連載
 

杉という木材の建築構造への技術利用/第33回

文/写真 田原 賢
 

N値計算法の中の『L』の原理となった柱カウンターウェイト検証実験 前編 1

 
 
   建築基準法が2000年に改正された中で、木造住宅(いわゆる4号物)の構造規準と言うべき「接合部」の金物仕様が詳細に規定された。 それは、建築基準法施行令第47条に規定する、「構造耐力上主要な部分である継手又は仕口は(中略)建設大臣が定める構造方法によりその部分の存在応力を伝えるように緊結しなければならない。」と規定されたのである。
 ここで掲載する内容は、1999年に(財)日本住宅・木材技術センターより、改正基準法へ向けた新しい設計法(許容応力度設計法)に盛り込む内容の一環として、行なわれたものであり、その概略を説明する。
 2000年に建築基準法が改正され、その改正内容の一部に金物の仕様規定が盛り込まれている。 接合金物の検討において、以前は「3階建て木造住宅の構造設計と防火設計の手引き」(日本住宅・木材技術センター発行)においては、柱脚部の設計で 周辺部材による押さえ(曲げ戻し)の効果(B)のみを考慮していたが、柱の長期軸力以上に、梁(床組み)による鉛直荷重の押さえ効果があると当事務所では想定していた。 そこで実験・検証を行うことにより、横架材等による建物全体レベルで見た押さえ込み効果(カウンターウェイト)を確認し、接合金物の適切な設計に役立てる事を目的とした。 このことは、現在のN値計算法の算定式で、鉛直荷重による押さえの効果を表す係数(L)を導き出す根拠となったものである。 柱の長期軸力の押さえ込み効果だけではなく、躯体に設置された面材等による相乗効果等も考慮し、建物全体としての挙動を捕らえたものである。
   
   
  はじめに
   
   木造住宅等の建物が地震力等の水平力を受けた場合、その建物にある壁面の剛性および耐力から浮き上がろうとする力が発生する。その浮き上がろうとする力は、柱を引き抜いて建物を転倒させる力となる。1995年1月17日の阪神淡路大震災においても、前記のような破壊状況で倒壊したと思われる住宅の被害が学会等で発表されている。
 しかし一方で、倒壊せずに残った建物を見ると、浮きがった形跡のない住宅も見受けられている。このことは浮き上がりが生じるほどの水平力が入力されなかったのか、壁体の剛性や耐力により浮き上がりが生じなかったのかは一概にはいえないが、いずれにせよ上からの押さえ込み荷重が卓越していたことが予想される。
 木造住宅の特性は、ある一定の長さの横架材(梁・桁)を柱で受け、床・屋根を掛ける構法である。これは、鉄筋コンクリート造や鉄骨造と違い、建物の横架材を一体化した抵抗は難しく、ある一定の長さの横架材を組み合わせ、組み立てる架構である。
 横架材の部材長間には、直交梁および上部階の柱等が取り付いている。その部材長の下部階にある耐力壁が水平力を受けた場合、耐力壁の取り付く柱が浮き上がろうとすると、 その柱の上部横架材の材長間の荷重が押さえ込もうとする力、すなわちカウンターウェイトと呼ばれる押さえ込み効果を発揮する。
 本報告書では、柱の浮き上がりに対して抵抗しようとする柱カウンターウェイトについての解説と、解体家屋を用いた静的加力実験により柱カウンターウェイトの実体についての調査結果を報告する。
   
   
  1.実験目的
   
   平成7年11月28日〜12月28日に香川県仲多度郡多度津町で行われた木造住宅実大振動実験結果から建物に地震力を与えられた時、4隅(隅角部)の柱に大きな力が加わることが明らかとなったが、実験の結果から柱には浮き上がる力だけでなく、それらを押さえ込もうとする力が生じていると考えられる。
 この押さえこむ力を以降「柱カウンターウェイト」と呼ぶことにするが、この力は建物の終局耐力に大きな影響を与えるため、木造住宅構造体の耐力性能を把握する上では、これを正しく評価することが必要である。
 そこで本実験では、地震に対してとくに影響のある1階の柱を対象として行った。
 柱カウンターウェイトをモデル化しやすいよう、なるべく屋根荷重(直上の梁位置、柱位置など)や2階外壁モルタル、その他の抵抗要素の複雑な影響を受けにくいと思われるポイントに絞って行うこととし、柱カウンターウェイトを特定できるように配慮した。
   
   
  1−1.柱カウンターウェイトとは
   
  水平力が加わると、耐力壁の剛体回転によって、耐力壁の両端の柱の片方は上向きに浮き上がろうとし、もう片方は下向きにめり込もうとする。
この浮きあがりに抵抗する要素について、横架材と柱を金物で緊結している場合と金物がついていない場合について以下述べる。
   
