特集 バンブーグリーンハウス
  里山放置竹林とバンブーグリーンハウス

文/写真 小林広英

 
■はじめに
   
  バンブーグリーンハウスは、土壌を用いない都市型農作物栽培法の共同研究(※)において、竹構造の栽培温室を提案したのが始まりです。試行建設地が京都市街地に位置していたこともあり、当初は京都の伝統的な竹文化・技術・素材を現代的に活かすというコンセプトで竹材利用を考えました。しかし、バンブーグリーンハウスの共同設計者である中川氏(中川竹材店)から、近年放置竹林が想像以上に深刻な状況であることを知り、里山再整備に向けた竹資源の用途開拓と循環的利用を目指すよう位置づけました。また、この役割を里山と共生してきた地域住民が担えるよう、竹の材料特性を活かしながら、最小限の竹材加工と簡易な接合方法によって、誰でもセルフビルドできる構造としました。主構造材となるモウソウチクは、京都大学桂キャンパス内の竹林整備活動で得られた間伐竹材を利用しています。この試行建設をきっかけに、地域住民によるセルフビルドの権座バンブーグリーンハウスプロジェクトが始まりました。
   
  ※「都市景観に配慮した農作物短期栽培システムの構築」:共同研究(京都大学京都ブライトンホテル(株)(株)ちきりやガーデン中川竹材店メビオール(株))
   
 
  バンブーグリーンハウスでのミニトマト栽培 
   
 
  バンブーグリーンハウス全景
   
 
   
  ■権座バンブーグリーンハウスの始まり
   
  滋賀県近江八幡市は、ラムサール条約湿地にも登録された西の湖でも有名な水郷のまちです。その西の湖上に浮かぶ島状の田圃が「権座(ごんざ)」です。平成20年10月に権座対岸の白王地区住民が中心となり「権座・水郷を守り育てる会」を立ち上げました。現在、権座の文化的景観、生態系を守りながら、酒米づくりや水田魚道の整備などに取り組んでいます。このような積極的活動の中で、新たに里山の竹林整備を兼ねたバンブーグリーンハウスの建設をおこなうことになりました(※)。白王地区でも、従来はタケノコ採取や建築・農漁業用資材として、竹材を循環的に利用してきましたが、近年多くの里山で竹林が拡大しています。何十年か前まで、里山で遊び回る子供達の風景がよく見られたとは信じられない状況となっています。
   
  ※バンブーグリーンハウス建設には、「権座・水郷を守り育てる会」が中心となり、(株)地球の芽、及び(株)フライング・シー有志の方々の協働によりおこなわれました。また、小林広英、中川利春は設計・実施協力として参加しました。
   
 
  集落に迫る竹林(権座から対岸の白王地区をみる)   権座へは白王地区から船で渡る
   
 
   
  ■権座バンブーグリーンハウスの建設プロセス
   
  1) デザインの検討
  権座バンブーグリーンハウスは、土地利用の関係から間口5.6m、全長14.5mの規模として、3畝の栽培畑をもつ計画としました。中央の支柱を挟んで1畝と2畝に配置されることから、最初のバンブーグリーンハウスとは少し異なるアシンメトリーな形状となっています。高さは6尺の汎用脚立で作業ができるように3.0mとしています。
   
  計画初期のイメージスケッチ   模型によるスタディ
   
   
  2) 竹材の調達
 

計画規模から必要本数を算出し、4.0m長のモウソウチク(直径10cm程度)約80本、4.0m長のマダケ(直径5cm程度)約40本を、集落裏山の竹林から伐採・搬出しました。資材確認の後、建設に向けた協議を地元住民の方々とおこないました。

   
  白王地区の里山から伐採・搬出したモウソウチク   白王地区住民の方々との打合せ
   
   
  3) 竹材の加工
  バンブーグリーンハウスの外皮となる円弧状部材として、割巾5cm程度のモウソウチク割竹をつくります。間伐伐採してきた竹材は材径が均一ではないので、五割用・六割用竹割器を適宜使い分けました。また、手作業で効率的に割竹をつくるために、モウソウチクの材長は4mとしています。割竹は円弧面をきれいに見せるため、さらに節目をナタで削り取ります。
   
