連載

 
吉野杉をハラオシしよう!〜“駆け出し”専務の修行日記〜第5回
文/写真 石橋 輝一
鍛え系杉連載。さぁ、吉野中央3代目と一緒に勉強だ!
 
   
 こんにちは。連載5回目です。
奈良県吉野より今月も元気いっぱいでお贈りします!。

5月末になると、鮎漁が解禁となります。当社のすぐ近くを流れる吉野川も鮎釣りの方で賑わいを見せます。吉野川は都会に比べると、水もきれいに思えるのですが、最近では天然の鮎が少なくなり、琵琶湖の稚魚を放流しているようです。少し残念ではありますが、川原ではキャンプ、バーベキューを楽しまれる団体さんも増えて、活気にあふれます。真夏の暑い時期に涼しい水辺で、冷えたビールをグビグビいくのは最高の贅沢です。

さて今月からはいよいよ製材所の内部に潜入していきます。 前回、原木の購入する模様をお伝えしましたが、その原木が製材所に運ばれてくる所から始めましょう。

まず、各原木市場からトラックに載せられて原木はやって来るのですが、荷降ろしの仕方が結構迫力があります。 (写真1、2)

運ばれてきた原木はまず種類別、用途別に分けられます。
(写真3)

山から出材する時に原木は玉切りされ、株の方から「元玉(もとだま)」、「二番玉(にばんたま)」、「三番玉(さんばんたま)」…と言われると以前お話しましたが、それぞれの部位で性格が異なり、価値も用途も違ってきます。牛肉のカルビやロース、マグロの赤身や大トロなんかに近い感覚です。

それぞれの特徴を探って行きたいと思います。
まず、元玉は何といっても「節が出にくい」という事が一番の特徴です。節が出にくいという事は、育林中の「枝打ち」という作業が関係してきます。枝打ちとは、生育中の木の枝を切り落とす事ですが、良材をつくる為に欠かせない作業の一つです。そして、この枝打ちが行われるのが地上から5m付近くらい迄が多いというのがポイントなのです。だから元玉は節が出にくいのです。
ここで少し話がそれますが、枝の跡が節になる過程を少しご説明しましょう。

木は成長する段階で下の方の枝は自分で落として行きます。これは上部の枝の葉にしか光が当らない為で、必要のない枝は自然に枯れて落ちて行きます。この枝の跡は木が成長する中で木自身が自分の中に取り込みます。何十年も経てば、枝の跡は木の中にすっぽりと覆われてしまい、外から見ても分からなくなります。つまり枝打ちの有無に関わらず、枝は自然に落ちるのですが、早い段階(木が細い時)で枝打ちを行う事で、枝の跡である節は「木の中心」付近でしか出ないので、無節の高級品が取れる可能性が高くなります。枝打ちがされていない木は「木の外周」付近で節が出るため、一等に近い等級になってしまいます。

話は元に戻ります。元玉には欠点もあります。
株に近い為、曲がりが見られます。木は平面に生えているわけではなく斜面に生えているので、垂直方向に伸びようとして、株の部分で曲がるわけです。これは木の曲がりの問題だけでなく、株に近い部分の木目は根杢(ねもく)と呼ばれる複雑な木目となります。根杢は面白い形状をしていますが、スッとした感じが出ません。好みが分かれる所です。 (写真4)

また、元玉には目割れが多いと言われます。目割れとは木目に沿って「割れ」が入る事で、耐久性にも問題が出るので、製品にはなりません。目割れは寒さで起こると考えられています。つまり木内部の水分が凍り、水道管の破裂と同じような現象が起こるわけです。冬の寒い時期には木は水分を上部に吸い上げをせず、株付近で止まってしまいます。水の流れが止まる為に内部で凍結し破裂するようです。この目割れは白太の部分によく見られます。これは白太の部分が水の通り道になっているのが理由のようです。

さらに、元玉は葉節(はぶし)が多いと言われます。葉節とは、点状に見える細かい節で嫌われるのですが、これは株から2m位迄の部分でよく見られ、一説によると、根っこの一種ではないかと言われています。この葉節は針節とも書く場合があります。
(写真5)

さらにさらに、色が重いと言われる事もあります。やさしいピンク色が吉野杉の特徴でもあるのですが、色が重いとは杉の特徴でもある赤味の色合いが濃いという事なのです。杉の赤味は鉄分が空気中の酸素と結合して発色するものという話があり、株に近い元玉は鉄分が溜まりやすく、その含有量が多いからではないかと言われています。これには科学的な根拠がないのですが、言われてみれば、そうなのかな…と思ってしまいます。

昔は元玉で取った柱は最高とされていたようです。元玉は株がある為に上からの荷重に強いと考えられたからです。また元玉で取った柱の木目は「タケノコ杢」と呼ばれるタケノコがニョキニョキ生えていくような木目になり、見た目にも綺麗で縁起の良いものなので、非常に好まれました。元玉でしか取れない柱なので貴重品です。ですが、現在ではタケノコ杢という言葉も死語になってしまい、その価値は失われつつあります。 (写真6)

二番玉はどうでしょうか。二番玉の特徴として「木目がスッと通っている」事が挙げられます。回り縁や長押、鴨居・敷居などの造作材に使われる事が多いです。二番玉は節が出る可能性が高い事が難点です。 (写真7)

