特集 はだの間伐材活用デザインコンテスト
  最優秀賞 里山デザイン部門 『竹ちぐら』
文/写真 高橋慎一郎
 
垂直に伸びた杉林。檜丸太を生かした木製の橋。田原ふるさと公園の脇に咲く満開の菜の花と畑で作業をする人々。秦野駅前にある昭和レトロを感じさせる洗い出しの建物。爽やかな空気感の竹林など。今回のコンテストへ出品するにあたり、初春、秦野の街、里山、そして、表丹沢を散策する中で、長い人の生活の営みと自然の叡智の両方が織り重なる中でしか生まれない風景に出会った。
   
 
  爽やかな空気感の竹林
 

そうした風景の中で、畑の片隅にそっと佇み、木で構造をつくり、竹を編み、土が塗られ、杉板が張られているタバコの乾燥小屋。大分、廃れてきているものもあるが、風合いを増し温かみのある表情を持つ外観は、牧歌的な風景が広がる秦野の里山にとても、似合っているように見受けられた。そうしたタバコの乾燥小屋の竹を編む、土を塗るという技術に着目し、里山の中に腰を据え、四季折々の風景を五感で感じる休憩小屋として、「竹ちぐら」を提案しようと決めた。

また、以前は、地域の人々によって手入れが施され、木洩れ日が差し込み秦野の里山の竹林は、爽やかな心地よさをもたらし、人々の心身を癒してくれたことでしょう。しかし、現在、多くの竹林は放置され、里山を侵食し、新たな活用の道を求められている。
 
タバコの乾燥小屋
  こうした背景を受けて、今回、秦野にある間伐材の一つである、竹材に着目した。竹は、雨に当たらず、土壁の中にあれば、100年以上は、持つ。先日、取材で訪れた長野県の明治時代に建立した土蔵の土壁に打ち込まれた竹釘が、今も立派に残るのを見て、竹の耐久性を実感した。
   
  そして、今回のコンペへ応募するにあたり、空間計画、形態、地域や風土との関係性、建設費など多岐に渡るデザインを検討し、毎度のことながら夜な夜な1週間近く徹夜を続けプレゼン資料をつくり、応募。4月のフィールド調査とプレセンテーション、5月と6月の設計という流れを経て、7月からいよいよ制作活動へ。秦野市の森林づくり課の相原さんを始め、地元の方々にもお手い頂きながら延べ46人の手で、竹を割る作業、竹を編む作業、床、杉の丸太のベンチ等の仕上げ作業を行った。同じ屋根の下で寝食を共にしながら、制作を行なうことで連帯感が生まれ、様々な人の思いを抱きかかえる器のような建物になるのではないかと考えた。そして、割り竹を編めば編む程、「竹ちぐら」は、丈夫になっていった。
   
   
  真竹を割る   秦野市の方との協働作業
   
  杉丸太のベンチをくりぬき、黄土と石灰を混ぜた材料で仕上げる   竹を編み始める
   
  竹を編み、少しづつ丈夫になる   陽を浴びる竹ちぐら
   
  出入口部分に黄土を塗り仕上げる   桜の樹の下にそっと佇む休憩小屋としての竹ちぐら
 
  ハンダ(土と石灰を混ぜた材料)を塗る前の『竹ちぐら』
   
  また、2次審査のプレゼンテーションの最後に、子供たちを初め、役所の方々、そして地元の方々にも、「竹ちぐら」の屋根仕上げの下塗りとして、土を塗ってもらうというプロセスを組み入れた。子供たちはニコニコと楽しそうに、発酵した荒壁用の泥を、「竹ちぐら」の壁に手でグイグイと押し付けていた。また、年配の地元の方は、「土はこう塗るんだよ」と直径15cm程度の泥団子を、「竹ちぐら」に投げつけ、昔のタバコの乾燥小屋や民家に荒壁を塗る光景を思い起こさせたのではないでしょうか。そして、2次審査会も終わり、その日の夜もお酒を飲みながら話し合った中で、地元の方々から、活用の方法や竹の成長の速さと竹の使用量バランスといった点などに対する批判も受けた。そうした反省点や地元の方々の要望を真摯に受け止め、現在は、様々な人々の感性と、色々な出来事が結びつくことで生まれる小屋、「竹ちぐら」をいつの日か、建てるためのプロセスと捕らえ、これからも木、竹、土といった自然素材に着目しながら創作活動に励んでいきたいと思う。
   
 
   
  ●概要
 
用途 休憩小屋(その他、野菜販売所等にも利用可能)
延床面積 6.6u
屋根構造 竹小舞構造
基礎 割栗石積み上洗い出し仕上げ
仕上げ 屋根:大津磨き仕上げ/床:研ぎ出し丸タイル
設計/施工管理 土の空間工房SoBaTo(代表:高橋慎一郎)
製作指導協力 安達洋子
製作者 鈴木智海、高達暁子、長谷川康孝、塩田研介、佐藤義治、宮地健、萩生田秀之、森孝行、秦野市環境産業部森林づくり課、高橋慎一郎
材料提供 秦野市環境産業部森林づくり課
   
