瓢箪から駒。猟銃からモックル処理

文/写真 関根 純一

外構材の防蟻・防腐・防割れ(?)はミロモックルにお任せを!

 


 はじめまして、ミロモックル産業の関根です。
 ミロモックル産業は、特殊な木材保存処理を使った屋外の木製品の製造、および販売をする会社でして、このちょっとユニークな社名には、「ミロク製作所が作ったミラクル(奇跡)の木材」という意味が込められています。

 当社の母体会社であるミロク製作所は高知県南国市にある猟銃メーカーです。祖先は、山内一豊が高知に入城するとき、掛川から連れてきた鉄砲鍛冶らしいです。
 明治時代の創業当初、会社がつくっていたのは捕鯨銃。日本水産などに納入し莫大な利益を得たそうです。しかし、捕鯨も禁止となり厳しい状況に置かれました。そこで考えついたのが、昔のノウハウを生かして猟銃を作ることだったのです。以来、信頼性のある製品をつくることで猟銃業界から認められ猟銃ブランドのブローニング社と製造のライセンス契約を結び現在に至っています。

 現在、年間の生産量は約8万挺で99%が輸出です。北米、ヨーロッパなどです。猟銃メーカーというと「自衛隊に納入しているの?」とか、「武器を製造しているの?」などと聞かれますが、弾は3発しか入りませんし射程距離もショットガンで50m、ライフルで300mなので、とても戦場では使えません。
 また「警察などに納めるピストルを作っているの?」とも聞かれますが、銃身(筒の部分)が短いものは価格競争が激しく利益が生まれないので作っていません。高付加価値で競争相手のあまりいない猟銃の分野に特化しています。
 猟銃を製造するにはいくつか要となる技術があります。
 1つは、銃身にまっすぐな穴を開けることです。丸いパイプを使っていると思われがちですが、実は円筒形の鉄の塊に穴を開けていくのです。最初は細い穴を開けて、少しずつ太くしていき、まっすぐな穴を開けます。穴がほんの少しぶれても300m先ではかなり大きなズレを生じてしまいます。この技術を利用してガンドリルマシンという精密工作機械も作っています。この機械は自動車のエンジンやプラズマテレビの製造に使われます。
 2つ目の要は、鉄を削り出す技術です。機構部分はとても硬い特殊な鉄で出来ていて、複雑な形状のものを精密に削り出していくことができます。この技術を使ってゴルフのパターのヘッドも作っています。ふつうヘッドの芯には周囲とは別の金属がはめ込まれているのですが、固定するためにビス類を使う他社のものと違って、ミロクのものは何も使わず形状だけで固定できるため、球の転がりが良く、ピンから遠く離れていてもよく入るそうです(相性がいい人は)。因みに1本7万円です。
 3つ目は、鉄や木に彫刻する技術です。高価な猟銃は手作業で1ヶ月くらいかけて彫金・彫刻を行います。安価なものは型を押し当てて模様をつけますが、押し当てると金属がゆがむそうで、あまり良くないのです(目で見てもわかりませんが)。
 最後の1つは木材を寸法安定させることです。猟銃に使われる木は、現在くるみの木(ウォールナット)です。木目が綺麗でねばりのある木ですが、かなりあばれます。この木を寸法安定させ屋外の使用にも耐えられるものにする為、木の研究をしてまいりました。その中で生まれたのが、「モックル処理」という特殊な木材保存技術なのです(やっとここまでたどり着きました!)。  ただ、猟銃にはこの処理は使えませんでした。なぜかというと、モックル処理を行うと木材が少し重くなってしまうからです。猟は鉄砲をかついで山を駆け巡る為、重量制限があります。処理をするとどうしても制限を超えてしまう為、現在は乾燥や塗装技術によって寸法を安定させています。
 猟銃に使えなくても、猟銃の端材を有効利用することはできます。それでつくり出したのは自動車の内装部品。実は猟銃に使う木はとても高価で、1立方あたり1,000万円もする木材があるのです。とても無駄にはできません。その高級木材を使って現在はトヨタ向けのハンドルを中心に製造しています。


