連載

 
杉スツール100選 第5回 「カタコト」
構成/南雲勝志
スツールというシンプルな形を通して、杉の家具材としての可能性を探る。目標100点。
 


「家具の授業で試みたデザインと杉」

 ICSカレッジオブアーツというデザインの専門学校で何年か家具の授業をやってきた。
「みみっちいことは良いからおおらかで自由な発想で座るということを表現して欲しい」といった調子で今までやってきたが、今年はちょっと指向を変えてみた。
個性を大事に。客観性を見据えた主観を主張して、と言ってはみるものの、どうも自由すぎてデザインの元、つまりそれが存在する意義、理由、社会性などが希薄になってしまう感があったからだ。
ある程度限定した条件を出そう。ちょうど日向市の富高小学校の課外授業を終え、少し落ち着いた頃だった。少々リスキーだとは思いながら、これで行こうと決めた。
「杉といく懐かしい未来」
へへ、コンフォルトの4月号の特集タイトルをそのままいただいた。
小学生でもあそこまで出来る。専門学校なら……、そう期待をしたのであった。
コンフォルトの編集担当内田みえさん、そして富小課外授業講師陣の若杉浩一さん、千代田健一さんを総動員して、杉とゆく懐かしい未来の意義を語ったつもりであった。
杉の置かれている現状、そうなった背景、輸入材や経済の問題、そしてこれからどうやっていくことが自然な社会なのか? その時デザインとはどんなかたちで社会に貢献出来るのか? 懐かしいという言葉の本質的な意味、その辺をようく考えてチェレンジして欲しい。そんな課題であった。

  しかし、事はそう簡単ではない。いったい何の事なのか、杉……?何をどうすればいいのか悩んだに違いない。この手の思考には体験や経験が必ず必要だからだ。
とりあえず、グループワークをやり、近場の埼玉県西川に製材所や工場見学に行き、木材関係者にいろいろ話を聞かせていただいた。ただ、耳や目からの情報と体験は違う。さらに植えろ増やせといわれた頃の現実も知らない。そういう意味では結構難しかったに違いない。思考が進むか止まるか紙一重だと思う。

 半年かけて行った授業でようやくプレゼンを迎える。結果、今までのどの年よりも見た目は地味であった。しかしデザインという言葉の表面だけの華やかさ、そして経済や消費に埋没した生産の危うさ。そんな事に対して弱くも真っ向から直球で向かっていこうという気持ちよさ、素直さ、潔さ、そんな姿勢に好感がもてた。
地域や地場、そこに生きる人びと、そしてそこから創られるモノがどう存在していくことが社会に貢献出来るか?そこで自分はデザインを通して何が出来るか? そんなことをこれからすこーし感じてくれたらありがたい。
 
 いくつかの学生の作品のなかで下村麻友子さんのデザインを紹介します。「音」をひとつのテーマにしています。杉という素材の奏でる軽い音を何とか出せないか? そんなことをずーとやってました。


●<なぐも・かつし>デザイナー
ナグモデザイン事務所 代表。新潟県六日町生まれ。 家具や景観プロダクトを中心に活動。
最近はひとやまちづくりを通したデザインに奮闘。著書『デザイン図鑑+ナグモノガタリ』(ラトルズ)など。
日本全国スギダラケ倶楽部 本部



「カタコト」が出来るまで。

 文 写真/下村麻友子
 

 今回「杉といく懐かしい未来」というテーマを受けて、まずは杉という素材を知ることは勿論、「懐かしさ」という言葉のもつ意味を考えることからスタートしました。
「懐かしさ」は、「なんとなく」の行為の味わいみたいな、たとえば、ふと窓から空模様を見たり、電話しながらペンをもっていると無意識に落書きを描いてしまったり、音楽を聴きながら自然と指でリズムをとっていたりするときとか、そんなものだと思います。そうやって過ごすことが多い家での時間を演出してくれる、玩具のような家具を作ってみたいと思いました。
かるく杉を叩いたときにでる音がやわらかく心地よかったので、杉材を叩き続けて数時間、数日、数週間……。杉同士をぶつけたときの音を楽しめる家具を作ってみたいと思い、木琴のうえに座っちゃえばいいじゃん!という感じのノリで模型やスケッチを続けました。腰掛けるときに音が鳴るしくみを、板にバネを取り付けて試みましたが、金具を取り付けて固定させると手入れをするのも不便……。
シーソーみたいに動かしては?というアドバイスを先生からいただき、パイプに串刺しにして固定の枠を作り、Aをパイプにのせるだけで、固定の枠Bにぶつかったときに音が鳴るようにしました(図2)。
勢いよく腰掛けるとAが固定されていないためパイプから外れてしまい危険だったので、Aにジャンパーホックを取り付けて革でパイプを包むことにしました(写真1)。
木口が並ぶ様は綺麗で、でも不揃でナカナカかわいい! 実作中も簡単に傷がついてしまいましたが、水をつけて磨くとすぐに元通りになることを教わりました。愛情を注ぎ続けてあげれば生き続けるんだなぁ、とモノの大切さを身にしみて感じました。
また、「素材に適した自然な形」というものを、先生方や見学させていただいた製材所の方(材料の手配もしてもらいました)、そして職業訓練校の先生、杉のカットと加工をしてくれた職人さん、ステンレスの足を作ってくれた鉄鋼所の職人さんから学びました。大感謝です。

 杉は社会に対しての「やさしさ」を考えるきっかけをあたえてくれました。今後いろんな素材で家具を作っていきたいと思いますが、その出発が杉だったことは、未来の私にはとても重要なことになるような気がしています。スギダイスキ。

 

●図1

●図2

●写真1
上の列の背面、パイプに固定するディティール

 

●写真2,3
下の一列が固定枠、上の列が座った時、パイプを支点にシーソーのように傾き、カタコトと音が出る。杉の音は乾いた軽い音でとても気持ちのいい音です。

 
 

●写真4
本当はこの幅でどこまでも続くようなずっと長いものをつくりたかったンですが、予算の関係と自分の部屋に入れる関係上今回はこのサイズにしました。

●<しもむら・まいこ>ICSカレッジオブアーツ学生

 

●写真5
本人が座る

展示風景 tsustusni ohitsu
   
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