連載
  続・つれづれ杉話 (隔月刊) 第3回 「12月のグラフィック的ギモン」
文/写真 長町美和子
  杉について、モノづくりについて、デザインについて、日常の中で感じたモロモロを語るエッセイ。 
 
今月の一枚
  ※話の内容に関係なく適当な写真をアップするという身勝手なコーナーです。
 

 

  か、顔がでかすぎて入らん
 
   
  でも、届くもんねー
 
   
 
   
  12月のグラフィック的ギモン
   
 

毎年、この時期になると不思議に思うことがあります。それは日本人の日常生活における日曜日の位置づけについて。

ふつうのカレンダーは、壁掛け用のも卓上用も日曜始まりが基本なのに、なんで手帳は月曜始まりが主流なんでしょう。会社勤めの人は月曜から金曜までが生活のメインで、スケジュールを書き込む場合も「今週」といったら月曜日から始まるのがわかりやすいのかもしれないけれど、世の中の働く人の定休日というのは必ずしも土日とは限らないでしょう?(ほとんど休みなくずるずる仕事をしている私のような人もいるし)

 どっちかに統一されている、というのなら問題ないんですよ。ただ、個人的に見開き式で1ヵ月が一度に目に入るカレンダー式のスケジュール帳が好きなのですが、これが月曜始まりになっていると、仕事場に掛けてあるカレンダーと曜日の位置が違うので、書き込みのある日が火曜なのに、パッと見て「左から2番目の日だから月曜日」と思い込んでしまったりするんです。「システム手帳だったら日曜始まりのルーズリーフがあるよ」という声が聞こえてきそうですが、システム手帳は、あの厚さ、ふくらみ、重み、仰々しさが嫌いなのです。もっと薄っぺらくてシンプルな、小さな手帳が欲しいのです。でも、単年度使い切りタイプの手帳については、圧倒的に月曜始まりが多いのはナゼ? 

「そういうのって業界の決まりごとだからさぁ」って声も聞こえてきそうです。だいたいそんなのグラフィックデザインの問題じゃないよね、って。いやいや、それもデザインだと思うなぁ。使いやすく、かつ美しく、喜びを感じさせてくれるのがデザインである、というのは、プロダクトも印刷物も同じでしょ? ボスターだって、パッケージだって、単行本だって、教科書だって役所の文書だって、見る人や読む人、書き込む人のことを考えてデザインするのが当然だと思う。年明けになると気になる確定申告の用紙なんてサイテーのデザインだ、と毎年思うわけです。一緒についてくる説明書も。

一度、腹が立ったのは、ある銀行の住宅ローンのシミュレーション(借りられるかどうか事前に審査する)申込書。上からずーっと住所、氏名、年齢、勤め先、業種、勤続年数、年収、他にローンを借りてないか、変動がいいか、固定がいいか、何年で返したいのか、などなど、いっぱい書かせたあとで、小さく欄外に「*自営業の方は郵送する前にお問い合わせください」ってあるわけですよ。それで、自営業の、それも社長兼社員兼小使い兼掃除婦のワタシは、言われたとおり記載されていた電話番号に電話をしました。そしたら「あぁ、すみませんね。このローンは自営業の方は対象ではないんです」だって。ヒドイ! それならそうと、勤め先記入欄のところにでも大きく太字で「自営業の方お断り」って書いておいてくれればいいじゃないさ。ものすごく自営業を否定されたような(ような、じゃなくて、はっきり否定されたんだけど)ざらついた気分になったわけです。どうせ不安定で、まともにお金を借りられる身分じゃありませんよ、あーすみませんね、と。

そこでワタシは「不親切ですね」と低い声で担当者を脅しました。「これじゃまったくわからない。用紙のデザインを考え直した方がいいんじゃないですか」。そしたら、それまで低姿勢だった電話の向こうのオジサンは「え? デザインは悪くないと思いますよ」と、ケロリと言い返してきたのですよ。ばかばかばか! 彼の頭の中にある「デザイン」なるものとは、銀行名の書体であり、ローン商品のロゴであり、キャラクターのイラストであり、まぁ思いついてもせいぜい文字の色や、罫線の太さくらいなもんだろう。

 ま、そーいうもんなんだろうな。手帳? もう最近は使わなくなりました。取材日の約束とか、打ち合わせの予定は仕事部屋のカレンダーに記入するだけで、出先では取材ノートの端っこにメモするだけ。それで支障がないんだからいいんだけど、でも、毎年12月になって、本屋の店先に色とりどりの手帳が並ぶと、つい手にとってみたくなるのです。どうかなぁ、そろそろ私の思いを汲み取ってくれる手帳が登場しているかなぁ、と。   

   
   
   
   
  ●<ながまち・みわこ> ライター
1965年横浜生まれ。ムサ美の造形学部でインテリアデザインを専攻。
雑誌編集者を経て97年にライターとして独立。
建築、デザイン、 暮らしの垣根を越えて執筆活動を展開中。
特に日本の風土や暮らしが育んだモノやかたちに興味あり。
   
 
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