連載

 
吉野杉をハラオシしよう!〜“駆け出し”専務の修行日記〜第2回
文/写真 石橋 輝一
鍛え系杉連載。さぁ、吉野中央3代目と一緒に勉強だ!
 
   

 こんにちは。連載2回目です。奈良県吉野より今月も元気いっぱいでお贈りします!
それでは早速ですが、皆さんとご一緒に製材所の仕事の様子を覗いてみましょう。

 製材所の中では色々な機械があり、原木を挽く(大割りする)「送材車付“帯のこ”盤」や大割りした材を仕上げる「テーブル“帯のこ”盤」などが、大音響を奏でながら活躍しています。「送材車付“帯のこ”盤」と分かりづらい名前が付いていますが、これは原木を送材車に載せて、回転している“帯のこ”盤に通していく機械です。「テーブル“帯のこ”盤」は送材車がないバージョンで、手作業で通していくので細かい作業ができます。

(写真左、中)送材車付“帯のこ”盤です。左の写真の右手前に写っているのが送材車です。これに原木を載せます。(写真右)テーブル“帯のこ”盤です。両サイドに人が立ち、押したり引いたりして、寸法を調整していきます。

 しかし本当に製材所の中は木を挽く音で1日中うるさく、否、大音響を奏でています。僕の家は製材工場の隣にあるので、小さい頃からこれが普通だと思っていましたが、よく考えればちょっと異常な住環境です。幸いにも夜遅くまでの作業をする事はないので、夜は虫の音が心地よい程の静けさです。昼と夜とでは大違いです。
 さてさて、製材所の仕事ですが、「これがなければ始まらない」というものがあります。それは材料でもあり、また製品でもある「木」そのものです。我々は原木を挽き、柱や梁などの製品を作る製造業なわけですから。
 ところで、自動車や電化製品などの主な「製造業」は色々な部品を組み合わせる「プラス」の世界だと思うのですが、我々の仕事は同じ「製造業」の分類でも、1本の原木を挽いて、どんどん取り外して行き、柱や梁などを作る、言わば「マイナス」の世界なわけです。しかも1回挽いてしまうとやり直しはできません。挽いてしまった木をくっつけて製品にする事はできないのです。この難しさは木が自然素材である証拠だと思います。自然との対話の中で製品を作っていく「製造業」が我々の「製材業」という事でしょうか。
 少し話がそれましたが、つまり我々製材業は原木が無ければ何も始まらないわけで、今回は原木の仕入れの現場をご紹介したいと思います。
 我々が原木を手に入れる手段は2つあります。
 まず1つは自分が所有している山から木を伐り出す。
 もう1つは原木市で木を買う。
 一番オーソドックスなのは、やはり原木市にて木を仕入れる事です。
 では、原木市とは何でしょうか。
 市場と聞いてイメージするのは、東京の築地市場などの魚介類や野菜類のセリを行う場所ですが、原木市場も同じです。杉や桧などがセリにかけられていくわけです。
 吉野地方には大きな原木市場がいくつもあります。自動車で30分圏内に10市場。さすが日本有数の木材産地です。多くの市場では月に2回ほど市が開かれます。ですから日曜祝日を除けば、ほぼ毎日どこかで市が開催されているわけです。
 それでは、原木はどこから集まってくるのでしょうか。
 やはり吉野地方のものが多いようです。吉野の中でも特に良い木が多い産地として、川上村や東吉野村が挙げられます。年間降水量や平均気温などの気候条件や、生育に適した土壌などが要因のようです。同じ杉、桧でも山が違えば、驚く程違いが出てきます。魚や野菜が育つ場所や育て方によって味が違ってくるように、材木も質が違ってくるわけです。吉野産の杉、桧がブランド化されているのは、何も名前だけではなく、耐久性に優れ、色艶が良く、曲がりが少ないなどの品質が優れているからなのです。
 1回の市で取引される原木量は杉と桧を合わせて、多い時で5千石、約1,400?にもなります。これは一般的な2階建て木造住宅のなんと50棟分以上に当たります。
 また、1回の市での売上金額は5千万円に上ります。しかしピーク時であった平成8年あたりと比較すると現在の原木量は約半分、売上金額も3分の1程度になったそうです。何とも寂しい現実です。
 私も原木市場でのセリに参加しました。参加すると言っても、とりあえずは見学。今回は吉野でも規模の大きい吉野木材協同組合連合会の原木市に行ってきました。


     

 どこの原木市場でも同じセリのスタイルのようで、「振り子」と呼ばれる市場の職員さんが、原木を1本ずつセリにかけていきます。振り子さんの「さあ、こちら5万から〜」という甲高い掛け声に、我々買い方は購入の意志を伝えます。ライバルがいなければ落札というわけです。ライバルがいれば、価格が上がっていくわけです。当たり前ですが……。

 購入の意思の伝え方は、軽く手を上げる感じです。振り子さんの掛け声にすばやく反応して、サッと軽く手を上げます。手を上げるというか、手首を少し曲げる程度のような感じです。普段はあまり使わないそうですが、指を動かして金額を振り子さんに伝える事もあるそうです。木材業界の指数字をご紹介致しましょう。

 

