連載
 

いろいろな樹木とその利用/第19回 「ハクウンボク」

文/写真 岩井淳治
  杉だけではなく様々な樹木を紹介し、樹木と人との関わりを探るコラム
 
初めてこの葉っぱを見たときはインパクトがありました。特徴のある形をしているので一度覚えれば忘れられません。
しかし、名前の方はハクサンボク、タイサンボク、ハンテンボク、ハクモクレンなど似たものがいくつかあり、覚えにくいのです。
第19回目は「ハクウンボク」です。
   
 
   
 
  ハクウンボクの特徴的な葉の形 平成20年5月22日撮影
   
  北海道(道央以南)、本州、四国、九州の山地に分布するが、本州北部に多く存在します。5〜6月に長さ10〜20cmの総状花序をつけます。
葉は円形〜卵形で大型、葉の上端に突端低鋸歯がある。表面および特に裏面に毛を密生し、ラシャ様の手触りがあります。
そんなハクウンボクですが、どのように使われてきたのでしょうか。
   
   
  ●蝋燭用植物
蝋燭を作った植物としてはハゼが有名ですが、ハクウンボクの種子からも蝋燭を作りました。種子の中の種核には18%の脂肪油を含むので蝋燭に利用したものです。この蝋燭は油煙が少しといわれています。
 
  真ん丸なハクウンボクの果実 平成21年10月6日撮影
   
   
  ●将棋の駒に
  材は色が白く緻密で亀裂を生じない上、加工が容易という特徴があります。
和傘の先端のろくろ、傘柄、挽物、糸巻、玉突き棒、算盤玉、パイプ、漏斗、呑口、楊枝、櫛などに利用しました。
他には将棋の駒にします、将棋駒は他にもホオノキ、イタヤカエデ、マユミ、ツゲなどを利用します。駒の文字は書家の巻菱湖の字体が使用されています。巻菱湖は幕末の三筆の一人ですべての書体に通じており、門下生が一万人以上いたということで有名です。
私も巻菱湖の千字文で文字の練習をしております。
 
巻菱湖の蘭亭叙の冒頭
   
   
  ●語源と方言
  樹木を覚え始めたころは方言名などには興味がなかったのですが、今は、方言名こそ重要な情報が詰まっており、方言名を良く知ることが必要だと思っています。
ハビロ、ハビラ、ハンビロ、アビロ、ベラキ、ビラカ、オオバ、ヘラノキ、ハクウンギ、ハクウン、オオバジシャ、オオバヅサ、オオバチシャ、オオヅサ、オオバノチシャ、オオバチナイ、オオバジナイ、オオガネノキ、オオガメノキ、オオカメノキ、オオカノキ、オオヤマシデ、オオバコハゼ、ヤマズミ、ヅサ、ヒトツバ、ヒトツハ、ヒトッパ、ヒトツッパ、トッバ、マルコバ、シャクシギ、シャクシキ、シャクスギ、シャクシゴ、ヒャクシギ、サクシノキ、サクシゴ、サルシベリ、オナガシ、オンナカシワギ、ヨナガシ、フングリ、タニアラシ、サラソウジュ。
樹木大図説Vから引用。歴史的かなづかいは改めた。
   
  葉が大きいことから「オオバ(大葉)」という名が多いですが、オオバジシャというのはハクウンボクの学名Stylax obassiaの部分に使われております。何かのラテン語ではありません。
   
   
  ●その他の利用
  アイヌ人は、乾燥葉をタバコの代用としたとの記述があります。
   
   
 

【標準和名:ハクウンボク 学名:Stylax obassia Sieb. et Zucc.(エゴノキ科エゴノキ属)】

   
   
   
   
  ●<いわい・じゅんじ> 樹木の利用方法の歴史を調べるうち、民俗学の面白さに目覚め、最近は「植物(樹木)民俗学」の調査がライフワークになりつつある。
『いろいろな樹木とその利用』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_iwai.htm
   
 
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