6月4日、日南市飫肥城跡そばのオビダラリーで「コケ玉作り」が行われた。主に飫肥杉を取り扱う南那珂森林組合が行うイベントで、スギとコケのコラボレーション企画として行おうという試みだ。
オビダラリー発足と、この企画が行われるまでを綴ってみたいと思う。
まず、この「オビダラリー」であるが、元は日南市・地元木工加工業者・地域住民・デザイナー等で作っている日南飫肥杉デザイン会のショールームを作りたい！ということで、平成25年度の日南市の緊急雇用創出事業として、25年の8月から26年3月までの期間限定の店舗としてオープンした。

江藤「何？」（とても不安）
伸「来年度もオビダラリーやりたいんですよね。あそこは組合の宣伝にもなるし、ゆくゆくは加工品だけじゃなく、組合の他の事業もアピール出来る場所にしたいんですよ。でも今年度で日南市の予算は無くなるっす。やるなら自力でやっていくしかないです。」
江藤「組合の判断としては、利益出すか、PRの場としての可能性を示すしかないよ。来年度オビダラリーでどんな企画してどれだけ人を集めてどれだけ売るかをプレゼンすれば？」
オビダラリーを存続させたいという気持ちは僕も同じだったので、自分なりの上司受けしそうなアドバイスをした。
伸「分かりました。今年度の実績と来年度の計画を作ってきます。」
そう言って伸は、夜を徹して資料を作った。（プロジェクトX風で見てください…）
2月下旬、組合の部長、参事、専務を集めてのプレゼンが開催された。
伸「今年度は日南市の雇用対策事業の一環だったので、経費は組合では計上していません。これを人件費や光熱費、住宅費など計上していくとこれぐらいになります。売上は年間これぐらいを見積もっています。結果赤字ですが、組合のPRや製材品の相乗効果が得られると思います。」
そうだった、忘れていた。」伸は馬鹿正直だったのだ。
部長・参事・専務「赤字じゃ理事会通らんじゃろ。なんか売上をあげて黒字にせんと納得せんわ。」
伸「オビダラリーのスタッフは2名から1名に減らし、店舗での販売の他にネットショップ（杉屋）での販売管理もしてもらおうと思います。あと、出来ればレーザー彫刻機を入れて小物の製作販売もやりたいです。」
部長・参事・専務「なら、それを書いてこんか。その売上や経費の削減を理事会で説明せんといかんがね。で、これはいつまでに組合長の許可がいると？」
伸「実は『飫肥城下町食べ歩き町歩きマップ』ってのにオビダラリーを掲載してもらおうと思ってまして…その返事が今日までです。」
さすが伸、通さねばならない状況を作りあげてのキラーパスである。「今日OK出さないと出来ませんよ！」と上司にプレッシャーを与えている。出来る漢（おとこ）だ。
一同「なんかそら！明日まで待ってもらえ!!はよ資料作り直せ!!!」
伸の思惑通りとは行かなかったが、部長・参事・専務はOK出してくれそうだ。
至急飫肥に電話し、明日の午前中まで返事を待ってもらうことにし、そこから資料の作り直しが始まった。
伸「江藤課長！どうしましょう？」
おっと、こっちにもパスが来てしまった。
江藤「経費のほうは加工事業の事務経費の削減分を示せば？売上は適当に載せるしかないやろ。あとはもう、計画に合わせて来年度死ぬ気で売れば？」
伸「じゃあ売上はレーザー加工品でこれくらい乗せます。経費のほうは今から算出します。」
経費削減の部分にてこずり、朝までかかって資料は作り直された。
翌朝、組合長に説明に行き、黒字がでる！ということでOKをもらえたのである…
こうして26年度、オビダラリーの存続は確定したが、次の問題はスタッフをどうするかだった。25年度までは販売は考えなくて良かったが、26年度は売って売って売りまくらなければいけない。お客を引きつけるだけの魅力的な企画が出来るスタッフが必要だ。
25年度スタッフの2人にも聞いてみたが、単年度雇用と聞いていたのでもう次の仕事を探してしまっていた。
そこで僕と同い年で、伸の右腕で容赦ない突っ込みと完璧な事務処理を行う、伸が「姉さん」と呼ぶ山崎女史に相談してみる。
伸「姉さん、誰かいい人いないっすかね」
山崎姉さん「いるよ！」
テレビドラマHEROのマスターばりに即答だ。
紹介してもらったのはこれまた僕と同い年の大谷女史。以前別のイベントでお会いしたことが有り、オビダラリーの内容をざっくりと説明すると、面白そうだと引き受けてくれた。
この大谷女史、色んな仕事を経験しており、地元の交友関係も幅広い。カラーコーディネータなどの資格も持っており、商品レイアウトや店舗の色使いが素敵だ。
伸が最近、「チーム40」と呼ぶ僕・山崎・大谷と、ちょっと若いからといい気になっている伸4人の打合せの中で、オビダラリーで毎月色んなイベントをやりたいということになった。オビダラリーは何か面白いことやってるぞと認知されればそれを伝手に人が集まるんじゃないか、との考えだ。じゃあどんなイベントやるかの話になり、色んな意見が出た「杉玉は作りたいよね。七夕も何かやりたい。木工教室も。クリスマスはリースを作ろう！」収拾がつかないので、まず第1弾何をやるかを決めることになった。そこで伸から「服部植物研究所から一緒にコケ玉づくりをやりたいって来てるんだけど。」との提案があり、即採用となった。
服部植物研究所は日本有数のコケの研究所で、ナンジャモンジャゴケというコケの研究・発表を行ったコケ界では有名な所だ。理事長の南壽さんは日南飫肥杉デザイン会の会員でもあり、自伐林家でもある。
ここでやっているコケ玉づくりをオビダラリーでやろうという訳だ。
フライヤーを作り、数週間前から告知を行い、26年6月4日、服部植物研究所×オビダラリー「コケ玉づくり」開催の運びとなった。
当日は日南市内外から30〜80代22名が集い、思い思いのコケ玉づくりに勤しんでもらった。杉に囲まれた空間でコケと土に触れる。気分は飫肥杉の林の中だ。参加者はコケ玉に見立てたカップケーキとコーヒーをほおばりながらコケ玉談義に花を、いやコケを咲かせていた。

雨量も十分で肥沃な土地にでんとそびえ立つスギの巨木には必ず根から幹にかけて見事なコケが育っている。鮮やかな緑から幹の茶色、そして杉の葉の濃い緑へのグラデーションは自然の織りなすアートだ。
杉と苔、それぞれ種は異なり、形態も違うが同じ場所でそれぞれが邪魔にならずに共存共栄を何千年も繰り返している。
日南飫肥杉デザイン会が目指す「一家に一台飫肥杉製品を」は、このように自然に、気負わずそばにあり、なおかつ美しい、苔と杉のような関係を目指しているのだと、美味しいコケパンケーキを食べながらしみじみ思った。