連載
  杉で仕掛ける/第45回 「第2回弥良来杉腕試しコンペ開催
文/ 海野洋光
   
 
 
  宮崎ミロク協同組合の代表理事を仰せつかっている。もう5年目に突入した。組合員が木材に付加価値をつけての販売を組合としてお手伝いすることを目的として設立している。とても、シンプルな組合だ。 8年前に始めた杉コレも後輩たちに引き継いだし、様々な方からの支援していただけるようになったので、「弥良来杉 腕試しコンペ」を開催という新しい取り組みをしたいと考え出した。
   
  コンペは、はまぐり碁石アートコンテストや杉コレクションのノウハウや経験がある程度あるので、心配はないのだが、このコンペは、出版会社(建築雑誌系)を巻き込むスタイルをとっている。簡単に言うと代表理事の趣味と実益を兼ねたコンペなのだ。趣味で全国規模のデザインコンペを開催しているのは、多分、私ぐらいだろう。
   
  今回のコンペのテーマは「まちなかスギどころ」。審査委員長の武田光史氏より提案していただき、弥良来杉の性能を最大限引き出すテーマに決まり、楽しみなコンペになった。 事前エントリー制をとりで応募者は120名を超えた。事前エントリー制は、管理しやすく、様々な質問や連絡事項がメールだけで対応できる。100超えれば、半分の50作品は、見込める。エントリー数で大まかに、応募数も把握できる。締め切りまでには、予想通り、50作品が集まった。審査員よりも先に作品に目を通せるのは、主催者、管理者の特権だ。なかなかの力作が集まり、実施可能な作品がかなりあった。「震災を意識した作品が多いかも・・・」という予想は外れたが、どの作品も「まちなかスギどころ」の意味をそれぞれ、作品の中で独自の解釈をしている。
   
  「腕試しコンペ」となぜ?つけたのか???弥良来杉自体が、世にあまり知られていない製品だ。高耐久性をいくら、打ち出しても、実証できるのに10年という時間がかかる。そこで、応募者に「モノは、試しに使っていただこう」と言うコンペ?残念ながら、はずれだ。まあ、「気軽に応募して下さい」と言う意味は、若干あるのだけれど、本当は、別の想いがあるのだ。コンペ自体は、ごく普通の全国規模のデザインのアイデアコンペ。杉コレでも悩んでいる点は、商品化や製品化をどのようにしていくかという問題だ。多くの企業にコンペから出たアイデアを見てもらって採用してもらえれば、と考えているのだ。弥良来杉を本当に使いたいと言う方に「腕試し」していただければと…。
   
  それでは、今回の受賞作を発表します。(5月26日発売の建築知識ビルダーズ9号に掲載されています)
   
   
  グランプリ
  「とまり木」
 
   
  この作品が、グランプリを射止めたのは、ほとんどの審査員が驚いたに違いない。名前の通り「とまり木」で手前の自転車止めが、メインになっていた作品だ。ところが、審査委員は、自転車止めよりもバスシェルターに注目したのだ。なんとも大胆かつ、繊細な審査だろう。まちなかにこのような弥良来杉の塊があれば、どんなに楽しいことか!想像するだけでも、ウキウキする。
   
   
  建築知識ビルダーズ賞 
  「心地よい景観をなす工場」
 
   
  この作品は、私の目をとめなかった。たぶん、多くの審査員の評価は、ゼロに限りなく近い作品だったろう。ところが、この作品の評価をある審査員が、述べた途端、間違いなく入選するという予感が走った。スギを使ってまちづくり!しかも、今あるまちの財産を再評価するためのアイテムとしての捉え方は、これからのスギの使い方に道を開くものであり、組合の目的に真っ向勝負している。ぜひ、北九州でこの作品を実現したい。そう思える作品だった。
   
   
  宮崎ミロク協同組合賞
  「まちなかスギサイン」
 
  審査員は、誰でもなれるわけではない。このコンペに求められている審査員は、豊富な知識と情報量を持った方なのだ。この作品は、実は、そんなに特殊ではない。斬新なアイデアでもない。でも、あれば良いよね。というたぐいのものだ。この標識は、木製であるためにどうしても、紫外線の劣化が避けられない。木材が紫外線に当たると灰色になり、標識の命である、識認が難しくなる。どうしようか?と悩んだときにある審査員が、「木材には墨が、一番いい」と話を切り出した。確かに!!!古い看板は、墨で書いた文字だけ、浮き出るように残る。墨の塗料もある。それなら、可能性があるじゃないか!町中にこの標識があれば、みんなの木材に対する意識も変わるのでは…。作者には、標識看板だけでなく、ポールも木材にして欲しいという注文を付け、受賞が決まった。ちなみに、組合員に丸棒加工のマルウッドさんがいます。
   
   
  九州木材青壮年会連合会会長賞
  「WOOD SUN」
 
   
  どうしても、作りたい作品だ。現実的だし、かつ、今の話題性(LED・太陽光発電等)も入っている。高さも足元を照らす程度だ。開発には、LEDやソーラーパネルのメーカーとタイアップしなければならない。弥良来杉なので耐久性はあるが、木部を壊されたりするのではと言う心配もある。公共的なところを作者はイメージしているようだが、レストランなど夜営業をするロケーションにどうだろう。
   
   
  宮崎県木材青壮年会連合会会長賞
  「テーブルベンチ」
 
  入選作を見て気づかれた方は、いるだろうか?通常の木材コンペならファニチャー系が多いと考えるが、入選作品にはこのテーブルベンチしかない。弥良来杉コンペでは、ファニチャ系はなかなか難しいのだ。組合のメンバーは早速、試作を作りたいと話していた。実用化第一号に一番近い作品だ。
   
   
  審査委員長賞
  「包」
 
   
  審査員長の好みで選ばれた作品?!とんでもない、建築を志す日本人ならどうしても考えなければならない素材に対しての挑戦的な作品と考えている。近代建築は、鉄とコンクリートとガラスで成り立っている。有名な話だ。鉄道のガード下である。コンクリートの塊で人が寄りつこうにも寄りつけない場所に、あえて木を持ってきた。これからの日本の建築はこうなる、と言う予感がヒシヒシと感じる作品だ。近代建築の素材に木材は、入っていない。「腐る」この一点で撥ね退けられた。腐らないスギ「弥良来杉」は未来素材の第1号かもしれない。
   
  内田洋行賞
  「Streetcedar」
 
   
  今回、どの作品よりも高い評点を付けた。確かに技術的な問題をクリアーしなければならない。しかし、弥良来杉の技術なら可能だろう。ひとつの体育館を多くの部活がシェアしている学校であれば・・・。バスケットに限らず、公園に木製の床があれば、様々なスポーツ人口が増える要因にもなる。今まで、屋内競技だったものが、屋外でも出来るとなれば・・・。この簡易的な屋外体育館が増えることによって、予算不足の解消のほか、スポーツの技術力の向上、競技人口の増加などなど。夢膨らむ作品だ。
   
   
   
   
  ●<うみの・ひろみつ>木材コンシェルジュ
ほぼ、毎日更新しています。ブログ「海杉 木材コンシェルジュ」 http://blog.goo.ne.jp/umisugi/
2009年3月31日をもって、日向木の芽会 を卒業しました。
海野建設株式会社 代表取締役 / HN :海杉
『杉で仕掛ける』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_umi.htm
   
 
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