特集 杉コレクション2013 in延岡
  杉コレ受賞者コメント 『穴があったら入りたい』
文/写真 有馬晋平
★★グランプリ&★市民賞 W受賞
 
 
  杉コレクション2013 in延岡にてグランプリと市民賞をW受賞した作品『穴があったら入りたい』/有馬晋平
   
  穴を見つけると覗き込みたい。そして入りたくなる。子どもの頃からそうだった。
人だけではない。動物や虫、魚も穴に潜み、巣を作り子育てもする。
穴は生き物を魅了する不思議な存在だ。
そうだ"穴があったら入りたい"!!
まして大きな杉の木に、ぽっかり穴があいていたらどうだろう?
入らずにはいられない!
優しい杉の肌や木目が気持ちいいだろうな〜。
そんな妄想を形にしたかった。
   
  いくつも模型を作り、入念に形を検討した。穴の入り口が大きければ入りやすいが、穴としての魅力は落ちる。小さくすると入れない。穴の位置は、真上や真横では形として美しくなかった。ヒントになったのは"光"だった。太陽の光が穴の入り口から注いで穴の奥に当たり、丸や楕円の面白い光と影を投影し、太陽の動きとともに変化していたのだ。太陽の角度や人の目線、全体の形とバランスなどを加味して穴の位置を決定した。そしていくつかの模型の中から一番美しいと感じた形を審査に提出した。
   
  一次選考会通過の知らせと同時に、実物作品を自ら作りたいと申し出ると、快く了承をいただいた。さっそく九州一円で作品に見合う直径1m以上の原木を探したが、なかなか見つからなかった。そんな中、材木商の知人から大木の情報を得て、熊本市の原木市場に駆けつけると、並んでいたのは宮崎県五ヶ瀬町から切り出された大きな杉の木だった。大きさも形も良かった。何より五ヶ瀬町は、五ヶ瀬川源流の地で、その五ヶ瀬川は延岡市で海へそそぐ。延岡市と五ヶ瀬町は五ヶ瀬川で繋がっているのである。延岡市の皆さんは、きっと五ヶ瀬の杉の大木を歓迎してくれると直感した。即決して大分県の自分の工房に運び込んでもらった。
   
  原木を削り始め、少しずつではあるが、着実に姿を現し始めた。しかし、穴を掘り進めるのは、予想以上に困難であった。いろいろな方法や道具を試した。時には自分の上半身をすっぽり穴の中に埋め、中にライトを灯して少しずつ掘り進めた。まるで洞窟の中で宝石でも掘るようだった。
残るは体力と時間の問題だ。コンペという時間制限の中で、肉体疲労を回復させる時間は全くなかった。来る日も来る日も穴を掘った。体中が筋肉痛に襲われた。
なんとか磨きの作業に入ったが、穴の中を磨く時には、杉の粉がマスクやゴーグルの隙間をすり抜け、顔の穴という穴に入り込んできた。全身が杉の粉にまみれていた。
こうして作品は、杉コレクション最終選考会の数日前にやっとの思いで完成した。
   
  今回の杉コレクションのテーマは 。子どもから大人まで男女問わず、皆が杉の木で楽しく優しい笑顔になる作品を目指した。
最終選考会当日、設置された作品に子どもから大人まですっぽり入り戯れる人々を眺めると、作品を作った充実感がひしひしと湧いてきた。
結果として作品は、グランプリと延岡市民賞という大変な名誉を授かった。
   
  作品制作にあたっては、沢山の方々のご協力をいただきました。さらには、最終選考会当日ご支援くださった延岡市民の皆様や関係者の皆様に厚く御礼を申し上げます。
延岡市民賞のイセエビは絶品でした!
   
   
 
  熊本市の原木市場で見つけた、宮崎県五ヶ瀬町の杉の原木。
 
 
制作過程。   制作過程。穴の中にライトを灯して掘り進める。
 
  最終選考会にてプレゼンテーションを行う筆者。
 
 
最終選考会では審査員の乾 久美子さんにも入っていただいた。   こちらはスギダラ本部事務局の奥ひろ子さん。
 
スギダラ北部九州支部 平瀬さんのお子さんも。   1次選考会に提出した1/10模型。
photo/(c)ブーフーウー
   
   
   
   
   
   
  ●<ありま・しんぺい> 造形作家
大分県在住。海の見える鎮守の森、柞原神社のふもと白木で制作中。
日本全国スギダラケ倶楽部 北部九州支部大分分会
ブログ「こだまど」:http://sugicodama.blog61.fc2.com/
   
 
Copyright(C) 2005 GEKKAN SUGI all rights reserved