連載
  杉で仕掛ける/第15回・実践編 「杉コレクションの想い 『十戦九敗、一勝!』」 
文/  海野洋光
   
 

「杉で仕掛ける」も15回になるんだとしみじみ思う。宮崎も秋の気配が、次第に色濃くなって稲穂が頭を垂れている。

木材界の中で海杉がどのような位置にいるか、考えてもいなかったのですが、ふっとある方から、「君、しつこいね!」と言われた。これは、嫌味ではなく、海杉に対する最大の賛辞と私自身、感じている。

ある設計屋さんが、木材を使おうと図面を描き、構造計算までして、大きな会社の施主(社長)に持って行こうとした。すると、その会社の技術担当は、「木材は・・・」と言葉を濁し、木材は外すように即決の指示を出したそうだ。よほど悔しかったのだろう、海杉に電話をかけてきた。「せめて、施主にこの図面を見せたかった…」

海杉は、「10年後いえ、早くて5年後の勝負ですよ。焦らずにひとつひとつ王道を行きましょう」と答えた。そう、木材を使うことは、王道なのだ。このようなことは、当たり前で、仕掛け自体は、10も20も出している。しかし、現実は、実りある実績になるのは、「ひとつ」か「なし」だ。いくつも出しているから、似たようなものがある。担当になった方は、「またか」と思うかもしれないけれど、この手法しかないと考えている。安い木材を大量に使用する時代は、必ず、終焉する。経済コストで考えるなら、木材は、付加価値をもってなるべく高く売ることが必要だ。それだけ、現実は、安すぎる価格になっている。

前述の話は、プレゼンテーションの前に海杉は「本当に喜ばれるものを作ろうと示せれば、採用されなくても良いじゃないですか。設計って使う人に喜ばれるもの作って本当の意味があると思いますよ」と生意気なことを言っていたのだが…。現実は、その前に落とされたのだ。

それでも実績は、少しずつではあるが、作ってきている。どの地域よりも作っている自信はある。このように話していると同じ問題に直面している方が、たくさんいることを知る。もっと木材を使われるようにしないと肌で感じている同志だ。この原稿を書いているときにも、ファックスが流れてきた。別の物件での不採用のファックスだった。
「木材の時代が、必ず来る」信じても、現実は、うまくいかない。そんなとき、一番苦しいのは、後ろからばっさりと切られることだ。

木材を屋外で使用するには、「10年の保証をしなければならない」と言われた。10年保障を付け、製品に自信を持ってお勧めしている。ところが、「塩見橋の木製手摺は、毎年、こどもたちを使ってメンテナンスをしているではないか。毎年、メンテナンスを行なわなければならないなんて…」と…。宮崎県庁の技術の担当の言葉である。公共工事に住民参加で愛着を持ってもらおうと行なっているイベントが、木材技術の不信となって、木材を使わない言い訳に使われているそうだ。この事業は、これからの公共工事のベクトルなのに!!このような技術者にはもう、期待しない。イベントに参加してくれた当時、小学生だったこどもたちは、もう高校生だ。ときどき、声を掛けてくれる。この子達が、証人だ。自分たちの橋を自分たちでメンテナンスして何処が悪いのだ。こんな素敵な公共施設はどこにもないだろう!!と「ふっ」と怒りが込み上げてきた。

怒ると冷静になる不思議な体質で、「メンテナンス」と言う言葉が悪かったかなあ。「清掃ボランティア」にすれば、県庁の多くの技術者も勘違いしないで済んだかなあ。と頭をよぎった。こんな些細なことを考え、毎日のように駈けずり回っている。いつか報われる日が来るのだろうと頑張っているのだが、ほぼ、殆どが負け戦だ。木材に当たる風は、本当に厳しい。

5年前、日向で開催した杉コレクションが終了して、すぐに来年の宮崎県木材青壮年会連合会の会長が日向にやってきた。来年の事業についての相談だった。「東京で宮崎のPRをしたい」と申し出た。早速、事業の開始の準備をする。東京事務所の職員の方を通じて宮崎のアンテナショップKONNNEに「内装に宮崎の杉を使ってほしい」と申し出るのだが、法律を楯にやんわりと断られる。それでは、宮崎県産杉の商品棚をこちらが提供するので置かせて欲しいと申し入れる。やっぱり、KONNNEの商品は、宮崎県の企業が会員になった方の商品で会費を払って売っているそうで会員でもない団体の商品は、置けないとのこと、それでは、会長は会員だから会長の会社の商品としてはどうだろうかと粘るのだが、杉に対しての知識がないとこれも断られた。屋外に杉の屋台を出してワゴンのように使用する案も出すが、鉄道会社の許可がいるとこれもダメ。まだ、たくさんアイデアを出したが、書くと憂鬱になるのでやめよう。
こんなやり取りをしていて、思ったのは、実権のある担当が「置きたい」と思うようにならなければ、絶対に担当は、どんな理由をつけてダメ出しをするということだ。

もう、分かっていただけるだろうか?

今年の杉コレクションの「思わず欲しくなる・・・」このフレーズは、こんな苦い経験から生まれたものなのです。

   
   
  *「杉コレクション2008」の詳細はこちらのオフィシャルサイトをご覧ください。
   
   
  ●<うみの・ひろみつ> 日向木の芽会 / HN :日向木の魔界 海杉
「杉コレクション2008」 実行委員長 http://www.miyazakikensanzai.com/mokuseikai/sugi_collection/
   
 
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