特集 函館空港木質化プロジェクト
  Hako Dake Galleryの誕生

文/写真 佐藤 司

   
 
 
 

 Hako dake Hirobaの場所は、計画当初からゲームコーナのある一画と決まっていた。ゲーム機と合わせて施設管理も委託しているためらしい。ゲーム機と並んで展示することになるため、ゲーム機の前を目隠しするように四方に壁を取り付けることにした。Hakodake Hallでも使われている浮造り合板等の化粧板を貼る予定になっていたが、何か面白いことができないか考えた。
 空港に木製遊具を設置する目的は、空港利用者だけではなく近隣の子供達にも気軽に足を運んでもらい、木材に触れて遊んでもらうためである。近隣の子供達に何か仕掛けることができれば、学校、子供、親まで波及することができる。そこで思いついたのが「木工レリーフ」であった。
 毎年、北海道立総合研究機構森林研究本部林産試験場(以下「林産試験場」)が主催となり、「北海道こども木工作品コンクール」を開催している。その中のレリーフ作品部門では、「アート彫刻板」を使った作品を募集しており、これを活用できるのではないかと思い付いた。主催者であり、「アート彫刻版」の提供者でもある林産試験場に問い合わせてみた。ところが作品数が増えることを想定していないため、アート彫刻板の在庫は100枚しかないという。およそ200枚の作品数を目標としていたため、枚数が足りない。追加で作る予定はないのかと食い下がってみたが、今年はもう作らないとあっさり断られてしまった。私は元林産試験場の職員でもあり、何とかしてくれると淡い期待もあったが、その効果は全く無かった。ならば、私と(株)ハルキの鈴木さんで作りに行くことも考えたが、製作するにはそれなりのノウハウが必要で、簡単には作れないと言われ。諦めて代わりとなる素材はないか検討してみることにした。そこで思い付いたのが、「ペーパーウッド」だった。「ペーパーウッド」は、浮造りのように断面に色が浮き出る仕組みであり、「アート彫刻板」に代用可能と考え、早速サンプルを送ってもらい確認した。アート彫刻板と比べると表層面(一枚目の板)が厚く、色が出るところまで彫るには若干力が必要となるが、小学校の高学年であれば十分削るのは可能であろうと判断し材料に決めた。

   
 
  木工レリーフ(アート彫刻板)
   
 
 
  ペーパーウッド
   
  【敵は身内にあり】
   
 

 次に、小学校には、どうやってお願いすればいいのか?小学校とは全く接点がないことから、身内である北海道教育委員会渡島教育局に相談してみた。事業概要を一通り説明すると、一民間企業((株)ハルキ)の事業への協力を各学校に依頼することはできないと一蹴される。それならば、振興局の事業として責任もって行うと伝え、空港周辺にある小学校の校長先生を紹介して欲しいとお願いした。すると、特定の小学校だけ絞って依頼することはできないと切り替えされた。このまま話しても先に進まないと判断し、釈然としないが自ら小学校に直談判することにした。
 空港周辺の小学校は5ヵ所(函館市立湯川小学校、函館市立上湯川小学校、函館市立高丘小学校、函館市立旭岡小学校、函館市立東小学校)に絞った。各学校に事業概要を説明すると、最初は何か面倒なことを頼まれるのかと構えられたが、「子供達の作品が空港に1年間展示されます。」と話すと、前向きに検討するという返答が帰ってきた。直球勝負の方が、何とかなるものだと自信を取り戻すことができた。その後、一校には、函館市教育委員会に事業概要を説明しておいて下さい、と言われ、これまた骨が折れると思ったが、これも直球勝負で難なくクリアした。
  「横断的な連携を図りなさい。」とは良く言われるが、未だに縦割は残っていると肌で感じた。皮肉な話ではなるが、身内の力を借りるよりも、直接行った方が早かった。教育機関は、子供達がどんな事を望むのか、どんなことをすると喜ぶのか、その土台を作ってあげることが仕事であり、大人達の役目のはずである。同じ役人として何とも腑に落ちない出来事であった。

   
 

【小学校行脚】

   
 

各小学校を直接回った時点で、前向きに検討するという返事は頂いていたが、一体どのくらいの作品数が集まるのかは未知数であった。学年単位になるのか、それともクラス単位になるのか、希望者のみになるのか全く分からなかった。パワープレイス(株)の案では、200枚以上が必要であったことから、正直プレッシャーでもあり、焦っていた。しかし、走り出している以上は全力でやるしかない。その後、何度か各小学校へ出向いて、製作枚数を改めて確認した。すると、全ての小学校が6年生の卒業作品として製作することで動き出していた。5校の6年生分を集めると200枚超えることが分かり、何とか最低限の目標は達成することが分かり、ホッとした。

   
 
 
   
 

【オープニングイベント】

   
 

  平成26年11月29日(土)11:00。いよいよオープンの日を迎えた。オープン日を迎えるに当たり、多少の問題は発生したが、何とかこの日を迎えることができた。もちろん、無事に木工レリーフも揃っている。学校によって大きなテーマを与えられ作品を仕上げたところもあれば、生徒の発想に任せているところもあり、各小学校、生徒一人一人が自由な発想で作品に向き合い、楽しんでいる作品内容だった。大人顔負けの彫刻刀づかいの子もいれば、もう少しがんばろうよと思う作品もあったが、それも含めてその子供達の個性だなと思いながら見ていると楽しい。作品は、空港周辺小学校5校に、森町小学校分を加えて、想定していた枚数よりも若干少ない199枚となったが、及第点ではないかと満足している。

 このことは、各学校の校長先生、担当教諭・生徒に感謝しなければならない。そして、私の思い付きで始まった木工レリーフ展示に対し、快く賛成してくれた事業主体のハルキ(株)の鈴木さん、追加でデザインに協力していただいたパワープレイス(株)の若杉親分、こばけん、そして最後の最後でやらかしてくれた、ブルテン坂本さん、場所を提供して頂いた函館空港ビルデング(株)の石田さん、太田さん、石井さんには感謝している。

   
 
 
  Hako Dake Gallery
   
 

【おわりに】

   
 

 北海道には豊富な森林資源があり、成熟している人工林も沢山あるが、需要がなく山に木が眠っている状況である。このまま山に放置しておくといびつな林齢構成となり、木材の価値、CO2の吸収能力等の森林の多面的な効果が発揮できない。適正な管理に基づき、植える→育てる→切る→使う→植えるという循環を繰り返し、次世代まで豊かな森林資源を残さなければならない。本事業が、木材や樹木への興味を育む機会として、大人や子供に木の感触、木の匂い、木の堅さ、柔らかさを感じてもらい、森林・林業に対する理解を深める契機となることを望んでいる。
 最後に、私も含めて木材関係者は、デザインよりも木材をふんだんに使うことに執着してしまい、結果的に野暮ったいデザインとなることが多々ある。しかし、本事業では改めてデザインの力で新たな商品価値を産み、素敵な空間を演出することのすばらしさを学ぶことができた。今後も本事業のような異業種同士の交流をどんどん進めて、産学官が横断的に繋がるように、新しい風を興して突っ走りたいと思っている。

   
   
   
   
  ●<さとう・つかさ> 渡島総合振興局産業振興部林務課林務係
   
 
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