特集 矢作川流域支部結成!!
  矢作川の森づくりと木づかいに思うこと
文•写真/洲崎燈子
   
 
  このたび日本全国スギダラケ倶楽部の矢作川流域支部が設立の運びとなりましたことを大変嬉しく思っております。9月に根羽村で初めて若杉さんの、温かくすてきな木工デザインとおやじギャグに満ちた講演をお聞きした時の衝撃を思い出します。何の変哲もない間伐材がちょっとした工夫でおしゃれな家具に早変わりしてしまうこと、若杉さんの豊富なアイディアと様々な人をまきこむ情熱、そして「スギダラは山と川下の悩みを杉でつなぐ」という言葉に深い感銘を受けました。矢作川流域のおよそ1/3の面積を占める人工林は約2/3がヒノキ林なので、ヒノキダラとスギダラで矢作川の上下流をつなぐお手伝いをしていきたいと思っています。
   
  私の勤める豊田市矢作川研究所は1994年に設立された愛知県豊田市の研究機関で、矢作川の豊かできれいな水と流域住民に潤いを与える自然環境作りをめざした調査・研究活動をしています。現在魚類、水生生物など異なったジャンルの研究者が7名おりますが、私は陸上植物の担当者として、流域の植生の現状と、その望ましい管理手法を調べています。また、市が行う公共空間の緑化や緑地管理に関してアドバイスをしたり、市民が主体となって行う森づくりのお手伝いも行っています。川の研究所なので、これまでにさまざまな河畔林づくりに関わってきました。
   
  豊田市内の矢作川の河畔林では、多くの水辺愛護会が活動しています。多くは定年退職された男性が中心になって、河辺にはびこるタケ類の伐採や草刈り、ゴミ拾い等を行ってくれています。メンバーの多くは子どもの頃、川に親しんで育ちましたが、大人になって会社勤めを始めると、川から離れた生活をするようになりました。しかし退職して時間ができて、ふと身近な河辺を見ると、荒れてジャングルのようになった林が目に入り、「これはいけない。昔慣れ親しんだ美しい河辺を取り戻したい」と愛護活動に関わるようになるのです。竹チップや竹炭、タケノコの生産に取り組むグループもあります。嬉々として活動に取り組まれる様子には、本当に頭が下がります。
   
  私は彼らのところに行って、これまでの調査結果に基づき、「人も親しみやすく、もともと河辺にいた生き物もすみやすい空間を作りましょう、そのために春〜夏からは草を全部刈るのではなく、一部刈り残すと、小動物が繁殖できる環境が残せますよ」「タケは皆伐でなく間伐すると、外来植物の増加を抑えられますよ」「サクラを植えたり花壇を作ったりしないで、自生する在来植物を大事にしましょう」などといったアドバイスをします。そして、豊田市は行政の立場から愛護活動を支援し、交流や学びの場を提供します。
   
  これは河畔林の例ですが、どんなタイプの林であっても木づかいは森づくりとセットで進めることが必要だと思います。持続可能な木づかいの実現は元金に手を付けず、利息を活用できる森づくりができるかに成否がかかっています。いまの林の姿と望ましい将来の姿を思い描き、そこにすむ生き物たちに配慮し、その中から木の使い方を編み出していくのです。それにはまた、地元の方々とのタッグが欠かせません。地域の林が生き生きとよみがえることを幸せに感じる人たちと手を携え、そうした人たちを増やすことが、持続可能な木づかい体制をより強固なものにするのだと思います。
 

 

  矢作川流域の半分近くを占める豊田市は、地方自治体としては大変先進的な森づくり条例を制定し、人工林の間伐を進めています。しかし木づかいは進んでいません。日本全国スギダラケ倶楽部矢作川流域支部の設立が、この地域に魅力的な木づかいの道筋を作り、流域材で上下流をつなぐ起爆剤となることを願っています。
   
 
写真説明:水辺愛護会と美しく整備された河辺(愛知県豊田市扶桑町 古鼡水辺公園)
   
 
   
 
   
  ●<すざき・とうこ> 豊田市矢作川研究所
   
 
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