連載

 
杉スツール100選 第2回 「杉コロ」
構成/南雲勝志
スツールというシンプルな形を通して、杉の家具材としての可能性を探る。目標100点。
 

 スギスツール100選第2回目に登場いただくのは、狩野新さん。デザインは「杉コロ」。
狩野さんと初めて会ったのは2003年10月。宮崎県日向市で日向木の芽会という地元の木工組合が主催したコンペに審査員として参加した時だ。そのコンぺは「ステーションファニチャー」というテーマで、2006年に完成する内藤廣さん設計の日向駅舎で使う家具を公募したものだった。狩野さんはそこで、見事グランプリを受賞した。
狩野さんのデザインの印象は繊細で綿密。非常に細かいディティールを使い、それをあえて杉でつくることで、一般的に大雑把な印象を与えがちな杉ファニチャーの印象を覆したものだった。加えて抜群に座り心地がいい。審査前市民のみなさんに一般開放して座ってもらっていたのだが、その時もとても人気が高かった。ほとんど異論なくグランプリを受賞した。
 一点だけ気になるところがあった。「この座のカーブは細島の海の波をイメージしたものです。」とプレゼンで言っていたので、「日向に来たのはいつですか?」と訪ねたら、「すみません、日向は実は初めてです。」と素直に認めた。実は細島は岩が多く、ボクには綺麗な波という印象はなかったのだ。正直な人だ。

その後、吉野杉ツアーに一緒に行く機会があったのだが、その時の段取りを狩野さんにお願いした。想像はしていたがやはり分刻みの綿密なプログラムが練られていた。血液型は絶対A型であると思われる。
さてスギコロであるが、そんな繊細な狩野デザインに大胆さとパワーが加わった。理由を本人から聞いたわけではないが、おそらく何かがプラスされたのだろう。たぶんそれは杉の持つおおらかさ、力強さをより表現したくなったのではないだろうか?
 ボクがこのデザインを好きなのは、交差点付近に置かれ、不特定多数の人にその表情を語りかけているからだ。どうぞ座って下さいと言いながら、はっきりとした自信を持っているようで嬉しくなる。まだ座っていないが、おしりのフィット感は想像出来る。

日向スギコレクション発表当日、市民に語りかける狩野さん。右はプレゼンテーションの模様


●<なぐも・かつし>デザイナー
ナグモデザイン事務所 代表。新潟県六日町生まれ。 家具や景観プロダクトを中心に活動。最近はひとやまちづくりを通したデザインに奮闘。著書『デザイン図鑑+ナグモノガタリ』(ラトルズ)など。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部

 

 

 

便座が発想の元! 「杉コロ」

 文/狩野新(デザイナー)
 

 もともとは椅子張り工場の前に置くベンチを依頼されたのがきっかけです。工場の前に国道を横切る横断歩道があって、信号待ちをする子どもたちに座ってもらえたら……と、依頼をいただきました。工場のPRも兼ねていたので、見慣れない形で人々に「なんだこれ?」と興味を抱かせたり、なおかつちゃんと座れるものがいいなと思いました。この近辺は派手な看板の目立つカーディーラーやファミリーレストランがたくさんあります。この環境で差別化するには、派手さより、珍しさのほうがいいと思った訳です。
  このデザインの発想の元は、なんと便座です。デザインをトイレで考えることもあるのですが、しゃがんでいて、あれっと思いついたんです。便座って真ん中が空いていても、座りやすいじゃないですか。それで便座のデザインを応用できないかと思ったんです。

 まず、座り心地がどうか実験しました。なるべくシンプルな形の方が杉の魅力が出せると思い、杉の120角を縦使いし、とりあえずコの字に並べたのですが、これに座ると杉の角がおしりにささり、正直座れたのもではありませんでした。それで、座り具合がよくなるように、必要最小限の削り作業を行い、何度も座っては削りの繰り返しを試みました。こうして、「杉コロ」の原型が出来ました。

 


●スケッチ(左、上)
手帳に書き留められた「杉コロ」のアイデアスケッチ。ディティールからディスプレイ方法までが見てとれる。




●工房で撮影した原寸模型
削っては座りの繰り返し。座り心地を検討したモデル。

 完成した「杉コロ」の固定タイプは、依頼いただいた工場の前に設置しました。こういうモノって設置作業中に注目を浴びることが多く、通りがかりの人々が「なにこれ?」と必ず尋ねてきます。椅子であることを伝え、説明すると、ほとんどの方が「座ってええ?」と座ってみるんです。そのあと、いろいろ意見をいただけます。(実は、仕事がはかどらない!) 関西人の気質か、とにかくいろいろ言ってくれます。「この取り付けでは盗られるんちゃう?」(通行人) 「いえいえ、これは設置後、アンカーボルトと接着剤で固定するのでまず取れないと思いますよ。これが金具です」(僕) なんでクライアントでもない人に一生懸命説明しないといけないだろっ……。こういうこと結構あります(笑)。

●椅子工場の杉コロ写真「杉コロ」の原点。国道沿いに設置してあります。

 コロ付きの「杉コロ」はコンパクトなので、打ち合わせ先に連れて行くこともしばしば。椅子に重みがあるので、キャスターが付いているわりにはどっしりと安定していて、工房でも使っています。先日発見したのですが、床に座って「杉コロ」にノートパソコンを置くとPCテーブルにもなります。これがまた使いやすい。
 使っているうちに、新たな発見がある「杉コロ」です。一家にひとついかがですか?

単体のスギコロ。角材の合わせと座面のディティール。非常に細かく磨き上げられている。


●<かのう・しん>一級建築士 デザイナー 
狩野新アトリエ 代表。 兵庫県宝塚市生まれ。
自宅のミニ工房で作るオーダー家具を中心に、最近は店舗や住宅のリフォームデザイン等の仕事も手がける。趣味はピアノと魚つり。

   
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