連載
  杉で仕掛ける/第20回
文/写真  海野洋光
   
 
先月号は、体調が、悪くお休みさせていただきました。書いた原稿は、別の機会にしたいと思います。南雲さん、堂元さん、ごめんなさい。
   
  今月は、一人で奮闘している行政マンを紹介します。
「杉で仕掛ける」という言葉に「自分では直接、手を下さない」と言う意味が、あるように感じますね。しかし、本当は、仕掛けて、仕掛けてこれでもか、これでもか、とへとへとになるまでやっている自分がいます。スギダラ法人会員川上木材の川上宰社長の言葉を借りると海杉は、「ドロドロになるまでやっている奴」らしい。
2月から4月かけてどうも体が思うように動かない。4月末には、病や疲れがピークに達している時に、運悪く、日向市駅では、一大イベント「西口交流広場のオープニングイベント」が開催される。どうしても、出たくて、注射や点滴を受け、無理無理、皆さんに会ったのが、運のつき、ゴールデンウィークは、もうほとんど体が動けない状態でした。
そんな時期に海杉宛てに封筒が届きました。この日は4月21日の46歳の誕生日で痛んだ体の海杉には、何よりのプレゼントでした。
送っていただいたのは、スギダラの活動を参考にしつつも、独自にしかも、素敵に仕掛けた静岡県川根本町の産業課の鈴木浩之さんです。彼は、森林ジャーナリスト田中淳夫氏のブログ「だれが日本の「森と木と田舎」を殺すのか」のコメントで知り合った仲なのです。日本の森林・木材行政は、今、方向が定まらず、多くの森林・林業の行政マンが、現実と理想の挟間でもがいています。そんな中で、スギダラの活動や杉コレクションの動きは、とても新鮮に見えたのでしょう。窓山や表丹沢でも、デザインコンペを起爆剤に動こうと行っていますが、鈴木さんも地元の人たちと一緒になって動き始めました。
  アイデアを思いつくことは、簡単です。そのアイデアを実行して結果を得るには、考えられないくらいの労力が必要なのです。
ここからは、鈴木さんの文章をご紹介します。
   
 
  デザインコンペに向けて、も地元の人たちと一緒になって動き始めた鈴木さん
   
 
   
  ベンチコンペ、コースターコンペを終えて 〜 そこから、はじまっている 〜
 
静岡県川根本町役場林業室 鈴木浩之
   
  静岡県川根本町は、民有林約1,000ha(8人の林家)と町有林でFSC森林認証を取得しました。グループ取得です。グループ管理者は町長、事務局を町産業課が務めます。FSC森林認証は、森林組合や林業行政関係者、林業事業体の皆さんにはある程度認知されていますし、製紙業界や印刷業界にも知られている制度です。しかしながら、林家にはあまり知られていません。消費者にもほとんど知られていないのです。私も、林業担当にならなければ、その前職が水道担当でなければ、これほど入れ込んだかどうだか、わかりません。森林管理をマニュアル化して、林家に施業記録を作成させ、そんなことをしていながら、町内林家のグループへの参加やCOC事業者を作ることをはじめました。普及啓発です。シンポジウム、パンフレットの作成などを行います。でも、イマイチ手ごたえがありません。なにか、いい方法はないか、考えました。
   
  時に、造林事業や作業路、利用間伐への誘導、野生鳥獣関係、特用林産物新規事業など、何がなんだか分からない状態です。あまり手がかからず、しかも相手が能動的にFSC森林認証を知ろうとする手立て、事業者がおのずとFSC森林認証を学ぶ手立てはないものかと思案した結果が、ベンチコンペ、コースターコンペでした。
   
  ベンチコンペは、町内の工務店が協力してくれました。小さい町ですから、知り合いも多いのです。審査により1社を絞り、COC外部委託先に指定して、FSC認証製品を生産することが出来るようになりました。賞品は、入賞作品の製作受託です。予算で5台を作成。他の予算から流用して2台追加しました。役場庁舎で実際に使っています。
   
