今回「杉といく懐かしい未来」というテーマを受けて、まずは杉という素材を知ることは勿論、「懐かしさ」という言葉のもつ意味を考えることからスタートしました。
「懐かしさ」は、「なんとなく」の行為の味わいみたいな、たとえば、ふと窓から空模様を見たり、電話しながらペンをもっていると無意識に落書きを描いてしまったり、音楽を聴きながら自然と指でリズムをとっていたりするときとか、そんなものだと思います。そうやって過ごすことが多い家での時間を演出してくれる、玩具のような家具を作ってみたいと思いました。
かるく杉を叩いたときにでる音がやわらかく心地よかったので、杉材を叩き続けて数時間、数日、数週間……。杉同士をぶつけたときの音を楽しめる家具を作ってみたいと思い、木琴のうえに座っちゃえばいいじゃん!という感じのノリで模型やスケッチを続けました。腰掛けるときに音が鳴るしくみを、板にバネを取り付けて試みましたが、金具を取り付けて固定させると手入れをするのも不便……。
シーソーみたいに動かしては?というアドバイスを先生からいただき、パイプに串刺しにして固定の枠を作り、Aをパイプにのせるだけで、固定の枠Bにぶつかったときに音が鳴るようにしました(図2)。
勢いよく腰掛けるとAが固定されていないためパイプから外れてしまい危険だったので、Aにジャンパーホックを取り付けて革でパイプを包むことにしました(写真1)。
木口が並ぶ様は綺麗で、でも不揃でナカナカかわいい! 実作中も簡単に傷がついてしまいましたが、水をつけて磨くとすぐに元通りになることを教わりました。愛情を注ぎ続けてあげれば生き続けるんだなぁ、とモノの大切さを身にしみて感じました。
また、「素材に適した自然な形」というものを、先生方や見学させていただいた製材所の方(材料の手配もしてもらいました)、そして職業訓練校の先生、杉のカットと加工をしてくれた職人さん、ステンレスの足を作ってくれた鉄鋼所の職人さんから学びました。大感謝です。
杉は社会に対しての「やさしさ」を考えるきっかけをあたえてくれました。今後いろんな素材で家具を作っていきたいと思いますが、その出発が杉だったことは、未来の私にはとても重要なことになるような気がしています。スギダイスキ。