ドリルマシン

発射装置の内部は非常に精密につくられている。少しの狂いも許されない。
金属ぶも木部も非常に高い精度で組み合わせる。

 モックル処理について少々説明を加えたいと思います。
 猟銃は撃つ構えをする時に、肩や頬に銃床をしっかりあてがいます。この時、口に触れることもあるので毒性のあるものは使えません。また、木材の質感を損なわないことも必要でした。そこで木材の中で樹脂化する方法を考え出したのです。
 薬液の主成分は亜鉛にアクリル酸樹脂を付与したものです。その他に尿素樹脂とポリエチレングリコールという樹脂成分を配合しています。亜鉛は最近コンビ二などでサプリメントとして売られていますが、人体に必要な要素で安全です(摂取量にもよりますが)。尿素は肌荒れ防止クリームに、またポリエチレングリコールも化粧品や医薬品に幅広く使われています。
 これらを配合した薬液は、気温35度くらいまでだと無色透明の液体で、だんだん熱を加えることによって樹脂に変化し固まっていきます。この薬液を木材に注入するのはJISで決められた加圧注入方法で行います。しかし、加圧だけだと注入ムラができるため、その後しっかり養生(注入された木材を日陰で寝かせること)させます。
 この薬液は水になじみが良く、木に含まれている水分と合い混じりながら内部にまで浸透、拡散していきます。そして薬液が十分染み渡った木材に蒸気加熱することで、だんだん樹脂に変化して木材の細胞壁に定着し、シロアリや腐朽菌から木を守るのです。
 殺菌成分は含まれていませんから、それらを殺すことはないのですが、木の養分を樹脂で覆ってしまう為、食べてもおいしくなく自然と寄り付かなくなるのです。また、樹脂で細胞の動きを止めている為、乾湿による伸縮を抑える効果があり、木材の反りや割れを少なくします。
 従来の防腐処理は主に建築の土台に処理することを前提に開発されたもので、殺菌成分で木を守っています。それに対しモックル処理は、屋外使用を前提に開発されたもので、外構木材の使用に適しています。また、環境を汚染することないのも特徴です。

 

モックル処理液は、加熱・水分の蒸発により化学的に安定した難水溶性の樹脂に変化するため、処理効果を長期的に維持させることが出来る。
 

 
ミロモックルプラント。
 
プラントに処理をする杉材を入れる。

処理後の材。まだ濡れた状態だが、薬液が無色のため、色はナチュラル。銅系の薬液で処理された木材は、緑色に変色してしまう。

 さて、この画期的なモックル処理を開発したものの、鉄砲しか売ったことのない会社なので、どんなものに使用し売り込んでいくか思考錯誤を重ねました。最初はドアノブや木製サッシなどに挑戦しましたが、あまり販売量は確保できず撤退しました。やがて、林業が盛んな高知県ということもあり、県の指導のもと馬路村と工場を立ち上げることになりました。「(株)馬路ミロク」という会社です。小さな工場でありますが、村民にも株主になってもらい馬路の木を全国に広めようということで、公園などを中心とした外構木材の製造を始めました。
 馬路村は高知県の東側の山奥に位置します。村の奥には簗瀬という地名があり、天然杉で有名なところです。人口は1500人くらいで、まさに過疎の村です。ただ、安田川という日本一おいしい鮎がとれる川を中心に自然がいっぱいあります。ゆずの産地でもありました。しかし、ゆずは冬至の時にちょっと売れるくらいで、あまり消費量が多くありません。それで、我々が工場を立ち上げるのと同時にゆずジュースをつくり始め、次にゆずポン酢をつくりました。このゆずポン酢が「全国101村展」で大賞を受賞してから出荷量が莫大に増えて、今ではゆず関連商品で年間35億円程度の売上げがあります。最近では東京のスーパーなどでも馬路村の商品をよく見かけます。杉とゆずを使った村おこしで一躍有名となり、現在では農協などの視察が絶えないそうです。(株)馬路ミロクも原価償却などが終わり株主のへの配当も行うことが出来ました。

 

馬路ミロクから見た風景、とてもきれい。安田川の向こうに棚田が見える。
馬路ミロク全景

大ヒットしたごっくん馬路村
馬路ミロク入り口。右奥が乾燥庫がみえる。
 
 
 
 モックル処理もマイナーな処理ではありますが、少しずつ皆様に認めていただける様になっています。現在は、この処理を宮崎県でも行えるよう、宮崎県木材青壮年会連合会の方々と組んで、処理工場を立ち上げようとしています。馬路の次は宮崎の飫肥杉を全国の方に知ってもらい、外構木材に積極的に使ってもらおうと思います。
 幸い、宮崎の方は宣伝が上手です。高知県民は「いごっそ」と言って人の話を聞き入れず頑固な部分があります。また、ミロク自体も扱う商品の性質上、国内で宣伝を行ってはいけないので、モックル商品の宣伝も的を射ていませんでした。「的を射るのは鉄砲だ!」みたいな感じです(笑)。ここの部分を宮崎の方々と解決しながら、公共工事だけでなく一般の消費者向けに杉のモックル製品を広めていきたいと思います。

*スギダラホームページhttp://www.sugidara.jp/
のスギダラツアー「魚梁瀬杉編・高知県馬路村」も合わせてご覧ください!

宮崎県日向市塩見橋、橋詰め広場のパーゴラ及びベンチ
   
 

 

 

●(せきねじゅんいち) (株)ミロモックル産業 東京営業所 所属
会社に就職して14年。公共事業の営業をしつつ、全国の木材の産地を回り、木材の利用拡大を信じてやまない中間管理職です。

同上、支柱に杉を使用した照明

   
木曽三派川 国営施設の遊歩道
 
  
   
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