連載
  続・つれづれ杉話 (隔月刊) 第18回 「薄型液晶テレビと床の間の関係」
文/写真 長町美和子
  杉について、モノづくりについて、デザインについて、日常の中で感じたモロモロを語るエッセイ。 
 
今月の一枚
  ※話の内容に関係なく適当な写真をアップするという身勝手なコーナーです。
 
  猛暑の夏、緑のカーテンをつくろうと蒔いたフウセンカズラが今年もたくさんの実をつけました。 風船をパリッと割ると、中から3粒の黒い種。そこに白いハートのマークがあるのがなんともいえず可愛いのです。
「ハートの種をあげる」とプレゼントすると、自分もうれしくなります。
   
 
   
  薄型液晶テレビと床の間の関係
   
  薄型液晶テレビの上にモノを置ける「スペースラック」なるものが通信販売で売られてるのを見て、腹の底から笑いがこみあげてきた。「負けた!」というか、「そーくるか!」という感じ。無力感もあるけれど、どこか納得できるところがカナシイ。
   
  子供の頃、我が家には家具調テレビがバーンと置かれていた。子供が一人ゆうゆう中に入れるほどの大きさの箱の中に、ブラウン管と真空管、その他電気回路の基盤が内蔵されている。裏の蓋は、なんという素材か知らないが、段ボールと布を合わせたような茶色い5ミリくらいの板で、テレビ局に電気技師として勤めていた父親は、テレビの映りが悪くなったりすると(今じゃ考えられないが、昔はカラー放送が突然白黒になったりしたのだ)ねじ回しをカパッと裏蓋を開けて、延々調整していたものだ。
   
  話は反れたが、その昔のテレビは奥行き450ミリほどもある立派な家具調テレビであるからして、そして、ローズウッド調の突板が貼られているからして、その上にはやっぱりモノを置きたくなるわけだ。
   
  ウチの場合、ダイニングキッチンの他には6畳と4畳半しかない公団住宅だったため、「床の間」的な場所が皆無だった。夫婦と子供を単位とする現代的な家族のための、合理的な生活の場として考案された公団住宅に「床の間」はいかにも不必要で、時代遅れのスペースだったんだろう。
   
  しかし、暮らしというものは、建築家やデザイナーの構想通りには簡単に変化しないものである。今、思い出せるだけでも、昭和40年代の我が家には、誰かから土産にもらったアイヌの木彫像、もちろん鮭を加えた木彫りの熊もあったし、50センチくらいのこけしも数体あった。赤い液体に首を突っ込んでは起き上がる鳥の置物もあった。そうしたものを飾れる場所は、アップライトピアノの上かテレビの上しかなかったような気がする(いやー、なんであの狭い家にピアノがあったのか……。でも当時は、小学校のクラスの女の子の90%はピアノを習っていたのだ)。
   
  家族の視線の集まる先といえば、ピアノよりもテレビであり、しかもテレビの方が格が上なので、当然、季節ごとのしつらいはテレビの上、ということになる。テレビには、緞帳のように母親お手製の刺繍入りカバーが掛けられ、3月になると私のための雛人形(ガラスケース入りの木目込み人形)が飾られた。自分と関係ないことはよく覚えてないが、たぶん5月には兄のための節句のしつらいが施されていたにちがいない。
   
  チャンネルを回すタイプの初期のテレビから、ボタンが並んだテレビになった時、刺繍入りのテレビカバーは消えたが、雛人形はややはみ出しながらもむりやり置かれ続けた。だって、他に置くところがないんだもの。
   
  その後、いかに薄くできるか、テレビ業界が勝手に盛り上がっていただけで、写真立てや、旅の記念品、ゴルフコンペの優勝カップ?なんかを置く場所がなくなって困った消費者も多かったにちがいない。チデジ騒ぎが一段落した今になって、地の底からわき上がるように、「テレビ周りがすっきり片付く薄型テレビ用ラック」なんてものが、まだまだ健在であることが発覚した。その生命力! しぶとさ! ははぁ、とひれ伏したくなるではないか。
   
  ちなみに、同じチラシに「秋冬特集」として載っていた布団や毛布の柄はどうだ。ペイズリー柄やゴブラン織り調のものはともかく、ピンクやブルーの「豪華花柄」は、いったいどこの誰がデザインしているのだろうか? 昔からの柄が今でも流用されているのか、それとも毎年新しく描き起こされているのか?こちらもテレビラック同様、「参りました!」と頭を下げたくなるシロモノである。
   
  昔、柳宗理さんの白い器シリーズが「未完成の安物」と見なされて売り場から見向きもされなかったように、花柄布団を購入する人たち、あるいは生産する人たちにとって、無印良品のモノトーンの布団なんて物足りなくてしっくりこないんだろうなぁ。一度、インタビューしてみたいもんである。
   
   
   
   
  ●<ながまち・みわこ> ライター
1965年横浜生まれ。ムサ美の造形学部でインテリアデザインを専攻。
雑誌編集者を経て97年にライターとして独立。
建築、デザイン、 暮らしの垣根を越えて執筆活動を展開中。
特に日本の風土や暮らしが育んだモノやかたちに興味あり。
著書に 『鯨尺の法則』 『欲しかったモノ』 『天の虫 天の糸』(いずれもラトルズ刊)がある。
『つれづれ杉話』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_komachi.htm
『新・つれづれ杉話』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_komachi2.htm
恥ずかしながら、ブログをはじめてみました。http://tarazou-zakuro.seesaa.net/
   
 
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