連載

 
杉暦 3月、おまけもあります。)
文/写真 石田紀佳

季節ごとにうつりゆく杉の姿を紹介。杉ってこんなにも表情豊かだったのです。

 
 
3月の杉暦

3月13日、神奈川県の定点観測地には雪。となりのMさんが「この時期いちどは降るんだよなぁ」といって空を仰ぐ。種子を落としきってカラっぽになった杉ぼっくりにも、ほんのきざしの新芽にも、雪のかけらが降りかかりました。

   
  去年の6月の創刊号に「4月と5月の杉暦」でスタートしたので、この3月でちょうど一年の杉を追ったことになりました。一年やって、ようやく杉にはそれぞれ個性があるのだと、それは植物でも動物でも人でもいえることでしょうが、わかってきました。そして、季節のうつろいは毎年同じではない、ということも。単なる植物好きというだけで、しろうとくさいレポートを続けてきましたが、こんな機会を持てたことがありがたいです。まるで子どものように杉をみつめることができました。それはものをみる目、感じる心の、慣れきったくもりをはらうことでもありました。はじめて見るものがまだこんな近くにあったことに驚きました。たぶん死ぬまで「はじめて」がつづくのだろうと、そんなこと一年前は思わなかったのに、今思います。この世の無数の杉ぼっくりさんたち、ありがとう。
 
   
  3月定点杉のたそがれ
  アンテナはいつまでもつか
 
  カラっぽになった杉ぼっくりたち

 
  ●<いしだ・のりか>フリーランスキュレ−タ−
1965年京都生まれ、金沢にて小学2年時まで杉の校舎で杉の机と椅子に触れる。
「人と自然とものづくり」をキーワードに「手仕事」を執筆や展覧会企画などで紹介。
 

 
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