  ●横架材と柱の接合に金物がついていない場合
   柱が浮き上がれば浮き上がるほど、上からの押さえ込みである荷重による抵抗は大きくなり、押さえ込み効果を発揮する。しかし倒壊限界変形角を超えると逆に、P−Δ効果によって、この力が倒壊させようとする力となると考えられる。
   
  ●横架材と柱を金物で緊結している場合
   柱脚金物等の浮き上がり抵抗金物を用いた場合は上記の荷重抵抗効果にその接合されいている金物の耐力が加算された抵抗力となる。この場合、初期変位においては金物による抵抗が大きいが、金物の降伏後は上からの押さえ込みである荷重の抵抗力が増大していくと考えられる。
   阪神大震災のような強い地震力に対しては、柱脚金物等を用いて水平力に抵抗させることは有効な手段であるが、序章で述べた通り、阪神大震災の際に倒壊していない住宅が存在することから、上からの押さえ込み荷重抵抗効果があったと考えられる。このように、耐力壁の剛体回転による浮き上がり力に対し、上から押さえつけようとする荷重抵抗効果として、柱の上部にある横架材の荷重による上から押さえ込もうとする力が生じる。この力を柱カウンターウェイトと呼ぶ。
   
   
  1−2.実体に即した柱カウンターウェイトの考え方
   
   現在の柱カウンターウェイトの算出法としては、屋根・2階床及び外壁と内壁の仕様から定まる「単位重量」と柱の「負担面積」との積、つまり柱の長期軸力という考え方から求められているが、「負担面積」については、梁の掛かり方等を考慮して上記の構造計算の手引き書から算定しているが、その計算方法の検証は皆無である。
   4.0m程度の長さの梁の下にある耐力壁の耐力を算定する場合には、実際の各柱のカウンターウェイトについては各柱の長期軸力だけではなく、梁の長さ部分にかかる荷重の押さえ込み効果が加わるはずである。
   これより、柱カウンターウェイトの算定手法としては、対象となる柱の直上横架材に掛かる影響荷重を精密に求めることが重要となる。
   以上により実体に即した柱カウンターウェイトの算定法を確立するために、解体家屋を用いた現場検証実験を行い、柱長期軸力と柱カウンターウェイトの実測値とを比較する。 更に実験結果から、柱カウンターウェイトの負担面積の算定法について検討する。
   
   注意点として、建物形態としては、総2F建ての場合や、下屋付きの場合も検証しなければ建物全体として、柱カウンターウェイトとしてどのように作用するのか解明できないと思われる。
   また、外壁等に剛性の高いラスモルタル等がある場合には、その抵抗要素が、かなりの割合で抵抗するため,架構体と切り離し、影響を排除した形で実験する必要があると考えられる。(今回の検証実験ではモルタルの効果についても調べるため、壁をそのまま残した場合と、モルタルを軸組み要素から切り離した場合の2通りについて行う)
   さらに、内部床構面に吹き抜けがある場合には直交梁の効果がなく、階段室においても同様なことがいえるので、建物の実体を考慮した検証実験が必要である。
   
   
  2.実験概要
   
   本実験は解体予定の木造軸組構法2階建専用住宅を用い、上記で述べたように柱カウンターウェイトの実体を調査する目的で行うものである。 以下に調査および実験概要について示す。
   
   
  2−1.調査概要実態に即した柱カウンターウェイトの考え方
   
 
実施日
1999年4月6〜7日
助言監修
近畿大学理工学部建築学科 / 村上雅英助教授
実施者
木構造建築研究所 田原 / 田原 賢 ・ 村田幸子 ・ 鈴木 律 ・ 井澤祐子
協力者
新協建設工業(株)大阪支店
実験場所
堺市鳳
   
   
  2−2.試験体概要
   
 
試験体
専用住宅/木造軸組構法2階建ベランダ付き(狭小間口 2.5間)
仕上げ
屋根:土葺き瓦
外壁:ラスモルタル
内壁:せっこうボード上クロス仕上げ(一部ラスボード上モルタル+ジュラク仕上げ)
2階床:コンパネ(厚12mm)上フローリング張り(一部畳敷き)
築年数
28年(増改築2回あり---施主からの聞き取り調査より確認)
特殊荷重
ベランダ(コンクリート厚80mm)
   
   
  ●平面図・測定位置
 
  解体家屋平面図と測定位置
   
  ●2階梁伏せ図
 
  解体家屋2階梁伏せ図
   
   
   
   
  ●<たはら・まさる> 「木構造建築研究所 田原」主宰 http://www4.kcn.ne.jp/~taharakn
   
 
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