特集 はだの間伐材活用デザインコンテスト
  優秀賞 記念品部門 『ジャムベラ』
文/写真 佐野正明
 
  『ジャムベラ』
   
  ●応募案の発想やイメージについて
  今回のコンペの募集要項を読んだ時、他のコンペではあまり無い実際に作って植樹祭の招待者に配る、というとても具体的なものだったので、一過性のものではなく生活に根ざした長く使えるもの、プレゼンボードで目を引く面白さよりも、「贈り物」として受け取って、うれしく役に立つものを提案したいと考えました。
もう一つ、招待者は全国からいらっしゃるので、記念品は家に帰って家族に話をする時、秦野ってこんなところだったよ、ということを伝えるきっかけになるもの、長く使えて秦野のことを忘れないで、使うたびに思い出せるものにしたい、と漠然と考えていました。
朝食を食べている時に、妻とどんなものを作るといいか、ああでもないこうでもないと話していたとき、ふと、例えば今食べているジャムをすくうものとかもいいんじゃない、という話になりました。また、せっかくなら秦野市で作られているジャムとセットにしたらどうだろう?秦野市ってもしかしてジャムとかも作ってるんじゃない?と、どんどん盛り上がり、インターネットで調べた時結びついたのが、JA秦野で売っている「ばあば工房のジャム」でした。ちなみに実際取り寄せてみましたが、とても美味しかったです。
地元で生産されるジャムとジャムベラを、セットで記念品にする。植樹祭の参加者が家に帰ってジャムを使う時、秦野の話をするきっかけになる。毎朝ジャムベラを使ってもらえれば、いつまでも秦野のことを忘れない。もし記念品のジャムが気に入ってもらえれば、ネットで購入してリピーターになってもらえる。いろんなものが結びついて、これはいい提案になるんじゃないかと手ごたえを感じました。
   
   
  ●現物を作るまでの道のり
  記念品を受け取られる方は、不特定多数で好みも様々だと思うので、あえて形状は素朴で奇をてらわず、どこの家庭の食卓でも違和感無く溶け込むようなもの。長く使って頂きたいので、機能的にも今まで使っていたものよりも、こっちを使いたくなるような工夫を盛り込むこと。木の良さ、肌触りであるとか、木目や色の見た目の優しさ、といった木の長所を生かすこと。といったようなことを念頭に置きながら、デザインを作りこんでいきました。
ジャムベラの試作自体は、最初の提出時点でかなり具体的に詰めていました。決まっていたのはジャムをすくう部分をヘラ状にすることで、スプーンの窪みにジャムが残るストレスを解消することでした。最初のアイデアから形状を決定するまでに、握りごこちやジャム壜へ入れるときの使いやすいサイズの検証を行い、違う大きさのものを3タイプほど作成し、丁度良いサイズを探りました。1次の提出時点でここまで作って、プレゼン資料としました。
  入賞決定時点では、デザインに関してかなり出来上がっていたので、入賞後は秦野市から提供していただいた、さまざまな樹種の木を使って試作してみることと、パッケージのデザインをどうするかに多くの時間を割きました。また、実際に我が家で毎日使ってみて、ジャムベラの形状が、思いの外すっとパンに塗りやすいということ、オイルでたまにメンテナンスすれば、使用上も問題ないということも実感しました。
パッケージについては記念品ということで、シンプルに「贈り物」として、贈られてうれしく感じるパッケージはどんなものかを考えました。一つ目の案は、紙で作ったパッケージ兼用の収納ケースで、いろんなテクスチャーの紙でカラフルに仕上げてみました。二つ目の案は、ジャムとのセット提案で、2種類のジャム壜とリネンのケースにジャムベラを入れた、豪華なBOXセットとしました。
二つ目の案がお勧めなのですが、コスト的には難しそうなので、最終的にはもう少し簡易なパッケージでジャムとのセット案を考える必要がありそうです。
   
   
  通常のスプーンの場合(左)とジャムベラ(右)の比較。スプーンの場合、窪みにジャムが残ってしまうが、ジャムベラはすくう部分がへら状なので、この通り!
 
  いろいろな樹木での試作。秦野に生息する、色とりどりの樹木。記念品として、どの樹木がいただけるのか、も楽しめそう。
 
  1つ目ケース案
   
  二つ目のケース案。BOXタイプ外観   二つ目の案開いた状態。ジャムとのセット提案
   
   
  ●受賞についての感想
  コンペでの受賞は初めてのことだったのでとてもうれしかったです。特に今回は記念品として作製し招待者に配って実際に使って頂くことになるので、どのような感想をもって頂けるかがとても楽しみです。
また、今回このようなコンペが開催されなければ、私自身秦野の町を訪れることは無かったと思うので、今回の受賞はこの地への縁を感じます。受賞の挨拶の時にも話しましたが、町がとてもきれいなことに驚きました。よく手入れの行き届いた街路樹や、ごみの落ちていない道路、水のきれいな川、町全体に漂う明るい雰囲気、そして審査中、審査後の懇親会でパワフルな町の方々と、皆さんが自分の町をとても愛しているということが伝わってきて、これが本当の豊かさなのかもしれないと感じました。
   
   
  ●今後の展望
  コストや製作してもらう業者さん、どんなパッケージにするか等、短い時間で色々なことを決めなければいけないと思います。いろいろな今は見えていない壁があるかもしれませんが、一つ一つ乗り越えながら、受け取って頂いた方に喜んでもらって、ずっと使い続けてもらえるものに仕上げたいと思います。
最後に南雲さんからも指摘されましたが、ジャムベラは音の響きがあまりよくないので、何か違う名前を考えたいと思っています。一言で用途がわかって音の響きが良いもの・・・何か思いついた方がいらしたら是非ご連絡下さい。
   
 
  使用イメージ
   
   
   
   
  ●<さの・まさあき> インハウス・プロダクトデザイナー
広島県呉市生まれ。株式会社INAX 設備事業部に所属し、日々トイレ、洗面器、水洗金具たちと格闘を繰り返している。
   
 
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