連載
  続・つれづれ杉話 (隔月刊) 第8回 「プロとアマの境目」
文/写真 長町美和子
  杉について、モノづくりについて、デザインについて、日常の中で感じたモロモロを語るエッセイ。 
 
今月の一枚 (2枚ですが……。)
  ※話の内容に関係なく適当な写真をアップするという身勝手なコーナーです。
  お彼岸に、お墓参りに行った先の木場の商店街でかかしコンクールをやってました。
このなんとも色っぽい女の子のかかしは銀賞!
しかし、誘うように差し出す手をよく見ると中指が立っている! 
これってイケナイ仕草では。
   
  色っぽいかかし   かかし全体
  色っぽいかかし
  かかし全体
   
 
   
  プロとアマの境目
   
 

この間の日曜日、鬼子母神の「手創り市」「みちくさ市」に行ってみた。夏の再来を思わせるカンカン照りの中、境内には自分の作品を並べる人が、商店街には古本や自分が集めた小物を並べる人が、じりじりお日様に焼かれながらも張り切って商売している。

その「手創り市」のパワーのすごいことすごいこと! 一人畳一畳くらいのスペースを与えられて、見渡す限りの広さにびっちり売り手が並んでいる。よくもまぁこれだけの人がたくましくモノづくりに精を出しているものよ。ぬいぐるみ、帽子、家具(正座椅子、なかなかよかったです)竹籠、やきもの、携帯ストラップ、布バッグ、ストール……熱意が塊になったような作品は、けっこうみんなサマになってて、素材づかいとか、テクスチャー、色づかいとか、もう十分このままつくり手としてやっていけるんじゃないか、と思うものばかり。

世の中にはこんなにも「つくりたい」「発信したい」と思う人たちがいて、一般のフツーの主婦や若者でさえ、これだけ真剣にモノを売ることを考えていて、しかもレベルが高い、ってのはすごいことだ。うーん、創造の世界で生きていくってキビシイなぁ。そこへいくと自分はなんだろうなぁ……とだんだん負けモードにはまっていき、「いやー、すごいねー」そればかりを連発しながら、へとへとになって見て回っていたのであった。

ところが、境内を出てくると、すたすた歩きながらツレがぼそっと「ちっともいいと思うもんなかったな」とつぶやくではないか。おぉ。いつもながら驚かされる短いひと言である。傍らでかなり熱心に一つ一つ店を見て回っていたくせに、あれは演技だったのか!

たしかに、みんな似てるなー、とは私も思った。今風の雑誌の中から抜け出してきたような、リネン素材のナチュラルな小物たち、「スローな」「やさしい」生活の提案、ちょっと不格好だけど愛らしさがにじみ出ているモノ、塗装が剥げてるような風合いが素敵なモノ。どれもこれも、とてもよくできてるけど、どこかで見たようなもんばかりなのである。

たぶん、どこかのセレクトショップの片隅にポッと数点置かれていたら売れるんじゃないか、と思うのだが、じゃ、その人の作品だけで店を出したらどうなのか、ということだ。何か食べものやさんをやって、カウンターにちょっと小物を並べる、その程度だったら、何気なくおみやげ気分で手に取る人もいるだろう。洋服の脇の棚にふたつ、みっつ帽子とバッグを並べたら、目に留める人がいるかもしれない。

この「ついでに」買ってもらえるものと、「ぜひ」買いたいものの差。このヘンなんだろうな、プロとアマチュアの違いは。モノのクオリティはもちろんだが、それ以上に、その人の世界がいかにつくれるかどうか。空気感だとか、ストーリー性だとか、温度だとか。それは、モノだけじゃなくて、読み物でも同じことだと思う。書かれている物語の筋とかテーマも重要なんだけど、読む人が入っていける世界がどこまで広がっているか、浸りたいと思わせる力があるか、そんなことじゃないか。

結局、そのまま商店街を歩き、「みちくさ市」に古本を並べているおじさんから、古今亭志ん生の『なめくじ艦隊』を200円で買って、オリジン弁当で豚トロ弁当を買って、神田川まで下り、近くの神社でお弁当を食べて、カンカン照りの中高田馬場まで歩き通して帰ってきた。

財布の紐のかたい、小うるさい一般消費者の心を動かすのは非常に難しい、ということだ。

   
   
   
   
  ●<ながまち・みわこ> ライター
1965年横浜生まれ。ムサ美の造形学部でインテリアデザインを専攻。
雑誌編集者を経て97年にライターとして独立。
建築、デザイン、 暮らしの垣根を越えて執筆活動を展開中。
特に日本の風土や暮らしが育んだモノやかたちに興味あり。
著書に 『鯨尺の法則』 『欲しかったモノ』 『天の虫 天の糸』(いずれもラトルズ刊)がある。
恥ずかしながら、ブログをはじめてみました。http://tarazou-zakuro.seesaa.net/
   
 
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