タニチシステムの爪痕
文/写真 小林 健一
高畠町の案件から3年、これまでいくつかのタニチシステム案件を設計者として一緒にやってきました。その功績?爪痕?をいくつか振り返ってみて、感じた事など書きたいと思います。
・高畠町立図書館 高畠町屋内遊技場もっくる 山形県高畠町 2019年 ・良品計画上海公司 良品計画北京・良品計画上海 2020年 ・VISON 木育棟kiond(キオンド) 三重県多気町 2021年 ・JR東日本東京建設プロジェクトマネジメント 東京都 2022年 ・高畠町コワーキングスペース 山形県高畠町 2022年 ・福島大笹生道の駅 屋内遊戯場 福島県福島市 2022年 ※年数はプロジェクト完了時期
タニチシステムの歴史的な第一号案件、図書館で99%、遊戯場では88%の町産材の杉を使用して完成した施設です。初めての試みのため右も左も上も下もわからずに谷知くんは孤軍奮闘、ネイティブ山形弁に苦心しながらも、地域の製材所の親分にうちの「跡つがねぇか?」と言わしめるまでの信頼関係を得るまでとなった案件です。 この案件で設計者として印象に残っていることが2つあります。 1つ目は「木材を活かすも殺すも設計者次第」 高畠町の木材は節や飛び腐れなどが多く、一般的な上小、無地などの材はごくわずかしか取れないという個性的な材でした。建築の柱、梁などの構造材から天井、床などの内装材、造作家具の材料まですべてに使用するため、いかに限られた原木を余すことなく有効に使いきるかというのが歩留まりを上げる、つまりコストを抑えることに繋がる重要なポイントとなります。タニチシステムはこの歩留まりを上げるということが重要な任務の一つとなります。ただ、設計者が迂闊に上小や無地などと図面に書いてしまうとその仕様に合わせなくてはならなくなり、原木の材料が不足したり、ごく一部だけしか使用できずに残りの使い道が無くなってしまうということが起こります。設計者が使用する木材の特性や個性を把握して適材適所で材のグレードや仕様を選定することが肝心になるということになります。 この案件を通じて設計者として図面への指示が非常に重要であること、木材の知識が不足していること、個性の強い地域産材を有効に使うには大事なスキルなのだと感じました。 2つ目は「木材という素材を通じての人の気持ちをつくる」 設計が決まり、実施設計を進めて行く当初一緒に行動をしていたのですが、町の公民館で町内の3つの製材所の親分たちを集めての打合せ、はじめは怪訝そうに大阪弁の兄ちゃんを見つめ、目も合わせないような雰囲気でした。その他にも置賜地域の協力してくれそうなに森林組合や木工加工所をプレゼン用の動画を片手にドサ回りのように説明を繰り返しました。はじめは距離を置いていた製材所メンバーも徐々に協力してくれるようになり、最終的には冒頭の跡取り発言につながる信頼関係を築くまでに至りました。製材所の親分が誇らしげに図書館の天井を見上げている姿が印象に残っています。単に丸太を挽くという作業だったものが自分の町のこの施設を作ったんだという誇りになり、まさに人の心をつくるタニチシステムだと思いました。
三重県多気町に新設された巨大リゾート施設(VISONの木育棟の建築設計、木材調達監理を行いました。建物は木造平屋で構造と遊具(モッキンガム)が同一モジュールで構成され、建築・家具が一体となった木育施設です。この案件の木材調達の面ではタニチシステムのもともとのネットワークがあったためそれほど苦労はしなかったと思います。それよりも、地元の工務店とのやり取り、途中で何度かスケジュールに見直しがされたことによる変更調整事が大変で、それもタニチシステムの役割となっていました。特に地元松坂の工務店の工事担当者がお金と収まりに厳しい百戦錬磨の方で、関西弁で設計者がまくし立てられていました。しかし、一切怯むことなくそれを上回る関西弁で応戦し、本人飲めないのに毎回決起集会と称して飲み会を開催し「何回決起集会やるんやぁ」と担当者に嬉しそうに言われつつ、いつしか仲良くなっている姿にタニチシステムの懐の深さに頼もしさと同時に恐ろしさを感じました。いつの間にか地域のおじさん達を取り込んでしまうのがタニチシステムの真骨頂なのです。
この案件の詳細はタニチシステムの本文で詳細は書かれています。また、実施の設計はパワープレイスのメンバーが担当してくれたので設計というよりもコンペ時のエピソードを少し書きたいと思います。
現在、木造建築や内装の木質化を推進していくために法の整備や様々技術や材料の開発が進められていますが、これからの木造建築は「大きな木造」と「小さな木造」に2極化していくのではないかと考えています。「大きな木造」は木造の高層建築、超高層建築などCLTやハイブリッド構造など様々な技術を駆使した大規模建築で大手ゼネコンやデベロッパーがこぞってやってくれています。一方「小さな木造」は住宅は元より公共建築でも高畠町立図書館くらいの比較的小規模のものや内装のリノベーションなどがそれに当たります。小さな建築はその規模だけではなく材料の調達もコンパクトにして、地域の材料を地域で加工して、地域で使う、地産・地消・地加工というタニチシステムがまさにやろうとしていることに繋がります。そしてタニチシステムを最大限活かすためには木材という素材の特性、加工のこと、流通のことを理解した設計者が必要になると思っています。そしてその一助になれればと考えています。