特集 徳島・木頭杉ツアー

  木頭杉ツアーの報告
文/絵 西山 隠
 
 
   9月5日、土砂降りというほどではない程度の雨が水面を叩いていました。この日のために買ってきた地下足袋が合わず両足の親指は皮が剥けはじめていました。水面に浮かべた長さ4mの皮むき丸太は、僕のもつ竿の先が川底を抑えるのをやめるとすぐに、当然のようにその中心を軸にグルンと回転して、上に乗っている僕はどぼんと水中に落ちる。…何10回もこれしかしていないのですが、雨は目に入るし靴擦れの足で丸太を元の位置まで引っ張っていくのもつらいのですが、それでももう一回、もう一回…と続けてしまう。山に挟まれた美しい整流を一本の丸太の上に両足で立って何kmも下り、途中の川岸に引っかかって留まっている丸太材木を本流に再び流していく、かつての一本乗り師たちのかっこいいイメージに押されて、この技術を身につけることに執念の火が灯ったのでした(結局ちっとも身につけられませんでしたが)。
   
   現在はスポーツとして保存が図られているこの「一本乗り」という技術の体験に劣らず、コンクリートダムをようかんのようにスパッと思い切りよく切り取った形をもつ「鉄砲堰」や、丸太数百本を束ねた長さ20〜30mの竜のような筏をたった二人で操り蛇行する急流を下っていく臨場感あるお話し、流域での利権の取り合いの歴史など、初めて見聞きし、引き込まれる驚きに今回の木頭ツアーではたくさん出会うことができました。
   
   そして、その驚きは多くの人が努力を続けることで守られたり伝えられたりしている、ということにも触れることができました。
   
   僕は今、四万十川流域の文化的景観の仕事に関わり、林産材の生産・流通を通じて緩やかに結びついている地域のことを勉強し始めたばかりです。スギの文化は過去のもの、と考えている自分がありましたが、実はスギ文化とそれに関わる人の集まりが現代の人(特に都市の人?)にとってかなり楽しめる潜在力を持っていること、土地によってかなり驚くくらい様々に表情を変える面白さがあることをツアーが垣間見せてくれたので、今後の広がりにわくわくしています。
   
 
  杉の一本乗り 想像図
   
   
   
   
  ●<にしやま・やすし> 土木設計技術者
株式会社 西日本科学技術研究所(代表:福留脩文)勤務。愛知県名古屋市生まれ。
近自然工法による、生物が棲める河川改修や造成等の工事の設計に従事。
設計作品・企画など:通潤用水下井手水路改修、ツインリンクもてぎハローウッズ 森づくりワークショップ'04-'05 など。
facebook:http://www.facebook.com/yasushi.nishiyama.161
   
   
 
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