連載

 

スギダラ家奮闘記/第11回

文/構成 若杉浩一

「少し振り返って

 
 


南雲さんから、「若ちゃん、(スギダラ家奮闘記)楽しみにしているけど、いろいろ出来事があるし……。一息入れてもいいんじゃない?」というお話をいただきました。そりゃそうだ、毎回毎回暑苦しい話じゃ、こりゃ疲れる。まあ〜、やり杉ることがいろんな事を引き起こす原因でもあるのですよね……。
ということで、この辺で一度、スギダラ家には登場しない、スギダラ事情をお話をしたいと思います。

そもそも、一企業デザイナーである僕が杉に関わるはめになったのは、2000年に開催した「ON-HOT」展(後援/内田洋行)というオフィスの次世代を考えた展覧会で、「ダイスギ」なる6メートルもある巨大なイスともテーブルとも何ともつかない、解釈に困る家具を南雲さんがデザインした事から始まる。
ほとんど、会場のデザインをしない、道具立てだけで、空間を感じる曖昧な家具達をデザインしたのだが、中でも南雲さんのモノは群を抜いていた。繊細な物、人の動きや状況が変わっても不動の空気を作り出す、そうでありながら押し付けがましくない、大らかなデザインなのだ。

 

ON-HOT」展の風景 2000年 OZONE。

デザイナー:小泉誠 / 若杉浩一 / 南雲勝志

そして翌年一緒に開催した展覧会「イスコレ商店街」で登場した「杉太」で僕の使命感にも近い勘違いに、ついにスイッチが入る事となる。それまで、我が社も間伐材や県産材を使った家具を製品として生産していた。割れない、狂わない、傷がつきにくい、クレームが出ない、そんな製品を作るために多くのコストと技術が結集され、多くの残材の上に、生まれた家具。それに補助金が付き、あたかも環境に貢献しているがごとく納得する状況に、我が事ながら違和感を覚えていた。
その時に「杉太」である。「杉子」もいた。震えがくるような感じを今でも覚えている。デザインしているのかしていないのか? はたまた、まじめなのか不真面目なのか? 使い方ですらユーザーに委ねる、あるいは「突きつける」鋭いデザイン。もやもやしていたデザインに、新たな今後を感じたような気がした。この大らかなデザインは、素材の魅力を最大限に生かしながら、人が関わって始めて形になる。価値はユーザーが参加して成立する。 
僕らは、デザインは僕らがつくるものだと思っていた。しかし、そのはかなさや嘘くささを、生み出す側として大いに感じていた。そこに、南雲さんの、「一人っきりのデザインに対して、皆でつくる価値」である。もうブッタマゲタのである。「仏陀間下堕」まさしく仏が直下に落ちて来た。
それからが大変、社内で杉太を担ぎ、説得しまくる。
「これが未来なんだ、当社として意義があるんだ」
「いい加減にせ〜。他にいけ!! 丸太売るつもりか?」
などなど、それから4年間未だに製品化されない。4年越しのタライ回し(杉だからタル回しである)。

「イスコレ商店街」で出品した杉太とスギコ。2001年 OZONE

しかし製品化されなくて良かった。その間、いろいろな事を学んだ。
千代田と一緒に自分たちで売り歩くのであるが、これがクレームになる。割れた、反った、汚くなった等……。そのたびに、対処と説明に伺う、しまいには交換、大赤字である。そうなのである。製品の特性、美しい、ほっとする、「しかしメンテが必要。反る、狂う事だってある。だけどスギなんだもん」という関係がお客様との間に必要となる。つまり製品を取り囲むコミュニティーが必要なのである。
「スギを理解し、スギを使って作り、そして使うこと、メンテしていくこと」
その当たり前のことを省いてはいけないのである。この事に気づくのに2年もかかった。全くボンクラには時間がかかる。

スギは懐かしくて美しい。しかしそれをもう一度我々の生活に戻すには、僕ら自身のスギとの関わりや理解、そして様々な人とのつながり無しでは成立しないのである。便利さだけではだめなのである。スギダラの活動は、「スギを自ら楽しむ、そしてスギだけのことを考えない、新しいスギとの関わり方、楽しみ方を実践していこう」ということに始まる。
「いつか、全国のスギダラ仲間と東京ドームでスギダラデザイン展をやろう! 全国の産地から集まった人たちと仲間でスギの未来を見せあおう! なぁ若ちゃん!!」 居酒屋での出来事から全てが始まった。

次号は、スギダラ家にいたるまでのインテリア実践の今、スギダラインテリアをお送りする予定です(スギダラ家の進展はその後の予定)

  ●<わかすぎ・こういち>インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンターに所属するが、 企業の枠やジャンルの枠にこだわらない活動を行う。
日本全国スギダラケ倶楽部 本部デザイン部長

 
 
 



 


 
   
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