連載
  いろいろな樹木とその利用/第3回 「カツラ」 
文/写真 岩井淳治
  杉だけではなく様々な樹木を紹介し、樹木と人との関わりを探るコラム
 

においにひきつけられる私ですが、このカツラのにおいは、いままでの良い匂いとか悪いにおいとかとも違い、不思議な匂いです。
詳しくは本編で、第3回目は「カツラ」です。

   
 
   
  カツラ
 

カツラの葉

   
 

葉っぱの形が全体的に丸く基部がやや心形(ハート型)になるカツラは、全体的に愛らしい雰囲気が漂う樹木です。各地でよく並木に整備されているのでご存知ではないでしょうか?北海道から九州まで分布しています。湿り気のあるところを好むため、河辺や沢沿いなどに多く、時々大木を見かけます。カツラの大木は、どちらかと言うと単独の幹が太くなるものよりも、多数の幹が叢生する傾向にあり、ほうき状を呈します。それは枝の先端の芽が発達しないために側芽が伸びて枝分かれするためです。しかし、高さは25〜30mにもなる高木性の樹木です。
そんなカツラですが、どのように使われてきたのでしょうか。

   
  ●囲碁・将棋の盤といえば
 

囲碁・将棋盤は結構カツラ材で作られています。高級品にはカヤが使われていますが、通常の良品ではカツラ盤が一番多く使われているようです。
囲碁・将棋が趣味の方は、自分の使っている盤をよく観察してみてください。茶色味がかっていて木裏(木の中心部分が表面になっている)ならカツラの特徴ありです。黄色系でつやがあればカヤと考えられます。
薄っぺらな盤は、外材の可能性があります。

   
  ●材の利用
 

材が緻密で均質なので、彫刻材や鋳物・靴木型、和裁の裁ち板、洗濯板(懐かしい)、洗濯の張り板、引出しの側板にも利用されてきました。大きな材が得られることから仏像にも多く用いられ東北地方の仏像はカツラ材を使ったものが主体ということです。
材が通直なため、建築にも使われ、造船、家具、橋梁などにも利用されてきました。

   
  ●その他の利用
 

カツラの材は、各種図鑑によると樹皮にタンニンが多く含まれており耐久性があるため、屋根葺き材料に利用したとの記載がありますが、カツラの資源量分布から考えるに、本州以南では屋根葺きに使えるほど皮を確保するのは非常に困難ではないかと思います。普通は資源量の多い針葉樹樹皮(スギ・ヒノキ)で屋根葺きしていますので。
実際、北海道にはまとまった資源量があることを考えると、屋根葺きはアイヌの民家で使われていたものだと考えられます。
抹香原料にも使われました。抹香は『沈香と栴檀との粉末。今はシキミの葉と皮とを乾かしたものを粉にしてつくる。(広辞苑)』とあるように、シキミが生育しないところでは、作れません。カツラの葉はある種の香りがあるため葉を粉状にしたものを山村では抹香代わりに焚いていました。私も、同じように作って焚いてみたことがありますが、ただの枯葉を燃やしているのとは明らかに違い、お香の風情があります。
樹皮にタンニン分を多く含むことから鉄媒染で紫褐色から紫黒色を染めることが出来ます。緑葉でも染められ黄色系の色がでます。

   
 
 
カツラ 点描の絵画のような雰囲気
   
  ●香り
 

かつらは「香の木」という別名もあり、香りがあることで知られていますが、香り好きな私もこのカツラについては大変不思議な香りがしますので、気になっております。
「POINT図鑑 香りの植物(山と渓谷社)」という図書によると、カツラの香りは「醤油せんべいの香り」と表現してあります。果たして、どのような匂いなのか?興味がある方は、カツラの落葉をかいでみてください。新しい葉では、醤油せんべいの香りが目立たないようです。
落葉は醤油せんべいの香りに少々の甘い香りがあります。

   
  ●方言
 

樹木を覚え始めたころは方言名などには興味がなかったのですが、今は、方言名こそ重要な情報が詰まっており、方言名を良く知ることが必要だと思っています。
カモカツラ、シロカツラ、コウノキ、カツラノキ、アカキ、ヲカヅラ、カツラキ、カツラギ、カヅノキ、コウノギ、オコウノキ、カズラ、タマカツラ、イヅカツラ、トミノキ、ショウユノキ、マッコ、マッコノキ、マッコウノキ、アオイノキ (上原敬二著 樹木大図説T より引用。歴史的かなづかいは改めた。)
やはり「醤油の木」という言い方もあります。英語名は「katsura tree」で、日本語のままです。

   
  ●花
 

雌雄異株のカツラですが、花を見たことありますか?花と言っても、よく見かけるような花とは異なっています。
4〜5月ごろ葉に先立って花弁もがくもない雄しべだけ、雌しべだけの花をつけます。写真がないのですが、WEBで探せばありますので、興味がある方は探してみてください。
こういう花を持つのは、カツラが植物の進化系統上原始的な種であることをあらわしています。

   
   
 

【標準和名:カツラ 学名:Cercidiphyllum japonicum Sieb. et Zucc.(カツラ科カツラ属)】

   
   
   
  ●<いわい・じゅんじ> 某県にて林業普及指導員を務める。樹木の利用方法の歴史を調べるうち、民俗学の面白さに目覚め、最近は「植物(樹木)民俗学」の調査がライフワークになりつつある。
   
 
Copyright(C) 2005 GEKKAN SUGI all rights reserved