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  杉という木材の建築構造への技術利用/第13回 「京都府美山町の杉の性能把握実験・その1」
文/写真 田原 賢
 

「杉の可能性を引き出す」木造建築の構造を、実例をもとに紹介していきます

 
無名産地(京都府美山町)の若齢杉性能把握試験
   
  2004年5月17日に京都府林業試験場で行われた美山町の若齢杉性能把握試験の結果報告書をまとめたものを、今回紹介致する。
   
  この内容は、無名な杉の産地の杉を有効活用するための若齢杉の性能把握実験である。
京都府南丹市美山町は京都府と福井県の境にあり、冬季には積雪が1.5m程度ある地域で林業を営む小林直人氏の祖父から本人が育てた樹齢30年から80年の杉を、壊による性能把握の為の実験をし、そこで取り組んでいる産直方式のともいきの杉としての若齢杉を構造材として利用した場合や、死に節などの劣化とみなされる材の経済的な利用方法を考えるために行った、基礎的な非破壊試験である。
   
  ここでいう『経済的』とは、生産者(林業家)と建築主両者の立場に立った木材の有効利用としての考え方で、一般には知られていないが、山には潜在的な価値のある未利用の木材がある。
   
  それは多節材や間伐小径材といった,市場から見向きもされない木材である。
多節や抜け節等の材については『見た目が悪い』『節があると強度にバラツキがでる』という2点で嫌われていて、市場に出しても戻ってきてしまうのが現状で、その中でも密植された植林時から手入れされてから間伐材(間引かれる木)される材齢は20〜30年程度であり、断面の小さな材にしかならないため、強度がなくて使えない材というのが常識である。
   
  この様な若齢な材が本当に「使えないほどの強度しかないのか?」を調べる目的で行ったのもであり、これが使えるとなった場合林家は30年程度で林業収入が得られるので山にお金を掛けても採算が合うようになり、せっかく同じように植えて育てた杉がこの杉は偏差値が低いので切り捨てるといった事の無いように、小径木利用を構造システムとして構成すれば余すことなく利用でき「歩留まり」も向上する可能性がある。
   
  実際町の工務店や設計者に、この様な若齢杉や小径木をもって入行って大工さんに渡して、「これで家を建ててくださいね。」と頼んでも、「え〜こんなんじゃ、あんた家が持たないよ。」と突っ返されるのが関の山だ。
それで林業家は間伐材をどうしているのかと言うと、「薪にして暖をとったりして有効利用しています。」と言いたいところですが、そんな牧歌的なことはしないで山に放置するしか方法が無いのが現状である。
   
  「ああ、もったいないですすね。何か利用する道はないのですか?」とか
「それのどこが悪いの、山の養分になるのだから構わないのでは?」
などと他人事のように思われるが、本当に山の事を考えた行動にはつながっていかないのが現状で、山が荒れるという事を盛んに言う人達が居るが、その人たちに「では具体策は?」と聞いた所で「そんなものは国が政策で考える事だ」と言って煙に巻くのが一般的である。
   
  当方では、そんな言動しか出来ない「言うだけの人」に対して、木構造の技術で社会貢献したいと思い、実行した内容を公表する。
   
  しかし、こうした現実は、日本の無名な産地や有名な産地の林業家は身に感じているが、川下側では同情論的な言葉だけで、具体策の無い人があまりにも多く本当に困っている林業家に対しての回答になっていないのが現状だ。
   
  杉は50年から60年育てて初めて商品になり、そうした時間のかかる商売が林業という生業と思っていては跡継ぎにさえ見放されてしまう。
日本の林業家が生き残るためには、樹齢20年程度の小径木が商品として需要が出てくることが必要があり、50年と言わないまでも20年、40年といった中期的な収入があれば、山の手入れもする気力が出るが、現状では山の手入れをする費用すら捻出できない。
   
  ここで話をはじめに戻すと、今は商品価値のない木材にいかに価値を持たせるかが問題解決の鍵となる。
ともいきの杉では価値がないとみなされているような材料でも、木構造の技術を付加することにより商品になると考え活動している。
   
  その商品となる条件には、材料特性の正確な把握、適正な構造材としての使い方、そしてそれらに基づいた構造設計・監理という点でが必要となる。
   
 

例えば、部材を評価する際に、両端をピン支持した力学モデルでの構造計算等はなく、部材端部を実際の支持条件で考え、また建築物の床全体で評価することにより低ヤングの杉や小径木の杉だったとしても柱や梁として十分役立つ。

   
  今回のヤング係数実測試験ではそうした材料の基礎的な情報収集を主旨としており、今後の予定では同じ材を用いた破壊試験を行うことで、非破壊試験の検証とした。
   
   
  次回、実験の概要をお伝えします。
   
   
   
   
  ●<たはら・まさる> 「木構造建築研究所 田原」主宰 http://www4.kcn.ne.jp/~taharakn
   
 
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