 
  ベンチコンペの様子。全部で7台作成。
 
  コンペでつくったベンチは、役場庁舎で実際に使っている
 
  コースターコンペ
   
  コースターコンペは全国公募です。「海杉木材コンシェルジュ」にも掲載していただきました。高校、大学の同級生のブログにも(強制的に)乗せてもらいました。町のホームページの該当ページへのアクセス件数は2,000件、応募作品は231点でした。作品が集まるにつれ、私ともう一人の担当者はあせりました。「審査が難航する」と予測できたのです。見ていくと、どれも「よい」のですから。役場担当者で、製作コスト、製作できるかどうか、ヒノキに合うかどうか、FSCのコンセプトに合うかどうかで、半数に絞りました。それを審査員の方に審査してもらうのですが、得点で決定することにしました。得点上位で選ばれた作品に審査表に書かれた審査員のコメントをまとめて総評に代えました。試作として480枚製作しました。そして・・・・・。
   
  ベンチを役場で使い始めました。コースターを配布し始めました。配布が完了すれば一段落。ほっとできる。と思っていたのですが・・・。
うれしいことに、静岡県志太榛原農林事務所から嫁入りの話が出ました。チャンスとばかりに1台引き渡ししました。コースターも所長が気に入ってくれて、所長自ら配布してくれます。ベンチは、藤枝市からもオファーがありました。
   
  藤枝市は家具が地場産品なのに。協力、連携も約束してもらいました。コースターは、山のロッジを経営している土木事業者の方からもオファーがありました。別の企画や展開も提案してもらっています。
   
  ここまでお話をすると、いいコトずくめだったように思われるでしょう。小さな町ですから色々なことが起きます。1つの業者との連携を深めれば、さまざまな憶測が出てきます。コースターの木材使用量は微々たる量ですから、無意味だとの声も・・・。家を1軒建てるほうが、現実的だとも・・・。でも、応援してくださる方々の方が、圧倒的に多いですけど。
引き合いは当分続きそうです。新しい展開を待ち望む声も。あとは、COC業者でやっていくことになるでしょう。町内にも取得したいとの声が出始めています。
しばらく森林管理の方の力を抜いていることに気がつきました。こっちもやらないと。
   
  1年間のこの取り組みを振り返れば、面白かった。ベンチコンペでは、作品が役場に到着するたびに業者と話ができて、関係が深まった。FSC認証制度の話も具体的に出来た。審査ではどれ場選ばれるかどきどきした。コースターコンペは、作品がメール送信されてくるたびに、審査員の気分を味合わせていただいた。特に、障害がある方たちの学校からの応募作品は1次選考ですべて落選だったけれど、すべて製品化したかった(今は、実現する方法を思いついていますよ)。デザインが木製品になった時は、眼を見張った。これは、「ウケル!」って思った。
   
  行政職員ではなかなか体験できないような仕事をさせていただきました。
さて、そのネタ元は・・・。日本全国スギダラケ倶楽部とこの月刊杉web版と海杉木材コンシェルジュなのです。本当にありがとうございました。
コースターは、杉ではなくヒノキでしたけれど・・・。スギコダマ、そのBIG版、とても素敵です。
いま、国の補正予算関連の業務、昨年度の繰越事業、何がなんだか分からないような日々ですけど、そんな状態でも、「次なにやろうかな」って考えています。さて、そのネタ元は?
いつもお世話になります。そして、ありがとうございます。
   
 
   
  静岡県川根本町の役場には、スギダラケなベンチが、たくさんあるそうです。
海杉のブログは、月曜日が一番多いのです。それと悩めるメールなども、公務員の方が多いですね。
   
 
全国の悩んでいる林政担当の公務員の方、動き出してください。
海杉(スギダラ)は、お手伝いしますよ。
   
 

PS・実は、海杉は、鈴木さんと、会ったことはない。スギダラの面白いところだ。

   
   
   
   
  ●<うみの・ひろみつ>木材コンシェルジュ
2009年3月31日をもって、日向木の芽会 を卒業しました。
海野建設株式会社 代表取締役 / HN :海杉
   
 
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