連載
 

東京の杉を考える/第44話 「歩く人、歩く路、歩く町、歩く山」

文/ 萩原 修
  あの9坪ハウスの住人がスギダラ東京支部長に。東京から発する杉ものがたり。
 

最近、「歩く」ことが気になっている。

きっかけは、開業医であり大学でスポーツ医学を研究する小学校の友人から聞いた話だ。「人は、1キロ歩くと、自分と同じぐらいの体重のカロリーを消費する。だから、体重50キロの人が100キロカロリーで、行ける距離は約2キロ。時間にすると、約30分。歩数なら約3000歩。これは、現代人に不足している一日分の運動量に相当するんだよ」

なるほど。そういうことだったんですね。あまりにわかりやすい話だった。100キロカロリー、2キロ、3000歩、30分。をめやすにすると歩くことがみえてくるような気がした。今年のはじめ知り合いのデザイナーの影響で、しばらく歩数計を持って生活してみたけど、歩いているようでいて、一日一万歩はなかなか達成できなかった。たぶん、一日3000歩ぐらい運動不足なんだと思う。

コミュニティやまちづくりの面からも100キロカロリーはめやすになる。1里が約4キロで、半里が約2キロ。里のスケールも歩く距離で決まっていたのかもしれない。人が歩いて30分程度で集まることができる半径2キロ以内がひとつのコミュニティになりやすい。もちろんこれは、鉄道や自動車がなく歩くことが移動の基本だった時代の話だ。

地方の町に行ってよく感じるのは、「歩く」→「鉄道」→「自動車」の順で、町の中心が移動していった姿だ。歩くことが移動手段だった時は、歩く道。そして、鉄道の駅になり。現代は、ロードサイド。車がないと生活できないような地方も多い。地方では車の移動が基本で、ほとんど歩かないという人も少なくない。運動不足もしかたないのだろう。

先日、あるきっかけで、青森県の弘前に行ってきた。弘前市は、人口約18万人で、江戸時代は、弘前藩の城下町として栄えたところだ。歴史がある町の奥深さを感じるところだ。町中には、小さな川も流れ、歩いてまわるにはちょうどいい。こういう町に住める人が、うらやましいと思った。この町をもっと歩く町にするしかけをしたいと考えはじめた。

自分が住んでいる家の半径2キロ以内は、果たして歩きたくなる町になっているのだろうか。それぞれの町を歩く視点で見直すと、新しい発見があるような気がする。特別なことではなく、毎日の生活の中で、気軽に歩き何かに出会う時間をもつ。そうすることで、自分も健康になり、町も面白くなっていくのなら、こんなにいいことはない。

ポイントは、がんばって歩かないこと。ぶらぶらと寄り道しながら気楽に歩くこと、偶然や発見や、出会いを楽しみながら歩く。しばらくは、毎日の暮らしの中で、「歩く」ことを考え、実践していきたいと思う。町にあきてきたら、山まで歩いていきたくなるかもしれない。毎日の2キロだけじゃものたりなくて、たまに20キロや、200キロと距離が伸びるかもしれない。

   
   
   
   
  ●<はぎわら・しゅう>デザインディレクター。つくし文具店店主。
1961年東京生まれ。武蔵野美術大学卒業。
大日本印刷、リビングデザインセンターOZONEを経て、2004年独立。日用品、店、展覧会、書籍などの企画、プロデュースをてがける。著書に「9坪の家」「デザインスタンス」「コドモのどうぐばこ」などがある。
つくし文具店:http://www.tsu-ku-shi.net/
『東京の杉を考える』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_tokyo.htm
   
 
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