特集 矢作川流域支部結成!!
  山・川・海 流域一体の川づくり 〜矢作川流域圏懇談会〜
文•写真/西原 均
   
 
 

豊橋河川事務所では、矢作川流域の方々のご意見を踏まえて平成21年7月に国が管理する区間の「矢作川水系河川整備計画」を策定した。今後、矢作川における治水、利水、環境、維持管理の課題を解決し目標を達成していくためには、川の中だけの視点ではなく、水のつながりという視点で山から海までの流域圏全体を対象として、多様な課題の解決に向け、市民、関係機関、有識者、行政が一緒に話し合い、役割をもちながら連携・協働していくことが必要であり、これにより調和のとれた流域圏全体の発展に繋がると考えている。そのため、矢作川流域では、平成22年8月に「矢作川流域圏懇談会」を設立し、様々な議論や取り組みを行ってきている。


   
  1.はじめに
 
矢作川では、当面の具体的な川づくりの内容を定める「矢作川水系河川整備計画」を、学識経験者等からなる矢作川流域委員会での審議、地元住民との意見交換会、関係自治体との協議等を踏まえて、平成21年7月30日に策定したが、策定段階において様々なご意見を頂いた。  その意見は、大きく二つあり、一つは平成12年の恵南豪雨(東海豪雨)により矢作ダム湖に大量の流木の流入やや土砂の堆積がみられた状況などから「水源地域から三河湾に渡る矢作川流域圏に係わる治水、利水、環境、土砂管理、 森林荒廃、三河湾再生、地域活性化等の諸課題の解決は、河川管理者のみでは困難である。」もう一つは「河川管理者が「矢作川水系河川整備計画」の目標を達成するためには関係者間の連携を図らなければいけない。」ということであった。  
   
 
図-1 矢作川流域図
   
  これを受けて、矢作川水系河川整備計画の中で、民・学・官の連携・協働による諸課題解決に取り組む必要があることが明記された。そこで、市民、学識経験者、行政等の関係者相互が"流域は一つ、運命共同体"という共通認識のもと情報共有・意見交換を行い、多様な問題解決に向けて連携した取り組みを総合的に進める新たな枠組みとして「矢作川流域圏懇談会(以下「流域圏懇談会」」を平成22年8月28日に設立した。
   
  2.矢作川流域圏懇談会の組織形態
  矢作川流域圏とは、矢作川流域、その他流域に接する海域、及び矢作川が氾濫する地域や矢作川の水利用地域を含む一体的な地域としている。  流域圏懇談会は、「全体会議」「地域部会」「市民会議」を基本とし、「ワーキング」、「勉強会」、「市民企画会議」から構成される。  「全体会議」は、各地域部会で検討した課題やその解決手法を流域全体でとりまとめ、情報を一元化すると共に、各地域部会へフィードバックするもの、「地域部会」は、流域圏を山・川・海の3つに分け、それぞれの地域特性に応じた課題等を意見交換する場、「市民会議」は、市民が独自に会議を開催するもので、そこから意見・課題をもって、地域部会に参加する。 また、「ワーキング」は地域部会の活動をより具体化するために毎月1回程度の頻度で開催している。「勉強会」や「市民企画会議」は市民が中心となり課題等に関する理解を深め議論を円滑に進めるための場となっている。
 
現在(平成26年 5月時点)の参加組 織は、 ・個人19名、市民 団体37団体 ・民は、森林組合、 漁業協同組合、土地 改良区、中部電力(株)、矢作川沿岸水質保全対策協議会等の14団体 ・学識経験者は12名 ・県、市町村は、愛知県をはじめとする3県13市4町2村 ・国の機関は、林野庁中部森林管理局、農林水産省東海農政局、環境省中部地方環境事務所、国土交通省中部地方整備局の3省1庁である。  
   
 
図-2 流通圏懇談会組織図
   
  3.様々な課題の解決に向けた具体的な取り組みについて
 
 流域圏懇談会では、当面の活動を9年を目処に行うこととし、3年を一サイクルとして進めている。現在は設立後5年目になり、組織や体制づくりを終え、課題の解決に向けた取り組みを行っている。  山部会では、@人と地域の問題やA森の問題に対して、4つの検討テーマを設けて話し合いを進めている。  
   
 
図-3  当面の活動イメージ
   
 
   
  現在は主に「山村再生担い手づくり事例集」の作成や「木づかいガイドライン」の策定に向けた検討を行っている。
   
 
 
図4 山村再生担い手づくり事例集
   
  川部会では、当面のテーマを2つに絞り、3つのモデルを設定した上で、話し合いを進めている。本川モデルでは、@矢作川本川と支川の移動阻害の解消(家下川、加茂川等)、A瀬や淵の改善(白浜地区)等を進めている他、関係機関が実施する事業に関する意見交換を行っている。家下川モデルでは関係機関における情報共有を進め、生き物の移動阻害を解消するための具体的な取り組みを行うための意見交換や流域圏懇談会としての理想を形にする取り組みを行っている。地先モデルにおいては、流域圏において活動している市民団体との意見交換を進め、課題の把握・抽出を行うとともに、様々な分野における矢作川流域の専門家リストの作成を行っている。
   
 
   
  海部会では、当面のテーマを4つに絞って検討を進めている。ごみ・流木問題では積極的に周辺の関係団体と活動を連携し、「ごみ・流木調査票」を策定し、矢作川流域におけるごみ・流木の調査を行っている。海と人との絆再生では、流域の子供達と積極的に交流し、"人が海に近づきふれあう"ための調査を進めている。豊かな海の生物調査や干潟・ヨシ原の再生については、ダム砂を用いた干潟環境の改善に向けた取り組みを進めている。
   
 
   
  4.課題解決に向けた部会連携について
  課題の解決にあっては、山・川・海の3部会の積極的な連携が必要であり、3部会に共通する課題を流域連携テーマ(@ごみ・流木問題A土砂B木づかい)として定め、話し合いを進めている。連携テーマの検討に際しては、各テーマ毎の代表担当者を中心に進めている。
   
 

5.おわりに

   流域圏懇談会は、来年度で6年目を迎え、第2サイクルの最終年になるため、課題解決の一つの区切りになると考えている。今後は、各地域部会での取り組みが流域圏一体となった取り組みに近づくよう進めていきたい。また、活動成果の積極的なPRや情報発信などにより更なる組織づくりと取り組みの推進を図りたいと考えている。 
   
   
  ●<にしはら・ひとし> 国土交通省 中部地方整備局 豊橋河川事務所
   
 
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