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いろいろな樹木とその利用/第10回 「マタタビ(ミヤママタタビ)」 

文/写真 岩井淳治
  杉だけではなく様々な樹木を紹介し、樹木と人との関わりを探るコラム
 
世の中ペットを飼っている方は結構いらっしゃいます。メジャーな犬や小鳥、ほかにもリスや爬虫類など様々なペットが飼われています。
私は猫が好きなんですが、ちょっと飼うわけにはいかないので、猫を飼っている家に行くときは、猫を手なずけるため、山で見つけたマタタビの幹を土産にしていました。人間が噛んでも別に何ともないものですが、寝ている猫の鼻先に近づけたらものすごい勢いで食いついてきました。
第10回目は「マタタビ(ミヤママタタビ含む)」です。
   
 
   
  マタタビの白い葉
  マタタビの白い葉(平成21年5月24日撮影)
   
  6月〜7月頃に花が咲くマタタビは、本州から九州まで分布(ミヤママタタビは北海道・本州(中部以北))しています。アケビ同様つる植物で、山地に普通に見られ、谷間、渓流沿いを好みます。葉の一部が5〜6月頃になると白く変化するので、よく目立ちその時期になると見分けが簡単です。
某女性歌手がこの果実の塩漬けが大好きだと聞き、なかなか渋い味覚だなと感心したことがありますが、誰だかご存じですか?詳しくは本文で。
そんなマタタビですが、どのように使われてきたのでしょうか。
   
  ●食用に
  マタタビの果実は塩漬けにしたものが時々売られていますが、独特の香りがあり、とてもおいしいものです。先ほどの歌手というのは浜崎あゆみさんで、彼女はライブ前などに塩漬けのものを好んで食べているとのことです。
何年か前になりますが、「浜崎あゆみは『生の』マタタビをかじって疲れを癒しているらしい」と知人から聞いたので、実際食べてみました。生のマタタビの実を食べたことがある方はご存じだと思いますが、生の実は物凄く辛いんです!この辛さは唐辛子の辛さでもなくワサビとも違うもので、あまりの辛さで結局実のひとかけらだけしか食べられず、その後舌が1時間くらいしびれていました。「とてもじゃないがこれを生で食べているというのは信じられない!」というのが率直な印象でした。実際には生ではなく塩漬けを食べてると、最近知りました。納得。
生では食用に向きませんが、塩漬けになるとあの辛みがすっかり消えてしまいます。新芽をゆでて和え物などで食べることも出来ます。
   
  ●薬用・入浴剤に
  同じマタタビの実でも、食用にするのは細長い楕円形のほうですが、薬用には円形で表面がでこぼこした虫えいを使います。生育場所によっては、殆どの実が虫えい果という場合もあります。
これはマタタビミタマバエが寄生したもので、生薬名「木天寥(もくてんりょう)」と呼ばれ、冷え性、神経痛、リュウマチ、腰痛に、焼酎漬けにしたものや乾燥して粉末にしたものを利用します。
また、入浴剤として葉やつるを使うと、筋肉の疲れや凝りに有効なのでお試しください。原色薬草(家の光協会)によると、「葉を刻み、手ぬぐいを2つ折りにした袋にかたく詰め、浴槽中に投入して入浴する」とかかれています。
   
  ●猫とマタタビ
  マタタビの粉末や幹を10cmくらいに切ったものがペットショップで売られています。マタタビが猫の好物というのは昔から有名で、猫の薬とも言われていますが、実際の所は猫にとっては麻酔的な効果があるに過ぎず、役に立たないとの説もあり薬の効果のほどはよくわかりません。
しかしネコ科のライオン、虎などもマタタビの匂いに同じように反応し、マタタビを噛んでいると興奮状態になり、酒に酔ったようになるとのこと。マタタビの中に猫の発情期の尿に類似した匂いが含まれているためこのような状態になるようです。成分はマタタビラクトン、アクチニジンというマタタビ酸で、猫の大脳や延髄を麻痺させるのですが、子猫やイリオモテヤマネコは興味を示さないようです。
   
  ●語源と方言
  マタタビの語源はいろいろな説があります。
  (1)アイヌ語のマタタムブから来ている。マタは冬、タムブは亀の甲の意味で、虫えい果の表面の形から名づけられたのである。
  (2)ワタタビの転。ワタタビとはワルダレミ(悪爛実)が転じたもの。
  (3)果実が二種類生えるのでマタタビという。
  (4)旅で疲れて路傍に腰を下ろした弘法大師がマタタビの実を食べて元気になり「また旅をすることができた」から
   
  方言では、タビグサ、ネコナブリ、マタタブ、マタブ、マタンブ、マッタブ、マンタブ、マンタビ、ナツウメ、フユウメ、ウラジロカズラ、カタジロ、カタジロカヅラ、ウラジロ、コツラフジ、ハシカズラなどと言われています。
ナツウメは花が梅の花に似ていて夏咲くから、カタジロ・ウラジロというのは、マタタビの葉が5〜6月に白く変色することからきているようです。
写真のように白い葉になりますが、表面だけで裏側は、他の葉と同じです。
  表面   裏面
 

表面

裏面

   
  ●その他の利用
  マタタビのつるは強靭なので、木材をいかだに組んで流送していた時代には筏を編む縄として利用したり、山中にかけた吊り橋の材料としていました。
また、4つ割にしたものを加工して、ざるやかごを編む材料にしますし、火を保存するためにつかっていた「火縄」の材料としてアイヌではマタタビなどの樹皮を利用していたそうです。
 
  強靱なつるでいろいろな道具に使われました。
   
   
  【標準和名:マタタビ 学名:Actinidia polygama (Sieb. et Zucc) Planch.ex Maxim.(マタタビ科マタタビ属)】
  【標準和名:ミヤママタタビ 学名:Actinidia kolomikta (Maxim. et Rupr.) Maxim.(マタタビ科マタタビ属)】
   
   
   
   
  ●<いわい・じゅんじ> 樹木の利用方法の歴史を調べるうち、民俗学の面白さに目覚め、最近は「植物(樹木)民俗学」の調査がライフワークになりつつある。
   
 
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