連載
  いろいろな樹木とその利用/第2回 「クサギ」 
文/写真 岩井淳治
  杉だけではなく様々な樹木を紹介し、樹木と人との関わりを探るコラム
 

この連載にふさわしい樹木はないだろうかと常日頃考えるようになりました。
基本的には、人との関わりが深いもの、様々に利用されてきたものなどを優先的に取り上げていくのですが、個人的には「香り・匂い」にも並々ならぬ興味がありますので、匂いのよい樹木も優先順位が高くなります。そんな訳で、第2回目は「クサギ」です。

   
 
   
  クサギ
  クサギ
   
 

8月〜9月頃にかけて花が咲くクサギは、北海道から沖縄まで分布しています。日当たりがよい山地に生育しますが、高さ3m程度までしか大きくならない低木性の樹木です。クサギは特別な病害虫がいないことでも知られ、砂防地の安定化のための緑化樹木としても用いられます。
写真は8月13日に撮影したもので、遠くから見ても白い花とピンクのつぼみと深緑の葉が目立ちます。
そんなクサギですが、どのように使われてきたのでしょうか。

   
  ●葉を食用・薬用に
 

クサギの語源は葉っぱが臭いことによるもので漢字では「臭木」と書いています。臭いといっても、人それぞれでしょうが、ビタミンの匂いがします。錠剤のビタミンB剤(強力わかもと等)の匂いといえばお分かりでしょうか。
「くさい」というと悪臭のイメージになりますが、胸が悪くなるような悪臭でもありません。通常の葉っぱの青臭いにおいとは違っていることは間違いありませんが、まあ、食用にするくらいですから・・・、見かけたら葉っぱのにおいをかいで見てください!。私は東京の空き地などでも見かけたことがありますので、気にしてみればよく見かけると思います。
クサギは若葉を山菜として食用にしていました。乾燥して保存もでき、生だと野菜と同じように新芽や若葉を青菜として利用していたとのことで、佃煮に適するそうです。食べてみたいと思っているものの、なかなかチャンスがありませんが、クセがあるのできっと天ぷらにも合いそうな気がします。
『紀南六郡志』という書物によると、柴を刈ったあと、来春にその根から直接出てきた新芽をツチクサギと言って、普通の新芽と違い上等のものとしていたようです。
クサギは新芽の時期を逸しても薬用に利用できる優れものです。ただれ、皮膚病に葉の汁を塗布したり、煎汁を家畜のしらみ駆除に。民間療法で利尿・健胃には、根皮を煎じ服用していました。
ちなみに、根株の中にいるクサギの虫は子供の癇の薬にしたそうです。

   
  ●花の香り
 

クサギという名前に引っ張られてしまうせいか、臭いと思われるようで、花の香りに注目が集まらないようですが、なかなかどうしてよい香りがします。甘く、ほのかにユリ・ジャスミン様の香りを含んでいるようです。嗅ぐ機会があれば是非お試しください。
ハゴロモジャスミンの香りをご存知の方は、あの花の香りと似ています。ちょっと見には花もジャスミンに似ていますが、ジャスミンはモクセイ科なのでクマツヅラ科のクサギとは異なります。

   
  ●染料
 

染料にする植物はいろいろな種類がありますが、青系統の色が出るものは多くありません。その少ない青色を染めるのはこのクサギの実です。クサギの実は赤いがくの先に瑠璃色の豆のような実がつきその対比が美しいのですが、古くから「常山の実」といってこの実をあつめて青色の染色材料にします。媒染材を使わないで青い色を染めることが出来ます。
また、きれいなその枝を生け花にも利用します。

   
  ●方言 別名
 

樹木を覚え始めたころは方言名などには興味がなかったのですが、今は、方言名こそ重要な情報が詰まっており、方言名を良く知ることが必要だと思っています。
クサギリ、ヤマギリ、クサッキ、クゼノキ、クサギナ、クサナギ、クサイナ、ツチクサギ、クジュ、クジュウ、クジュナ、コクサギ、トリバ、トヨバ、トゥバイ、トゥバエ、トゥノキ、トンノキ、トゥゴロノキ、トノスギ、トノキ、ツゥノキ、トンノコムシノキ、ムシッコノキ、ミソブタ、ヤマウツギ、キノメ。
「常山の実」の常山というのは本来「恒山」で、中国の山西省の地名から来ているのですが、宋代の真宗帝の諱(いみな)が「恒」だったため、おそれはばかり「常」としたものです。別の話になってしまうので詳しくは省きますが、こういうものを避諱(ひき)といって中国では皇帝の諱に使われた文字を使用するのを避け、別な字で対応したため、改名させられたり地名が変更になったりした事例が結構あります。

   
  ●材
 

沖縄では材をイカの疑似餌(餌木:えぎ)にするといいますが、今でも使っているのでしょうか? ウルシの材で作るとよいとも聞いたことがあります。木で作ると釣果が違うらしいのですが、試してみたことがないのでわかりません。ご存知の方教えてください。
下駄にも使いました。文献では「下駄」としか書かれていませんが、クサギは下駄の全体を作れるほど大きくなれないので、がんばっても小さめの下駄の歯くらいしか取れなかったのではないかと思います。前回のホオノキが下駄の歯では有名ですね。

   
   
 

【標準和名:クサギ 学名:Clerodendron trichotomum THUNB.(クマツヅラ科クサギ属)】

   
   
   
  ●<いわい・じゅんじ> 某県にて林業普及指導員を務める。樹木の利用方法の歴史を調べるうち、民俗学の面白さに目覚め、最近は「植物(樹木)民俗学」の調査がライフワークになりつつある。
   
 
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