはじめ基本デザインセンスが無いメンバーが集まってしまったので、飯干さんの活躍は本当に頼りだった。どのようなクリエイティブが人を動かすのか。メッセージをデザインにする天才だ。飯干さんはアラタナの社員なのだが、アラタナさんは本当に採用力がある。
齋藤めぐみさん(旧姓:田尻) 最近結婚した新婚ホヤホヤである。何を隠そう斎藤隆太氏が相手だ。くそー!羨ましい!斎藤隆太めっ! めぐみさんはライティングのプロ。僕たちの稚拙な表現力を分かりやすい文章に編集し、世に送り出してくれた。 にしても斎藤隆太が羨ましい。

よく、クラウドファンディングが成功した要因はなんですか?と聞かれる。
答えは簡単だ。表向きには現金でも受け付けたことや、企業からの大口支援があったこと、イベントを定期的に行なってきたこと、などと答えるが、本当はもっと明快な答えである。それは、メンバーが最強だったこと。各自が持つスキルが僕を除いて高かったし、多種多様だったし、各自が得意なことをすればプロジェクトが達成する座組ができていた。さらにメンバーが他のメンバーに依存していない。互いに本業をもっているので忙しかったり、レスポンスが遅かったりすることもあったけれども、その場その場で他のメンバーがカバーできた。とてもしなやかさがあった。そしてそのメンバーを構成したのが斎藤潤一代表である。

ドラクエで言うと、斉藤潤一代表は勇者である。冒険をするなかでいろんな仲間を引き連れて行く。パーティを組むメンバーはそれぞれ長所短所がある。それを把握して全体最適をかけることができる。なんか、書いているうちに斎藤代表を褒めすぎてきたので、このへんで終わりにしたい。
 文章は終わっても、まだ僕たちの冒険は終わっていない。まだ始まったばかりである。これからもたくさんの困難があると思うが、きっと乗り越えていけるし、例え失敗して倒れてもまた教会からやり直せる。ラスボスがどんなカタチなのかは分からないが、目の前の暗く湿った洞窟をくぐればどんな世界につながっているんだろうというワクワク感を胸に、また次の一歩を踏み出していきたい。

   
 
  飫肥杉世界展開プロジェクトチームは最強のパーティーだ
   
   
   
   
  ●<たじか・もとき> 日南市役所
   
 
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