特集 西鉄柳川駅「学ぼう! つくろう! 駅前広場でモノづくり」
  西鉄柳川駅周辺のまちづくりに於ける市民参画とは・・・

文 /辻 喜彦

   
 
 
 

ボクは、長年、プランナーとして地方都市のまちづくりに携わらせてもらっていますが、ここ数年は、設計よりもプロジェクト・マネジメントの仕事が増えるようになってきました。
例えば、「○○プロジェクト運営支援」や「市民参加促進支援」などの業務名になります。
一般の方々には、何をやっている仕事なのか、ピンとこないでしょう・・・。
分かりやすく解説すると、"○○プロジェクト"を通じて、"まちづくり"へ"市民の
皆さん"が"参画"し、"まち"に"愛着"を持ってもらえるような"機会"づくりを"支援(サポート)"する"仕事"ということになります。
若杉さん風に云えば、"プロジェクト"を通じて、"地域の人々"が"変態化"することを"お手伝い"をする仕事、と言い換えた方が分かりやすいかもしれません。(笑)

その"お手伝い"の仕方ですが、ヨソ者のボク独りが"まちづくりへ参加してください!"といくら叫んで廻ってみても、そう簡単に人々の関心や意識が変わるものではありません。これは、林業でも、デザインでも、商売などでも同じでしょう。
地域の人々は、それまで各自が育んできた "フィールド"や"ネットワーク"の中で日々、暮らしており、ましてや"まちづくり"などという得体の知れぬものには、なかなか巻き込まれまいとするのが常でもあるからです。
しかし、その一方で、地域の皆さんの共通した個人意識の中には、昔の活気が失われ、人が少なくなり、将来に対して不安が漂う"まち"への漠然とした"憂い"を抱えている方が多いと思います。

そのような人々に、どのような"きっかけ(殻を破る)"を投げかければ、"憂い"が"愉しみ"に変わって(変態化して)いくのだろうか・・・地域の中で、そのようなことを考えつつ、体制を整え、長い事業期間中の各プロセスの中で、アンテナを張り巡らし、仲間に入ってもらうタイミングを見計らい、サポートしていくことが、ボクの立ち位置となります。

その対象は、独自に活動してきている市民グループ、ごく普通の市民や学生、役所の担当者の皆さんだったりしますが、大抵の場合、最初に"変態化"するのは、いずれも濃いキャラクターの人たちばかりなのは、とても面白いことです。
前置きが長くなってしまいましたが、ここから本題です。
西鉄柳川駅周辺整備は、交通結節店としての安全性や利便性を高めるだけではなく、観光都市・水郷柳川の玄関口として、期待でワクワクする来訪者を地域がおもてなしする"場"づくりのプロジェクトでもあります。
ハード面を取り上げれば、「東西駅前広場」「自由通路」整備と「駅舎」改築となります。この設計デザインには、南雲勝志さん、小野寺康さんをはじめ、建築家の渡邊篤志さん、交通計画の五十嵐淳さん、地元の懸樋喜康さん、松尾和人さんらによる設計チームが抜群のチームワークで、多くの壁を乗り越えてくださったおかげで、西鉄柳川駅前は、素晴らしい空間として再生されつつあります(2015年10月現在)。

   
 
  西鉄柳川駅西口駅前広場(自由通路・駅舎やバスシェルターの天井材には、温かみある地場・八女杉 が多く用いられ、来訪者をお迎えしてくれる。
   
 
  西鉄柳川駅西口駅前広場(夜景)。南雲氏デザインの街路照明は、自由通路やシェルターと一体的に 優しい明かりで広場空間を包んでくれる。
   
  しかし、いかに施設空間が素晴らしくとも、そこに"地域の想い"が込められていなければ、来訪者に「柳川に来て、やはり良かった!」「また来たい!」とは思ってもらえません。
そのためには、このプロジェクトに市民の皆さんが参画し、自分たちのフィールドの一部として"駅=居場所"を使いこなしてもらえるようになるかが、発足当時(2010年)からのもう一つのテーマでした。

九州大学の高尾忠志さん、永村景子さんらとの協働の下、市民グループ・団体の皆さんへヒアリングを行い、"柳川らしさ"を考える「市民WS」、駅前空間を使いこなす「利活用WS」、「シンポジウム」「庁内勉強会」などを2012〜2014年にかけて積み重ね、様々なプロセスに参画してもらえるようにサポートしてきましたが、我々がひとつのモデルとしている日向市駅プロジェクト(1996〜2008年開業)と比べると、その準備期間は、1/4しかなく、タイトスケジュールの中でプロジェクトは進んでいきました。
   
 
  西鉄柳川駅プロジェクトに於ける様々な市民参加の取り組み(市民WS・利活用WS・シンポジウム・柳 川らしさを考える会・舗装試験・庁内勉強会など)
   
  工事も残り1年となった段階に、市担当の目野係長(当時)から相談を受けたのが、「藤吉小学校・父親委員会」のお話でした(この辺りの背景や経緯は、目野隆広さん(柳川市)、橋本憲之さん(父親委員会会長(当時))の寄稿文に詳しく述べられていると思いますので、割愛します)。「学ぼう! つくろう! モノづくりワークショップ」は、この時から約7ヶ月かけた取り組みがスタートしたのです。

親子で製作した杉banco(バンコ=ベンチ)や約70mの杉フェンスは、駅前空間の一体感を高めてくれただけでなく、親子の絆はもちろんのこと、このプロジェクトに参画した多くの人々の想いをも繋げてくれました。
子どもたちは、モノづくりを通じ、杉にふれ、オヤジさんの生き生きした背中と新しい駅を誇りに思ってくれました。
オヤジさんたちは、子どもたちの夢と笑顔、そして杉という素材を通じて、柳川のまちを見てくれるようになりました。
お母さん方も、そんな親子のやりとりを見て、応援してくれるようになりました。
そして今年、彼らは、さらに輪を拡げて活動し続けています。
ボクには、それが、とても嬉しい、柳川ならではの"変態化"の一種に思えます。
"変態中"の最中にいる我々には、まだはっきりとは分かりませんが、このようなことが少しずつゆっくりと積み重なり、拡がっていくことが、本プロジェクトにおける柳川らしい市民参画の大切なプロセスなのだと感じています。
   
 
  「学ぼう! つくろう!モノづくりWS」の完成記念集合写真
   
   
   
   
  ●<つじ・よしひこ> アトリエT-Plus 建築・地域計画工房 代表・まちづくりプランナー
   
 
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