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いろいろな樹木とその利用/第15回 「アブラチャン(ケアブラチャン)」 

文/写真 岩井淳治
  杉だけではなく様々な樹木を紹介し、樹木と人との関わりを探るコラム
 
アブラチャンという名を聞いて、植物になじみがない人は何か違和感があるかもしれません。「アブラちゃん」っていうのは人の名前のように聞こえますから。でもそういう意味ではありません。詳しくは本文で。
第15回目は「アブラチャン」です。
   
 
   
 
  アブラチャン果実 (平成21年6月27日撮影)
   
  3月〜4月に葉に先立って淡黄色の小さい花をつけ、本州九州四国に分布しています。落葉低木〜亜高木で、日本海側には葉の裏側の脈上に開出毛(葉の面に対し直角に出る毛)があるケアブラチャンが分布しています。
初夏には大きな緑色の果実が出来上がり、秋に熟し、中に一つの種子ができます。この果実の形が、よく漫画に出てくる爆弾の形にそっくりに見えます。導火線の部分もあるし、すこし飛び出た基部の部分もそっくりです。(こんな形の花火もありますね)
そんなアブラチャンですが、どのように使われてきたのでしょうか。
 
果実の形によく似ている爆弾の絵
   
   
  ●材の利用
 

材と言っても大きくならない樹木ですので、材のしなりとねじれに強いことを利用してカンジキの輪の材料にしたり、縄にしたり、(この縄は、紐ではなく茅葺屋根の材結束の際のネリソ(ネソ)用や、木材の流送時に材を結束する縄のことと思われます。)杖にしたりといろいろな日用小物に利用しました。
その他には、燃えやすい性質から薪の材料に利用されました。

   
  ●油の利用
  アブラチャンはその名のとおり種子に油分が多く、油を採取した植物です。児島如水という人の『農稼業事付録(文化11年 1814)』には「一粒に火をつくれば、暫燃ゆ、尤も油の多きこと比するものなし、実一斗に凡そ四升に近き油あり」との記載があります。しかし、この油は食用になるようなものではなく、灯明用や紙の鬢付け油用に利用しました。
種子だけでなく、幹や葉にも油分を多く含むので、生木でも良く燃えます。たいまつとしても利用しました。
焚き火するときにアブラチャンがあれば、雨でも大丈夫です。マタギは雨でも巧みに焚き火を起こす技術がありますが、アブラチャンやクロモジなどの油分の多い樹木と、シラカンバの樹皮を使います。
 
  アブラチャンの種子 (平成21年10月6日撮影)
   
  ●別名・方言
  全国に分布していますし、身近な樹木であるため様々な方言があります。
アオジサ、アカジシャ、アカズサ、アツマンドー、アブラギ、アブラッコ、アブラノタマ、アマヒョーダン、イヌムラダチ、ウシゴロシ、オトコジシャ、カワラズサ、クロジサ、クロジシャ、クロチャン、クロトモギ、クロンチャ、ゴーラキシャ、コサブロ、コジシャ、コトモギ、コムラダチ、コヤス、コヤスノキ、ゴロハラ、ジサ、ジサキ、ジサノキ、ジシガラ、ジシャ、ジシャガラ、ジシャキンバ、ジシャグレ、ジシャノキ、ジッサカラ、ジッチャク、ジッチャクシバ、シバズタ、シャガラ、ジュシャ、シロトモジ、ズサ、ズサキ、ズサグレ、ズサダマ、ズサダマノキ、ズサノキ、ズシャ、ズシャッキ、ズシャノキ、ズシャンボ、ズダ、ズタ、ズダッカブ、ズナ、スマル、センボンギ、タニジロ、タマズサ、チシャガラノキ、ツエギノキ、ツサ、ヅサキシバ、ツタカラ、トモギ、トリキ、ナベクワシ、ハラハラ、ハレハレ、ビシャ、ビシャグレ、ビシャモングレ、ビンツケギ、フキダマノキ、フクベジシャ、フクベジシャガラ、ヘイタマノキ、ヘッタモ、ポンポンジシャガラ、マトモギ、ムラタチ、ムラダチ、メントモギ、モトギ、モトジ、モンジャ、ヤカラミ、ヤカラメ。
多いのはジシャ系(ジサ、ズサ)。果実の形から タマ、フクベ、フキダマ系が目立ちます。
さて、耳慣れないアブラチャンのチャンという言葉ですが、
  (1)アブラジシャが訛ってアブラチャンになった説
  (2) アブラ+チャン(瀝青の意味)
  の2つの説があります。決して愛称の「ちゃん」ではないのでお間違えないよう。
   
  ●その他
  アブラチャンは漢方薬などの材料にはでてこないのですが、民間利用としてアブラチャンの実をマムシに噛まれたときに利用する地域もあります。
 
  アブラチャンの葉柄は赤色で目立ちます (平成21年6月27日撮影)
   
   
  【標準和名:アブラチャン 学名:Lindera praecox (Sieb. et Zucc) Blume.】
  【標準和名:ケアブラチャン 学名:― var. pubescens.】
   
   
   
   
  ●<いわい・じゅんじ> 樹木の利用方法の歴史を調べるうち、民俗学の面白さに目覚め、最近は「植物(樹木)民俗学」の調査がライフワークになりつつある。
   
 
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