隔月連載
  スギダラのほとり/第12回 「スギダラケ飯山駅」
文/写真 小野寺 康
   
 

 

 

開業1周年を迎え、北陸新幹線は快走が続いているという。一方で、金沢だけが独り勝ちというコメントも散見されるが、それでもわが故郷である北海道新幹線の(予想通りの)苦戦を見れば、はるかにマシではないかと思わざるを得ない。
その北陸新幹線・飯山駅における、駅舎及び駅前広場の整備プロジェクトに2004年から関わってきた。まちづくりは足掛け10年、とはよく言われることだが、まさにその通り。
しかし、10年を掛けて議論に議論を重ねてきたプロジェクトも、最後にどういう形で仕上がるかどうかが全てなのであって、実際かなり危なかったことを白状する。

飯山駅の特徴は、鉄道運輸機構とJR東日本による駅舎の前面に、飯山市によるアトリウムが「合築」しているところにある。外から見れば完全に一体化しているが、実は構造的には切れている。
この飯山市のアトリウム部分の基本設計は、この月間杉に何度も登場した武田光史さんが担当してくれた。
集成材のマリオンによって支えられた大きなガラス壁面が、まちに対してわずかにオーバーハングするように傾いている。1階より2階のほうが広い形だが、橋上駅である飯山駅は改札が2階にあり、新幹線で飯山を訪れた人々は、まず大きな開口部によって信越の山並みに出迎えられるという仕掛けである。そして一歩外へ出て駅前広場から見ると、ガラス壁にまちの風景が映し出されるのを眺めることになる。

しかし、諸事情からこの実施設計を武田さんが直接手掛けることができず、監修にとどまらざるを得なかった。
私自身も経験があるが、実際に設計するのと人の設計を監修するのでは、品質にどうしても差が出ざるを得ない。
懸念されたとおり、出来上がった空間は残念ながら、空間構成だけは確かに基本設計の通りなのだが、妙に無機的で殺風景な空間となって立ち上がってしまった。
これを救ったのが、長野県産材を使った「木質化」事業である。
担当者の渡邊 毅(つよし)さんは、もともと都市計画課でこの新幹線プロジェクトの初期から中盤までの主担当であった。今回彼が新たに担当になって仕掛けられた木質化事業が、結果的に駅舎内外の雰囲気を大きく変えた。
最初に渡邉さんから私に、この木質化事業を長野県に申請するにあたってデザイナーを紹介してくれないかという話をいただいたのだが、当然というか何というか、スギダラ親分こと南雲勝志氏を紹介したわけである。会ってすぐに渡邊さんは、南雲さんに全幅の信頼を寄せたようだった。
その成果は実際に見てもらう以外にないが、手摺りはもちろん、アトリウム空間がことごとくスギダラケになった。もはや元の面影は全くない。慶賀である。

   
 
  北陸新幹線・飯山駅。少し傾いたガラス棟が、飯山市によるアトリウム。背後の白い駅舎部と「合築」している。
   
 
  駅前広場から見たアトリウム。手前に傾いた壁面にまちの風景が映しこまれている。
   
 
  長野県産材の杉によって「木質化」されたアトリウム内部。木製手摺りはおろか、階段や吹抜け壁面にぐるり回った杉材も元々の設計にはなかったものだ。もはや元の空間が想像できにくい。
   
 
  階段側面を見る。杉が回り込む前は、ただのスチールの階段であり、しかも手摺りを支えるフラットバーが外周に突き出ていて、走り回る子供が頭を打つのが心配されていた。金属がすっかり杉材で覆われてしまったため、その心配も無用になった。
   
 
  天井の木ルーバーとガラスのマリオン(方立)は原設計、というか武田光史さんのデザイン。正面の壁はただの無機質な白壁だったが、杉のルーバーで覆われた。最初からこうだったとしか思えない。
   
 
  この事業は、そもそも建築空間全体を視野に入れるものではなく、家具を入れる発想からスタートしたものだ。もちろん家具も入った。
   
 
  ショップ壁面に木ルーバーによって表現された上信越の山並み。
   
 
  駅前広場にも木製プランターが増え始めた。
   
 
 
  駅前広場に増え始めた木製プランター。プラスティックのプランターを木ルーバーで覆うだけでも印象は変わる。
   
 
 

南雲勝志得意の杉屋台が駅前広場に並ぶ。10台の屋台が製作され、飯山市の人々に随時貸し出しされている。

   
 
  飯山市の渡邊 毅さんと屋台完成を喜ぶ南雲勝志さん。変なちょび髭を付けながら酒を酌み交わしている。なんか目が座ってるぞ?
   
 
  木質化は終わらない。根曲がり杉の巨大ベンチ。これも駅舎内に。(Facebook南雲勝志氏タイムラインより)
   
 
  ほんとに入ったのか、このベンチ? (Facebook南雲勝志氏タイムラインより)
   
   
   
   
   
   
  ●<おのでら・やすし> 都市設計家
小野寺康都市設計事務所 代表 http://www.onodera.co.jp/
月刊杉web単行本『油津(あぶらつ)木橋記』 http://www.m-sugi.com/books/books_ono.htm
   
 
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