上北部長です。
原木市では番号入りの帽子を被ります。
吉野中央木材は27番です。


これがセリの時の手の上げ方。なんか僕がやると、授業参観日に自信がないのに手を上げる小学生のようです。

 
木材業界の指数字を伝授いたしましょう。 (左上から順に)
「1」まあ普通です。「2」ピースです。 次が「3」真ん中3本使います。「4」これも普通ですね。「5」当たり前ですよね。
ここからが本番。 「6」ですよ!。次が「7」なんです。そして「8」!。ズキューン!! 「9」!マニアの世界に入りましたよ!
そして最後が「10」。グッドラック

 さて、この金額ですが、1本単位での金額ではなく、「材積」と呼ばれる立米あたりの単価なのです。ちょっとややこしいのですが、木材の世界では原木でも製品でも材積単価がなぜか多く、一見すると「おお!結構すごい値段!」と思うのですが、実はそうではないのです。例えば吉野杉の梁で長さ4m、幅240o、厚120oの一等材の場合(この“一等材”という等級がまたややこしいのですが、これはまたの機会に)、立米単価(“りゅ−べたんか”と読みます)では「10万円」なんですが、材積は0.1152立米なので、1本あたりは11,520円になるわけです。
 僕も初めて見積書を見た時に「吉野杉ってやっぱり高いんだなぁ、こりゃうちの会社、結構儲かっているなぁ♪」と思ったものの、実はそうじゃないとすぐに分かって、ズッコケました。
 話を原木市に戻します。
 木を買うにあたっては、何を目安に木を買えばよいのでしょうか。吉野中央木材の杉の責任者である上北部長にいろいろ教えて頂きました。
 まず、断面を見ます。ここの木目が細かいこと。木目が細かいということは、木がしっかりしている証なのです。特に芯の方の木目の詰まり方が重要だそうです。次にきれいな円形であること。年輪が円形でないという事は、でこぼこな木であるということで、使えない部分が多くなるというわけです。これを「木取りが悪い」と言います。また、この断面の色の具合や、木目の揺れ具合を見て、木が腐ってないか、異常はないかを判断します(この“異常”ですが、奥が深いです。これはまた後ほど……)。
 さらに木全体の姿を見ます。やはり曲がりの少ないものを選びます。曲がっている木は木取りが悪いからです。木の表皮も見ます。枝の跡があるかないかを見るのです。伐採した時に切り落とした枝の跡は僕でもすぐに分かりますが、表皮の残る節の形を見て、「枝打ち」がいつ頃行われたかを推測するのは経験の成せる技です。「枝打ち」とはご存知の方も多いかと思いますが、木の育成中に枝を切り落とす作業のことです。枝打ちの時期が早ければ、節は芯の付近でなければ出てきません。つまり製品(柱や梁材など)とした時にその表面に節が出る確率が少なくなるわけです。枝打ちの時期が遅ければ、表皮近くで節が出てくるので、製品の表面に節が出やすくなります。木材の世界では節の少ないものが良いものとされているので、なるべく節が少なそうな原木を選ぶわけです。
 さらにさらに、木の表皮には驚くべき情報が隠されています。それは「シナ」と呼ばれる“異常”です。強風などで木がしなった(曲がった)時に、曲がって圧縮した側(伸びた側ではなく)は木の繊維が切れてしまい、木は自分でその傷を修復するのですが、その手術跡が残ってしまうのです。これをシナと呼び、嫌われます。ですが、木が自分で修復した後なのですから、なんというか生命力の凄さを僕は感じます。このシナは表皮にも現れますが、表皮の中に水平方向に筋が入るのです。しかし簡単には分かりません。

 
  原木市場では木の断面に数字が書かれています。青字の「34」はこの木の直径です。一番狭い部分で直径が決められます。材積を出す根拠になります。白地の「60」と「27」は、平米単価60,000円で買い方番号「27」の吉野中央木材が競り落としたという意味です。

 
  原木市場でのひとコマ。手前と奥側で何か違うと思いませんか。そうです。皮が剥かれているもの、いないものの違いです。杉は皮が剥かれているほうが水分が飛びやすく、赤味の色合いが綺麗になります。ですが、水分が飛びすぎると内部で日割れを起こすので注意が必要です。本文でご紹介した「シナ」の判断基準は皮にあると書きました。皮がなかったら分からないじゃないか!?と思いますが、幸い「シナ」は桧に多く、杉には比較的少ないそうです。これは杉の柔軟性が関係しているようです。

 
  中央部分に縦方向に筋が見えます。これが「シナ」です(これは桧のシナです)。写真が上手く撮れていなくて、すみません。ちょっと分かりづらいです。どうですか?手術の跡っぽいでしょ?

 原木市に行ってみて思ったのは、「職人」というか、「プロフェッショナル」ということです。木を買ってきて、寸法通り挽いているだけではないのです。すごいなぁ、職人芸だわ、これは……。僕も頑張って早く覚えないとなぁ、と痛感するのでした。
 次回もこの調子で製材所の中へ入って行きたいと思います。

つづく



●<いしばし・てるいち> 吉野杉・吉野桧の製造加工販売「吉野中央木材」3代目(いちおう専務)。
杉歴ただいま3ヶ月の駆け出し。杉マスターを目指し修行中。
吉野中央木材ホームページ http://www.homarewood.co.jp
ブログ「吉野木材修行日記」http://blogs.yahoo.co.jp/teruhomarewood もよろしく! ほぼ毎日更新中です。


 
   
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