連載
 

いろいろな樹木とその利用/第11回 「キブシ」 

文/写真 岩井淳治
  杉だけではなく様々な樹木を紹介し、樹木と人との関わりを探るコラム
 
一年間に伸びた樹木の枝を当年枝といいます。樹木では1メートル以上も伸びるものはなかなかありませんが、この木の当年枝では2メートル近く伸びているものも見かけます。
第11回目はキブシです。
   
 
   
 
  キブシの花 (平成21年4月19日撮影)
 
 

果実 (平成21年6月27日撮影)

   
  3月〜4月頃、まだ葉が出る前に淡黄色の花を穂状につけるキブシは、春先の殺風景な林内で黄色い花をつけているため目立っています。北海道西南部から九州まで分布しています。6月ごろには花と同じく穂状に実がなっていますのですぐ見分けがつきますが、実が付いていないと、なれないうちは葉に特徴がない(マタタビやサルナシ、クロヅルなどと似ている)ので覚えるのに時間がかかります。
そんなキブシですが、どのように使われてきたのでしょうか。
   
   
  ●燈心に
  燈心というのは昔の燈台や行灯などの灯火器を使用するときに、燈油に浸して毛細管現象によって油を吸収させて点火するものです。多くはイグサの白い髄を使っていたようですが、このキブシの髄も、利用していました。
髄があるということは生長が早い樹木だったり低木性だったりします。キブシの髄はスポンジ状ですが今の素材の中で言うとウレタンに似ています。髄を押し出すときに堅く圧縮した状態で出てきますが、手で伸ばすと軟らかいウレタンの紐のようになります。(昔あった花火の「蛇玉」のようなのですが、分かりにくいですか?)
キブシ以外にヤマアジサイ、ノリウツギ、ハナイカダ、ムラサキシキブ、ニワトコの髄も利用していたとのことです。
 
 

キブシの髄 直径約4.0mm

 
 

キブシの枝から髄を押し出してみた(昔の子供遊び)

   
  ●材の利用
  材を取れるような大きな木になりませんが、呑み口や楊子の材料としました。
呑み口ってご存知ですか?樽の中の液体を注ぎ出すために差し込んだ木製の開閉可能な栓のことで、今の蛇口のようなものです。樽酒の場合は今でも呑み口を取り付ける用に樽の横に栓がつけられているものの、樽酒の飲み方は派手な鏡開きの方ばかりで行われていますので、呑み口などを利用している所を私は見た事がありません。
   
  ●お歯黒の材料、染料
  長沢武氏の樹木民俗をみるとお歯黒のことが次のように書いてあります。
「明治30年前後に生まれ、16〜22歳で結婚した婦人10人ほどに聞いたところ、約半数のかたはお歯黒をしていたという答えだった。
お歯黒染めには鉄漿液と、これを小分けして入れる容器と五倍子粉の入った容器、これらを歯に塗る刷毛と、それを洗う水を入れるたらいが必要で、これらはセットで結婚式当日、鉄漿親(かねおや)が新婦に贈る。式終了後、囲炉裏の端で、鉄漿親がまず自分の歯に塗って見せ、次いで新婦に塗ってくれる。そして、新婦は翌日からは、これを見習って自分でお歯黒染めをするのが習わしだったという。
お歯黒染めは、五倍子(第8回目に出てきたヌルデのフシのことです)を鉄媒染で黒色に染めるもので、五倍子粉は袋に入った市販品もあったが、ほとんどの農山村では、家の近くで自給できるいろいろな植物の実などを採ってきて作っていた。
タンニンを含む次のような植物の実を代用として使っていた。キブシ、ヤシャブシ、カラコギカエデ、ハンノキ。」
お歯黒の指導をする専門の人がいたのですね。キブシの実は五倍子の代わりに黒色の染料につかいましたが、枝や葉を使っても黒色系の色を得ることができます。
   
  ●語源と方言
  樹木を覚え始めたころは方言名などには興味がなかったのですが、今は、方言名こそ重要な情報が詰まっており、方言名を良く知ることが必要だと思っています。
アカウツギ、アカシバ、アズキハダ、イチミノシン、ウツギ、ウメナノキ、オトコツキヨザシ、オトコツキンボー、オナジジンガラ、カサンダ、キフジ、クロウツギ、コゴメノキ、ゴンズイ、ザトーノツエ、サワハギ、サワブタ、シトコ、ジヌキシバ、ジノキシバ、ズイキ、ズイッポ、ズイノキ、ズイノキシバ、ズサノキ、タニトーシ、ツキダシ、ツキダシノキ、ツキツキ、ツッケンダシ、トーシンノキ、トンブリ、ハナズオー、ヒノクチギ、マエンブシノキ、マメフジ、マメフシ、マメンボ、マメンボシ、メンメノキ。
全国的に分布しているせいか多種多様な方言があります。
   
   
  【標準和名:キブシ 学名:Stachyulus praecox (Sieb. et Zucc).(マタタビ科マタタビ属)】
   
   
   
   
  ●<いわい・じゅんじ> 林業普及指導員。樹木の利用方法の歴史を調べるうち、民俗学の面白さに目覚め、最近は「植物(樹木)民俗学」の調査がライフワークになりつつある。
月刊『杉』web単行本:
「いろいろな樹木とその利用」 http://www.m-sugi.com/books/books_iwai.htm
「いろいろな樹木とその利用2」 http://www.m-sugi.com/books/books_iwai2.htm
   
 
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