隔月連載
  スギダラのほとり/第11回 「姫路小景」
文/写真 小野寺 康
   
 

 のっけからお詫び申し上げる。前回、原稿を落としてしまい誠にすみませんでした。
 これまで依頼されたことは何であれ、きちんと応えるのをモットーに今までやってきたのだが、面目もない。
 仕事の締め切りが重なり、いつの間にか掲載締め切りを逃したということなのだが、そもそもこの「ほとり」は毎回何を書こうか悩んでしまう……という気分が、果たしてなかったかというとそうも言いきれない。おそらく自分はこういうエッセイ的な文章がじつは苦手なのだ。
 というわけで、今回からちょっと趣向を変えることにした。文章は添え物にして、写真主体でお届けしてみる。これならかなり気持ちが楽だ。

   
 

   
 

 世界遺産・姫路城は、平成22年から大天守の保存修理工事が始まり、長らく囲いに覆われてその姿を見せなかったが、今年(平成27年)3月27日にようやくグランドオープンを迎えた。前日には城を背景にブルーインパルスが空中を飛び交い、大変な人出となったようだ。
 そして、これに照準を合わせて整備を進めてきたのが、姫路駅北駅前広場と大手前通りであった。

 このプロジェクトについては最近、『市民が関わるパブリックスペースデザイン』(小林正美 編著、エクスナレッジ)が上梓されたし、『広場』(隈研吾・陣内秀信 監修、淡交社)でも紹介されたのでご存知の方もいるかもしれない。
  姫路城を焦点とするヴィスタ・大手前通りとその起点である駅前広場の総合的な開発事業で、少し真面目な話をすると、「駅前広場=交通広場」という従来の図式を大きく塗り替え、交通広場を側面に回し、正面には姫路城をアイストップとする都市軸(大手前通り)と一体化した歩行者空間を配置することに成功したというのがまず画期的なところだ。
 これを日本初のトランジットモール(通過交通を排除した公共交通だけの街路)とし、立体広場ともいえるサンクンガーデン(現キャッスルガーデン)、芝生広場、姫路城を望む眺望デッキ(現キャッスルビュー)、そこから伸びるシェルター付きのペデストリアン・ブリッジといった多彩なボキャブラリーを組み合わせ、交通のための場所から人のための駅前広場へと、まさに大転換を果たした。

 このプロジェクトは、明治大学・小林正美教授がリーダーとなり、私とスギダラオヤブンこと南雲勝志さん、建築家の渡辺篤志(とくし)さんの4人でデザインチームを編成して設計と現場監理に臨んだ。途中からは、日建設計シビルの八木弘毅、大薮善久の両名も加わってくれた。
  広場の完成後に、私は姫路城のグランドオープンに先立って昨年の11月に一度訪れた。
  まあそれなりに使ってくれたらうれしいな、くらいの気分で出かけたのだったが、駅を降りた途端に眼前に広がる、半端ない活況に驚き、文字通り足が止まってしまった。
  まさに西欧の広場のような使い方をされていたのだ。ただ座って景色を眺めている人がとにかく多い。そして広場でおしゃべりし、食事し、子供と遊び…という光景が夕方を過ぎても続いていた。
  「53万都市の駅前にきちんと空間をデザインするとこうなるのか…」という実感をかみしめ、喜ぶという以上に感心してしまった。

   
 
  「キャッスルガーデン」と名付けられたサンクンガーデンの夕景
   
 

 ところでこのプロジェクト、実は我々設計チームは最後まで関われずに終わったというのが辛いところだ。
  要するに駅前広場に隣接する別のプロジェクトの利権争いに巻き込まれたと言っていい。詳しい経緯は省略するが、市内で湧き起こる「よそ者排除」の声がこの駅前プロジェクトにも飛び火して、我々設計者も、ありもしない疑惑を掛けられ途中から現場に出向けなくなってしまったのだ。
  それでも、そうなる前に駅前のサンクンガーデン、眺望デッキとペデストリアン・ブリッジまでは最後まで見届けることはできたし、その後も芝生広場と大手前通りについては日建設計シビルの若手二人が粘ってくれたので、最終的なクウォリティは決して悪くない。
  だが、そんな雰囲気だったから、なかなか設計者全員で集まって現場で成果を確認する機会が遠のいていた。そもそも何も悪い事なぞしていないのだから勝手に行けばいいというところなのだが、しかし我々が行くと、応援してくれている市民や行政担当者までも「あらぬこと」を言われかねないという嫌な雰囲気が続いていたのだった。

 しかしこの駅前広場の完成後、姫路市民はもとより、外部からも評判が高まると、さすがに状況が変わってきた。雪解けの気配がようやく見えてきたのだ。
  そろそろよかろうということで、今年5月、ようやく設計チーム全員で姫路に集まる機会を得たのである。
  現場で顔を合わせるのは久しぶりだった。
  まちのにぎわいを確認し、当然夜は酒宴である。翌日は、山口県徳山市で仕事をしていた篠原修先生も合流して、一緒に現場を見て回った。
  そのときの雰囲気を以下にお届けしたい。
  ちなみに姫路城だが、修理されて見違えるように「白さ」を取り戻した。まさに白鷺城である。白亜の天堂というべき美しさを見るのなら、今が旬であると申し上げておく。

   
 
  久しぶりに集まった設計チームら。左から小林正美、南雲勝志、大薮善久、八木弘毅、渡辺篤志の諸氏。右端はついでに写った私の事務所のスタッフ
   
 
  強い風から逃れて眺望ゲート「キャッスルビュー」で飲む。左端が小林先生。向かいで頬張っているのが渡辺さん。そのほかは私の事務所のスタッフ。みんなで見に来たのだった。
   
 
  姫路城を背景にキャッスルビューで日建設計シビルの若手二人と語る南雲勝志(左端)
   
 
  笑顔を見せる日建設計シビルの若手二人・八木弘毅さん(左)、大薮善久さん(右)。南雲さんとのスリーショットは嬉しそうだ
 

 

 
  翌日朝に篠原修先生(左から二人目)が合流。一緒に現場を回った
   
 
  篠原修(左)、小林正美(右)両先生のツーショット
   
 
  みんなでペデストリアンデッキから広場全体を眺める
   
 
  帰る前にやっぱり昼から飲んじゃうのであった
   
  
   
   
  ●<おのでら・やすし> 都市設計家
小野寺康都市設計事務所 代表 http://www.onodera.co.jp/
月刊杉web単行本『油津(あぶらつ)木橋記』 http://www.m-sugi.com/books/books_ono.htm
   
 
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