  竹割器を用いて割竹をつくる   きれいな円弧面をつくるために節目を取る
   
   
  4) 支柱の設置
  地面に打ち込んだ焼き丸太に、モウソウチク丸竹を各々差し込んでいき、頂部交差点に寸切りボルトを通して固定し自立させます。三角形の支柱は、構造体の背骨となり栽培利用時には通路空間となります。
   
  地面に打ち込んだ焼き丸太にモウソウチクを差し込んでいく   支柱交差部に寸切りボルトを差し込み固定する
   
   
  5) 棟木の設置
  事前に支柱上端部を45度にカットしておくことで、順次モウソウチク棟材を仮置きできるようにし、高所での取り付け作業性を良くします。棟木の固定は、寸切りボルトと棟木を軸にして針金を巻き付けて完成します。
   
  支柱頂部に棟材を仮置きしていく   棟木と寸切りボルトを軸にして針金を巻き付け固定する
   
   
  6) 土台の設置
  土台としてモウソウチク丸竹を地面に並べ置き、等間隔に打ち込んだ焼き丸太で固定します。土台の外側に打ち込む焼き丸太は、割竹円弧材の設置時に弾性反力を押さえる役割ももちます。
   
  桁行方向の土台としてモウソウチクを並べ置く   土台外側に焼き丸太を打ち込み土台とつなぐ   
   
   
  7) つなぎ材・水平斜材の設置
  モウソウチク割竹による仮円弧材を等間隔に設置して、それらにマダケつなぎ材を取り付けていきます。次に、マダケ水平斜材を支柱交差部近くで差し通しながら、同じ高さにあるつなぎ材に固定します。順次取り付けられた水平斜材は、連続した筋交い状の補強面を形成して、耐風性能を向上させる役割をもたせます。
   
  マダケのつなぎ材を仮円弧材に取り付ける   マダケの水平斜材を支柱に差し通しつなぎ材に固定する
   
   
  8) 円弧材の設置
  各円弧材は、割竹を腹合わせで2重に重ねたものを用います。まず、一重目のモウソウチク割竹を、仮円弧材に目視で合わせながら3本継ぎで円弧状に成形し、それぞれ50cm間隔に取り付けていきます。このときはまだ円弧面がきれいに見えませんが,、2重目の割竹を取り付けていくと、自然にしっかりとしたきれいな円弧面ができあがります。このあと、妻側の竹材を設置し、市販のビニールシートを張り架ければバンブーグリーンハウスが完成します。
   
   
  モウソウチク割竹を50cm間隔に取り付ける   割竹を2重に重ねることできれいな曲面をつくる
   
 
   
  ■おわりに
  京都で試行建設したバンブーグリーンハウスでは、間伐竹材を用いた栽培温室を実際につくることで、竹構造の技術的検証や建設合理性の確認をおこないました。権座ではこの経験をもとに、地域住民によるセルフビルドを目的に実施し、自力建設が可能なことを確認しました。今回のプロジェクトは、里山の竹林整備という面から見れば、まだまだほんの小さな出来事かもしませんが、バンブーグリーンハウス建設に注ぎ込まれた人々のエネルギーは、非常に大きかったと思います。「権座・水郷を守り育てる会」会長の東氏は、今後竹チップの農業利用試みや、竹材を利用したカボチャ棚の製作を計画しています。権座バンブーグリーンハウスの建設をきっかけに、地域環境の整備につながる活動がもっと拡がればと思います。
   
   
  現場で検討し工夫しながら造る   バンブーグリーンハウス構造体の完成
   
   
   
   
  ●<こばやし・ひろひで> 京都大学大学院地球環境学堂 准教授
竹材活用型ビニールハウス「バンブーグリーンハウス」が2009年度グッドデザイン賞の特別賞の1つである、サステナブルデザイン賞を受賞→http://www.g-mark.org/archive/2009/award-sustainable.html
   
 
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