特集 杉と苔
  地域とオビダラリー
文/ 河野伸行
   
 
 

だいたい日南の杉騒動はこの人から始まる。
月刊杉を書かせて頂くのは2回目だが、初めて書いたときもそうだった。
「河野さん、河野さんから電話です。」
南那珂森林組合のスタッフは河野ばかりだ。だいたいが河野である。そのなかでも河野さんから電話です、と言われれば、だいたい日南市役所の河野健一さんからだと分かる。
「日南市飫肥城下町で、飫肥杉のアンテナショップをやりませんか?予算要求しようかと。やってくれるのであれば………」
いつもながらに熱かった。しかし直感でおもしろそうだと感じた。
これがオビダラリーの始まりだった。

   
  オビダラリーは、平成25年7月24日〜平成26年3月31日の間、日南市からの緊急雇用創出事業として南那珂森林組合が業務委託をうけ運営してきた。私自身ショップを担当することは初めての経験である。
右も左も分からない。まずは店探しだろうと健一さんと二人で夏の炎天下のなか飫肥城下町を歩きまわった。そこで見つけたのが築年数100年を超えていると思われる古民家だった。数年前まではこの古民家で染物店をされていたそうだ。
年間10万人以上の観光客が訪れる飫肥城下町で、決して人通りが多くはない通りに面する空き店舗だが、その何とも言えない落ち着いた雰囲気に魅せられ、即決した。
   
 
 

空き店舗だったころ(25.6.13)

   
 
 
それからオープンするまでは猛ダッシュで準備をすすめた。
 
   
スタッフの泉さんが一生懸命開店準備(25.08.05〜19)    
   
 

そしてめでたく平成25年8月20日に開店することができた。屋号は飫肥杉ダラケのギャラリー「オビダラリー」。スギダラ的な名前がついた。
オープニングセレモニーは日南市稲本副市長をはじめ、日南飫肥杉デザイン会池田会長、出展者の方々、関係者の大勢に参加して頂いた。

   
 
 
 

日南市稲本副市長と南那珂森林組合島田代表理事組合長による暖簾かけと、テープカットならぬ飫肥杉丸太カットで幕開け

   
 
 
もちろんこの人も。オビダラリーの名付け親   オープンに関わったメンバーでの木念撮影
   
 

展示販売する商品も日南市内の杉モノだけでなく、鹿沼のすごい木工プロジェクトから「ENGIMNOシリーズ」、造形作家有馬晋平さんから「スギコダマ」、森商事さんから「宝物づくり」など、杉絆により全国から素敵な杉モノを展示販売することができた。
「なぜ飫肥杉ダラケのギャラリーなのに、飫肥杉以外の商品もあるの?」
と聞かれることがあった。それは全国にはこんな素晴らしい杉モノがある。それを日南の人たちに知ってもらうことで、スギに対するマイナス的な印象や思い込みを違う方向に変れるではないか。少しでもスギを使いたくなるような動きが起きるのではないか。と期待したからである。
飫肥杉はかつて弁甲材として有名だった…と今は過去の存在とされることもある。また心材と辺材の乾燥度合の差があること、年輪幅が広いことから小物や家具には向かないと言われることもある。確かに飫肥杉にはそのような性質がある。しかしながらそのような材質は弁甲材として利用するためにはやく成長するよう、大きく太らせるよう考えた人の手でつくられたものでもあるとも言える。現在伐採している大径材は私たちのおじいちゃん、おばあちゃんの先祖が植林してくれたものだ。その時植えてくれた先祖は現況を想定してなかっただろう。自己の財産ではなく子孫のために残そうと考え、植林し、手入れしてくれていたと思う。現在バイオマスエネルギー資源としての活用が見出されている。
それは林業の活性化が期待できる新たな取り組みであり、林業団体の職員として大変期待している。それと同時に木を木としてつかう、木質の欠点と向き合うことも大切であると思う。傷つきやすいなら大切に扱う、柔らかいからこそあたたかみがある、メンテナンスをすればまた新しくなるから長く使えるなど店舗にいるとお客様から耳にすることがあった。
私よりぐんと若い人から言われ驚いたこともある。ここ数年飫肥杉に対する風向きが変わってきたことを肌に感じている。その追い風を感じながら日南市からの委託業務満了間近の2月を迎えていた。

   
 

オビダラリーは想像以上の集客があった。しかし運営状況はというとなかなか日南市からの補助がなければ厳しいものであった。そろそろ店舗賃貸契約も切れる。緊急雇用創出事業として来てくれた2名の雇用も満了する。そんな時期に服部植物研究所の南壽敏郎さんによく相談していた。

「オビダラリーは絶対残すべきだよ、俺がしてもいいくらい、森林組合が継続することは絶対意味がある。コケ玉づくりのコラボイベントなんかも出来るんじゃない、来てくれた人にコーヒーとか出してさぁ」

その時私はうまく返答できなかった。なぜかというと4月以降自力運営での継続許可が森林組合からなかなかもらえそうになかったからである。しかしその言葉に何かスイッチを入れてもらったような気がする。それから組合内に継続することの可能性を提案し続けた。まわりから見ると必死だったと思う。それはオープンしてからの約8カ月間、日南市からの委託事業という位置づけに甘えていた自分に気づいたからでもあった。そして2月の終わり、継続の許可を頂いた。こんな若造のわがままにGOをだしてくれた森林組合上層部、私の独走についてきてくれる仲間に感謝している。

   
 

平成26年6月4日 オビダラリー×服部植物研究所とのコラボイベント「コケ玉づくり」を開催することができた。当日は出張が入ってしまい参加することができなかったが、定員を超える参加数、男女問わず幅広い年齢層の方々に体験して頂き、皆さんとても楽しそうだったと報告を受けた。あの時南壽敏郎さんと会って話していたことが実現できたことに大きな喜びがあった。

   
 
 
     
 
     
 
     
 
     
 

オビダラリーは日南という地域に育てられながら運営できている。飫肥に住まれている方々がオビダラリーの店舗レイアウトを一緒に考たり、ワークショップの講師をしてくれたり、庭木を剪定してくれたり、お客さんを紹介してくれたり、ありがたい、大切にしたい繋がりが今ある。
obisugidesignやSUGIFTを手掛ける日南飫肥杉デザイン会のメンバーも、端材があるからあげるよとか、傷ついた展示品は修理するからもってきな、と言って頂ける。鬼束準三建築事務所の鬼束さん、彼も相当おかしい。オビダラリーのためになにか協力できないか、とほぼボランティアで「オビータ君を探せ、オビだ!ラリーだ!クイズラリー」を企画した。
飫肥城下町内に潜めた10体のオビータ君を探しながらクイズラリーをする。参加してくれた人には非売品オビータ君バッチをプレゼントという企画を実行させた。5月22日には日南吾田東小学校4年生全員が飫肥杉を学ぶ授業のスタートとして参加してくれた。

   
 
 
     
 

オビダラリーはただの飫肥杉ダラケのギャラリーだけではない何かがある。
飫肥杉というのはきっかけであって、背景にいる人と人との繋がりがとても楽しい。
このような関係性が見えたときオビダラリーを運営していてよかったと感じる瞬間だ。
たぶん利益や価値だけではない、林業だけではない、この繋がりが地域の活性化につながる礎なのではないかと思う。
オビダラリーはもうすぐ2年生になる。山林の飫肥杉と苔のように、地域とオビダラリーも少しずつ成長していきたい。

   
   
 

 

   
  ●<かわの・のぶゆき> 南那珂森林組合
   
 
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