連載
  スギと文学/その45 『夢十夜』 第三夜 夏目漱石
文/ 石田紀佳
   
 
  夢十夜の中でもっとも怖いのがもしかするとこの第三夜かもしれません。またもっとも平易な文かもしれません。スジもシンプルです。とくに謎めいたところはないと、思い込んでしまったからか、気味が悪いだけのこの第三夜は一度読んだきりだったようです。
  たとえば第一夜のような恍惚と酔えるイメージもないし、第六夜のように芸術の命題を考えされるようでもない、と。
  それが先日、現代能の演目なっていて、ちょうど杉が出てきたのです。
   
  夏なのでちょっとひやりとしてみましょうか。
  めくらの子供をおぶったお話は、文字通り、背筋が凍るでしょうか?
   
  全文はこちら 青空文庫でどうぞ。
  http://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/799_14972.html
   
 
   
  子供をおぶった父親は、その子が「自分の過去、現在、未来をことごとく照して、寸分の事実も洩もらさない鏡のように光っている。」と感じて、たまらなくなります。
  「しかもそれが自分の子である。そうして盲目である。」
   
  どういうことでしょう。
  あまり深読みをする必要はないでしょうか?
   
  目の見えない自分の子、彼はすべてを知っている。
   
  実はわたしたちはそういうものをいつもおぶっているのかもしれません。
  ほら、あなたの背中にも!
   
  杉がでてくるのは終盤です。
   
  「ここだ、ここだ。ちょうどその杉の根の処だ」
   
  と子供がいいます。
   
  一本杉のそばを通る時は、思い出してみてください。
  あなたが背負った青坊主を。
   
   
   
   
  ●<いしだ・のりか> フリーランスキュレ−タ−
1965年京都生まれ、金沢にて小学2年時まで杉の校舎で杉の机と椅子に触れる。
「人と自然とものづくり」をキーワードに「手仕事」を執筆や展覧会企画などで紹介。
近著:「藍から青へ 自然の産物と手工芸」建築資料出版社
草虫暦:http://xusamusi.blog121.fc2.com/
『杉暦』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_nori.htm
『小さな杉暦』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_nori2.htm
羊毛手紡ぎ雑誌「spinnuts」(スピンハウスポンタ)に「庭木の恵み」を連載。
「マーマーマガジン」(mmbooks)に新連載「魔女入門」スタート。
   
 
Copyright(C) 2005 GEKKAN SUGI all rights reserved