 
   
  ●参加者の声
   
  ・安達洋子さん
  秦野の昔からあるものを大事にしながら、新しいものができたらいいです。竹は一本だけだと少し頼りない材料ですが、たくさん集まると頑丈なものがつくれます。また軽くて柔らかいので、施工しやすく自由なかたちができます。そんな感じで一人ひとりの自由な発想や知恵を集めて、みんなで竹ちぐらをつくっていきたいです。
  1981横須賀生まれ、柳宗理のスプーンに出会う
2000明治大学建築学科入学、日置拓人先生の授業を受けものつくりに目覚める
2004淡路島・久住有生左官弟子入り
   
  ・佐藤義治さん
  私が秦野に来たのは、竹ちぐらの制作を手伝うと、「高橋さん手作りのおにぎりとチャイ」を御馳走してもらえるという噂を聞いたからでした。「丹沢野外活動センター」に着いて、竹ちぐらの制作を始めてみると、思いのほかシンプルな工法でした。 竹と竹が交差する個所を「濡らしたしゅろ縄」で結ぶのですが、初めはグラグラしていたドームが一本、また一本と竹を足していく毎に強くなり、 人が2〜3人乗っても大丈夫な程に強くなりました。竹を一本追加するごとに、しゅろ縄で結ぶたびに、秦野の澄んだ空気やチームの人間関係、絆を、竹に編みこんでいく感覚がしました。私が参加した6日間、同じお釜の飯を食べ、同じ場所に寝泊まり、お互いのことを知り、秦野の自然・歴史を感じ取って、作品にフィードバックすることができた気がします。個性の際立ったメンバーの集まりですが、ものづくりへの情熱はみな同じ。南雲さんに、「こんなでたらめなやつらがつくる竹ちぐらもいいじゃない。」とお褒めの言葉を頂きましたが、チームを評価して頂けてとても嬉しかったです。 食事会のあと、地元の方から煙草を生産していたころの話や、地元の自然活動の話なども聞くことができとても興味深かったです。効率を求めがちな現代に、「竹をかさね結ぶだけ」というシンプルな工法が、子供から年配の方まで制作に参加できるという点、 時間にとらわれずじっくり作り上げていくという点で、社会参加の糸口となり、スローライフのメッセージとなっているのではないかと思いました。これからも地元の人の話を聞いて、地元の人と一緒に秦野の空気を竹ちぐらに封じ込める作業を、一緒にしていきたいです。
   
  ・森孝行さん
  ちょっと意外なくらいあっさりであった。竹という素材が、ドーム状の形に適しているということが、身近な体験を通して、よくわかった。今まで気づかなかった自分の迂闊さにも、少し反省した。それくらいに、あっさり。今回作製のお手伝いをした2坪ほどの小さな竹ドームは、割竹をしゅろ縄で縛るという、誰にでも出来ることだけで造られました。
竹を密に配置して、縛るほどに強くなり、割竹のしなりと水に濡らした麻縄が絡み合って、最後にはドームの上に、2、3人乗っても平気な程、しっかりとしていました。調子に乗って、こんな感じの竹ドームって・・・、車に乗せて、お茶会のデモンストレーションできるよ。部屋の中とかに、入れ子であってもおもしろいよねぇ、なんて盛り上がってしまいました。そんな誰にでも造れるという原初的な要素は、これだけ都市化の進んだ日本では、かえって新鮮に受け入れられる可能性があるように思います。まさに周回遅れで先頭に立つヒーローになれる要素が、竹にはまだまだありそうです。オープンテクノロジーな竹ドームの目下の課題は、屋外での耐久性です。それも今回の竹ちぐらのように漆喰材を塗ったり、木の皮葺きとするなどで、ある程度解決されます。見た目にも、環境にもやさしい竹ちぐら。環境建築として、またヴァナキュラーな巣として、竹ドームがこれから、あちこちで散見される日も遠くないかもしれません。そのときは、胸を張って秦野の竹ちぐらが、先駆けだよって言いましょう。たくさんの気付きと体験をありがとうございました。本作もよいものになりますように。
  1975  広島生まれ
2008 森孝行設計室として活動建築・ランドスケープを独学。一級建築士。
   
 
  竹ちぐら 参加者との集合写真
   
   
   
   
  ●<たかはし・しんいちろう>建築設計事務所 土の空間工房SoBaTo 代表
HP:www.sobato.jp  E-mail:sobato@hotmail.co.jp
1976年 神奈川県横浜市生まれ
2001年 東京理科大学工学部 卒業
2005年 自然素材を用いた建築・家具などの設計を行なう土の空間工房SoBaToを設立。
   
 
Copyright(C) 2005 GEKKAN SUGI all rights reserved