連載

 
スギダラ家奮闘記/第3回
文/写真 若杉浩一

「それでもスギダラ家はつくる スギレオスギレイ

 

   
   
   
   
 
 
 

 9月竣工予定……のはずだった。それが一気に新しいビルになることが決まり、竣工も来年のいつになるやら、全く目処が立たなくなってしまった。

 あの昭和の民家! 畳や土間がある、そしてなにより企業が所有していながら外に解放された空間、施設。グッとくるではないか。しかも東京のまん中でオフィスビルの狭間に、である。そうそうそんなものはない。存在そのものに価値があったのだ。ほのかな明かりの中に暖かい杉の空間があり、6メートルもの大杉テーブルが横たわる。そこには、美しい杉の道具、器、そして美味しい焼酎と地鶏焼き、楽しい仲間。それが間新しいビルでそこらのオフィスビルと肩を並べるものになるとは、がっかりである。

 南雲さん「なんだよ〜、いくらスギダラ家をつくってくれるったって意味ないよ〜」

 川上さん「がっかりしました。しかし、ぜひ宮崎の杉だけは使って下さい。そしてできるだけ早くお使いください」

 千代田 「まじですか! そんなの皆に申し訳なくって言えませんよ。だいたいおかしいですよ、本質を理解してませんよ!!」

 その通りである。そのとおりなんだよ。そのとおり……。

 しかし、その気持ちをぐっと飲み込む。無くなってはいないんだし、違う方法で活動し、形にすることを心掛けよう。そうと思えば新しいビル計画の主導権をこっちで握ろう。新しい形に息吹を込めよう。今までなかった新しい施設として作っちまおう。

 幸いなことに、総務も、計画を投げかけられたパワープレイス(内田洋行のインテリア部隊)も困っている。絶好のチャンスである。さっそく、メンバーを集め、かねてから建築の相談をして一緒にプランを練っていた寺田尚樹さんを呼んでプロジェクトの形を作った。そしてブレーンストーミングを行った。

「エントランスは駐車場とウッドデッキでつないで野外オフィス風にしよう」

「やっぱり料理できるようにキッチンとギャラリーが欲しい。皆で集まるスペースをエントランスに作ろう」

 なんだかいいぞ〜。「パワープレイスのオフィスでありながら、外部のメンバーが入り乱れ協力し、地域、地元とつながる場」。いいじゃないか!4月竣工を目指して皆がんばろう。スケジュール、建築施工体制を決め、予算を試算し、総務を窓口として、経営委員会にかけてもらった。

 当然、即承認!! だって社長が言い出したんですから。しかも動きが素早い。だってやりたいんですから。

 時間が経つにつれ、こうしたい、ああしたい夢が膨らむ。寺田さんだって自分の作品ができる。パワープレイスだって自分の作品だ。またドキドキするコラボレーションの再開である。「さあ、社長の思いを聞き正式のプロジェクトを立ち上げよう」総務もすぐ動いてくれた。

 打ち合わせ当日。端切れが悪い連絡「今日は総務だけで社長と打ち合わせることとなった」。なにやら嫌な予感がする。だいたいスケジュールも迫っている中にである。しかも結果連絡をくれない。

 気になって気になって、翌日は土曜日だったが担当者に電話を入れた。何やらよそよそしい。「実は、社長が若杉(TDC)と寺田を外せ、そして俺とパワープレイスとやる、と」。

「またかよ〜またか〜、どうしてこうなるんだよ〜。俺はともかく、喜んで、期待して、そして事務所を引き払って設計をやる覚悟をしていた寺田さんはどうなるんだ!!」

 怒りを通り越して脱力感しかなかった。

プロジェクトチームから外され、いろいろな意味で行き先を失い、途方にくれるテラダデザインメンバー。(写真左から平手、勝間田、寺田)

連絡を受け、あまりのショックに気絶するテラダデザイン所長。勘違いし所長を弔うスタッフ。
(写真左上/勝間田、左下/平手、右/寺田)

昼なのにやけ酒を飲む千代。若、つきあわされる中尾くん、ついに轟沈の千代田にちょっかいを出す若杉です。


次号へつづく

●<わかすぎ・こういち>インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンターに所属するが、 企業の枠やジャンルの枠にこだわらない活動を行う。
日本全国スギダラケ倶楽部 本部デザイン部長
 
   
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