JR九州/大分支社 地場産木造オフィス大作戦
  現場作業で感じた課題
文/写真 三宮康司
 
 
 
  今から1年前、JR九州大分支社で大分県産材を使用したオフィスを計画しているので、大分の製材所・建築屋として意見を出すことで、より良いものを作り上げたいとの話をして今回、この計画に携わることとなった。
   
  大分県は杉素材生産量で全国4位(農林水産省木材統計平成22年度)という杉大国である。しかしながら、私がよく地元メディアから取材を受けた際にその話をするとほとんど地元で認知されていないことを感じていた。大分県では製材所が集中している日田・佐伯地区を中心として関東・関西圏に出荷すること主体とした工場が多いのも現実で、何とか地場製材所が自分達が伐採・製材した杉がどのように利用されているのかを知るきっかけになれば、そして誇りに思えるきっかけになればと思いだけで動いていました。設計段階では、コンセプトが明確であり実際工事が始まったら面白いことになるぞ!と感じていました。
   
  課題1:元請と下請の関係性
   
 

さて、工事過程での話をしたいと思います。まず先につまずいたのは、工事元請業者には下請業者の協力会が存在することです。どの現場でもそうですが、元請会社は自社で施工するわけではなく、1次・2次・・・下請業者が実際施工しそれを管理するようになっています。今回も木工事には下請業者が存在しました。

元請業者からしても、発注側や設計からの紹介業者よりも管理し易い?言う事を何でも聞く?といった利点もあり、やはり協力会社を利用したいという思惑をガンガン感じました。 その為、なかなか実際の工事の打合せを十分行うことが出来ず、他の業者との取り合い部分や納まりが不明確なまま、最新の工事工程表も貰えないままに工事着工となりました。

下請契約もないまま急に「3日後、現場で墨だし(木工事の基準線を引くこと)に来なさい」と連絡があり、バタバタ職人と打合せして現場に行く用意をしたかと思えば翌々日には「出来ないだろうからもう来なくていいよ」と一言、このプロジェクトを理解しているのは自分なんだからと言い聞かせその場を凌ぎました。2週間後、墨だし作業が始まったのですが、今度はすでに設備や電気などの吊ボルトが天井から大量に設置されていたり、墨だしする床には大量の資材が置いてあったりしました。

   
 
  すでに設置されていた大量の吊ボルト
 
  大量の資材が置かれている床
   
  その吊ボルトの間をかき分けながら、そして床にある資材をかき分けながら作業を進めていったのですが、通常3〜4日で完了するものが、夜間作業をしても8日間かかってしまいました。実際の本体木工事が始まったら、現在の元請業者と下請の関係では十分な仕事が出来ないと判断し、当方の仕事でなくても現場に行き、元請業者の手伝いをしていました。これを続けていると関係改善も進み、その後の工事ではおおむね順調にすすんで行きました。このような事は、ただ気分的なもので、誰も結果的に得をしないし、時間とコストだけが無駄にかかるだけだと思います。
   
  課題2:施工範囲確保の縮小
   
  本体木工事が始まりました。この工程では、元請業者さんも木構造としての工事手順をなかなか理解して貰えませんでした。軽天工事にて天井・壁組の場合には、吊ボルトを設置後、面単位での施工を行います。今回、木構造(在来工法:一般的な住宅などでの木軸組)でしたので、土台→柱→桁といった手順で組み上げて行かなくてはならず、施工場所を広く確保しなければなりませんでした。この施工場所を広く確保しないといけないということは、他の業者がその間その場所を利用出来ないので全体的に施工時間の短縮が十分でなかったと思います。
   
 
 
木工事の開始   広い施工場所が必要
   
  課題3:自然素材の均一性
   
  次に天井パネルの設置です。この工程では、施工時間短縮・施工精度向上の為に工場で天井パネルを組立ておき、現場で接合のみを行うようにしました。この工程は実際短縮効果も見られ、今後も採用されると効果があると思います。しかし、天井パネル自体は、檜の間伐材を利用した針葉樹合板(通常では下地用合板に利用される)な為に、死節が多く存在しますし、逆にまったく節の無いものも存在し、サンプル確認だけではデザイン通りにはならない点は検討課題だと思います。私のような木材業界の人間からすると、この不均一が自然素材の良さと思っているのですが・・・難しいところです。
   
 
 
天井パネルの設置   檜の間伐材を利用した針葉樹合板
 
  課題4:木材メンテナンスの必要性
   
 

これまでの工程を経て、完成をしました。これから、今後の木材にはメンテナンスが必要になってきます。木材は調湿機能がある素材な為に、1年を通じ変化していきます。

例えば、線路も暑い日には伸び、寒い日には短くなります。今回は室内で利用しているので、木材は室内空調の影響を一番受けます。この影響は新築時に一番出やすく、経年ごとに落ち着きます・・・人間と同じですね・・・若い時には暴れん坊、年を取ると落ち着くといった具合です。木材だけではありませんが、専門知識がある人がメンテナンスをしないと木材が泣いてしまいます。

   
 
    完成した空間
   
  課題5:コンセプトの共有化
   
  これまで工程にて感じた問題点を書いてきましたが、全体的に一番感じたのは、コンセプトの共有化の必要性でした。設計段階でのコンセプトを元請業者だけに話すのではなく、下請業者にも話した方が良いと思います。実際、今回の工事で元請業者でさえあまり理解をされていませんでした。コンセプトが共有化出来なければ、結果しっかりした建築物は出来ないと感じました。デザイン・設計・元請・下請・・・工事に関わるすべての人がコンセプトを感じながら仕事ができる環境が出来たらと思います。 今回の工事に携われたことを感謝し、この事を今後活かせるような活動を私がしていかなければならないと思います。頑張りま〜す!
   
   
   
   
  ●<さんのみや・こうじ> 大分木青連
志村製材(有) 代表取締役社長
   
 
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