木にもよるのですが、原木の価格としては元玉が一番高く取引される事が多いようです。やはり節が出にくい木が一番重宝されるわけです。

元玉や二番玉という区別の他に重要なのが、長さ・太さの問題です。
もちろん無垢材なので、原木以上に長い材や太い材を取る事はできません。さらに、源平の造作(赤味と白太の混じる造作材)であれば、直径26センチ程度の原木で大丈夫ですが、赤の造作(赤味のみで作った造作材)を取る為には、直径34センチ以上の原木が必要になるという具合に、製品によっても必要な原木が異なります。 (写真8)

また、原木の外側の状態を見て、節の程度を想像し、節が少なそうな原木は化粧用構造材や造作材に用いられ、節が多そうなものは一等の構造材などに使われます。
このような要因を考えながら、各原木を用途別に分けるのです。すぐに使わないような原木は桟積みして置いておきます。風通しをよくして乾燥を促進させます。 (写真9)

原木の整理が終わりました。いよいよ製材に入って行きます。
ですが、その前に必要な工程があります。「皮むき」です。皮付きの原木のままでは製材しにくいので、皮を剥きます。皮むきには手作業と機械の2種類があります。

木材の皮むきの機械化は早く、40年ほど前に登場しました。当社で使用している皮むき機はカットバーカー式と呼ばれるものです。皮むきの様子を写真にてご説明しましょう。
(写真10〜25)

 
  写真1:
 
  写真2:原木はワイヤーで一括りにされており、トラックの荷台から一気に落とされます。
 
  写真3:同じように見える原木ですが、中身はそれぞれ異なります。
 
  写真4:これが根杢です。複雑な木目です。
 
  写真5:黒い点のようなものが葉節です。
 
  写真6:これがタケノコ杢です。下からタケノコが伸びていくような感じがします。
 
  写真7:スッとした木目です。写真で表現するのが難しいのですが、ゴチャゴチャしていなくて、シンプルな感じです。
 
  写真8:大径木と小径木では取れる製品が異なります。

 
写真9:桟積みする事で空間ができ、風通しも良さそうです。

  写真10:皮むき機の全体像です。奥の番台に置かれた原木をこれから剥いて行きます

 
写真11:タイヤの部分に原木を移します。タイヤが原木を回転させます。

  写真12:この装置が前後に移動しながら、皮を剥きます。
 
写真13:これがバーカーです。高速回転して皮を剥いて行きます。剥くというより削る感じ?

  写真14:何回か往復して、皮を剥きます。

 
写真15:剥かれた皮はベルトコンベアでゴミ箱に運ばれます。

  写真16:前後移動の操作を間違えると、鉛筆を削るみたいに先細りになってしまいます。これは失敗です
写真17:操縦室の操作盤です。レトロな感じがします。電車の運転室みたいな感じもして、子供の頃は「憧れの場所」でした。

   
杉と桧では皮の性質が異なり、剥きやすさが違います。
桧の方が剥きやすく、杉の方が剥きにくいです。桧であれば1往復でほぼ終わるのですが、杉は2往復以上かかります。杉の皮は乾燥が進むと吸着しやすい性質があるようです。

手作業で剥く場合もあるのですが、これは杉皮(すぎかわ)や桧皮(ひわだ)を取る為です。昔は屋根材で使われる事が多く、最近では一般住宅では少なくなりましたが神社仏閣では使われる事が多いそうです。杉皮や桧皮は断熱効果が高く、湿度の調整にも優れているので、日本の建物には非常に適しているようです。
杉皮は乾燥が進むと木に吸着し剥きにくいので、山で切り倒した時に剥きます。昔はこの杉皮の売上で伐採費用をカバーできたそうです。林業にとって良い時代だったわけです。

今回は桧皮の剥く様子をご紹介しましょう。
 
写真18、19:上が杉、下が桧です。杉の方がピッチリとした感じがします。
    写真19:

 
写真20、21:皮むきに使う道具はこの二つ。上がヘラ、右がカマです。カマを使い1m間隔で縦に区切りをつけ、ヘラで皮を剥きます。
  写真21

 
写真22、23、24:ヘラを皮の隙間に入れて、どんどん剥いていきます。早業です。

  写真23
写真24

皮むきはできるだけ製材をする直前に行います。これは皮むきした原木を放置しておくと、小石などが付く可能性があり、製材のノコギリを傷めてしまうからです。

さて原木の整理と皮むきが終わり、製材の準備が整いました。いよいよ来月からは迫力の製材の様子、木取りの難しさなどをご報告したいと思います。
お楽しみに!

つづく

 
  写真25:トラック一杯分の桧皮を取るのに約100本の原木が必要です。大変な労力です。


●<いしばし・てるいち> 吉野杉・吉野桧の製造加工販売「吉野中央木材」3代目(いちおう専務)。 杉暦半年到達。
杉マスターを目指し修行中。吉野中央木材ホームページ
http://www.homarewood.co.jp
ブログ「吉野木材修行日記」http://blogs.yahoo.co.jp/teruhomarewood もよろしく! ほぼ毎日更新中です。


 
   
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