平泉まちてらすプロジェクト 「夢あかり+」
南雲勝志
  いま地域が生き残るために・・・
 

前岩手県平泉は新幹線一ノ関で乗り換えて東北本線で3駅目。地名の有名度に比べ意外なほど小さな駅だ。人口は8,500人ほど。一関市との合併にも入らず、独自の自治を目指している。昨年は世界遺産の暫定リストに載ったものの本審査で登録されなかった記憶がまだ新しい。
天台宗中尊寺と毛越寺、そして今は遺跡のみであるが、観自在王院跡や無量光院、柳之御所遺跡など藤原三代によって築かれた遺跡群は当時の浄土思想を忍ばせる。
しかし、それらと現在のまちの一体感というものを考えたとき、残念ながらまだまだギャップがあることは否めない状況にある。


 
さて、その平泉との関わりは4年ほど前から。毛越寺前の道路や公園の整備に関わった事がきっかけであった。始まりはよくいうよそ者のデザイナーであった。
その後はまちの魅力を町民が自分たちで考え実践しよう、というかたちのワークショップに三年ほど参加してきた。世界遺産級の資産に対し、町民がどんなまちを目指していくべきか?ということがベースにあった。 
  毛越寺通線夜景
 


日本の北の地域は一般的に南に比べ、慎重というか、ひとつひとつ確認しながらやっていくので、意気に盛り上がる感じはない。僕の中には仕事というよりは、平泉応援団として、杉ダラ的精神でみんなで一緒にやってみよう!というノリも多分にあったが、もちろん事はそう簡単に事は進まない。
一回目のWSは「平泉の看板を考える」。まちの雰囲気を大きく左右する看板をみんなで考えよう、というものであった。具体的には町民を中心に看板デザインコンテスト「まちかんこん」(まちなみを考える看板コンテストの略)を行った。小学生を含め町民から多くの応募があり、優秀作10点ほどを地場の商工会のものづくり関係者、たとえば提灯やさん、大工さん、漆職人さん、板金職人さん等が製作するというものだ。地域の様々なつくる技術を一つの目的に結集出来たことがとても印象に残った。製作した看板は今もまちなかに設置されている。
二回目は「平行政に頼らず自分たちで出来ること」というテーマのまちづくり懇談会。平泉は一般の町民を越えた専門家市民といえる方々が多くいる。ボランティアガイドや和花の専門家、子供達とイベントを行うグループ、掃除や修理を率先して行うグループなどだ。そしていくつかの提案が行われた。平泉の魅力を伝えるためのマップをつくる。修理、掃除、草取り、花植えなど身近な環境整備を率先して行おうというものだ。
そして三回目、二回目の懇談会を継承し、参加出来るイベントを実践する事になった。平泉を魅力的にしていくためにはまず、みんながっひとつの目的で繋がること。そしてまちの格となる中尊寺、毛越寺両山と町民の連携を今まで以上に深めていく。具体的には今まで婦人会を中心に行ってきたあかりイベント"夢あかり"を発展させ、人と人が繋がるようにあかりの繋がりをつくって行こうというものだ。題して「夢あかり+」。プロジェクト名は「まちてらす」まちと寺が一緒になって平泉を明るくしていこうという意味を持つ。
あかりのイベントは全国で多くある。しかし、自分たちの力で出来ることから初める。多くを望むのではなく、まず無理のない範囲で楽しめる範囲で実践する、それが最初のスタートだ、という結論に達した。

今年8月16日、送り盆の日に「夢あかり+」が行われる。当日は大文字焼きも行われ、あかりとして連動しておこなう。夢あかりでつくりためてきた600個ほどのあかり、加えて一般町民、平泉出身者、東北大の学生達にも応援に駆けつけ、2000個を目標に観自在王院跡の道路、約600mに点灯する。


 
こういう時代、基本に戻り、自分たちの出来る範囲で努力し、それを継続する。そこのところにに参加者の意志が繋がった時点で今年の目標は達したと思った。そして「まちてらす」もきっとうまくいく、そう確信した。5年後に平泉ならでは理想的なあかりの行事「浄土のあかり」に発展していくことを願っている。 今年は新潟で旧盆を過ごした後、牛乳パックでつくったあかりをもって「まちてらす」に参加する予定だ。


   平泉駅に置かれた、夢あかり


  「まちてらす」メーン会場 観自在王院跡
   
   
 
 
   
   
  ● <なぐも・かつし>  デザイナー
ナグモデザイン事務所 代表。新潟県六日町生まれ。
家具や景観プロダクトを中心に活動。最近はひとやまちづくりを通したデザインに奮闘。
著書『デザイン図鑑+ナグモノガタリ』(ラトルズ)など。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部
 
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