特集 祝! ウッドデザイン賞2015受賞
  「或る列車」がウッドデザイン賞を授賞致しました

文 / 津高 守

   
 
 
  祝!スギダラメンバー多数入賞
   
 

 今年からウッドデザイン賞なるものが創設されるので応募してほしいとの連絡が多田知子さんから届いたのはまだまだ暑い時期でした。早速、スギダランナー荒川堅太郎君に建築部門のエントリーを指示(?)し、車両部隊にもエントリーのお願いをしました。
  11月19日にはスギダラメンバーがfb上で当選報告をしているではないですか。会社のパソコンで調べてもどこに審査結果が出ているのが分からなかったのですが、秋田のすぎっちさんからプレスリリースのコピーを送ってもらって見たところ、建築部門で上熊本駅と日田駅の2件、車両部門でも或る列車とななつ星in九州の2件の計4件が受賞作品397点の中に入っている・・・。

   
 
 
上熊本駅   日田駅
   
 
 
或る列車   ななつ星in九州
   
 

 一応、この4件は二次審査まで受けているのは知ってはいたのですが、受賞が決まったところで初めてウッドデザイン賞のホームページを見るという自分自身のいつもながらのいい加減さに苦笑しつつその後の日程を見ると、12月10日に東京ビッグサイトで最優秀賞、優秀賞、奨励賞の発表および表彰式が開催されるとのこと。「確か、12月9日は林野庁の研修所で森林監理士のフォローアップ研修の講師を頼まれていたっけ・・・。じゃあ、9日の夜に若杉さんたちと前夜祭でもして10日の表彰式を見て帰ればいいか・・・」などと考えていたら、スギダラウッドデザイン大会を10日の夜に開催することを聞き、1泊出張を2泊に延長することを即座に決定!それにしても、何もかも上手く行き過ぎていることに驚愕しながら、あとは4点の中から一つでも上位の章に入賞することを祈るのみとなっていたのでした。

 12月に入った頃に車両課の担当の榎氏から、或る列車が最優秀賞ではないが優秀賞を頂けるとの連絡が事務局からあったと報告が入りました。「林野庁長官から表彰か。社長か鉄道事業本部長に受賞してもらわないと・・・」と思い二人の予定を調べましたが、多忙な二人の予定が1週間前に空いているわけがありません。社長のところに受賞の内定がきたことと林野庁長官から表彰状をいただく旨を伝えたところ、「折角だからお前が貰って来い!」とのこと。これで堂々と2泊できるとほくそ笑みつつ当日を待つこととなりました。

 表彰式当日、午前11時に会場に到着し控え室へ。他の優秀賞の受賞者の皆さんにご挨拶をしてから式の段取りを打合せして会場へ。農林水産大臣は国会会期中で来れないとのことで、最優秀賞も優秀賞も林野庁長官から表彰状をいただくこととなりました。

   
 
   
控え室の風景   林野庁長官賞(ハートフルデザイン部門)   林野庁長官と記念撮影
   
 

 表彰式の後はシンポジウムがありパネラーからも弊社の取組みをお褒めいただいたりして大いに恐縮しましたが、それ以外はもう一ヶ月以上前のことなのでご勘弁を・・・。
 それにしても、今回はスギダラの仲間が多数受賞しうれしい限りであります。最優秀賞は逃しましたたが森の学校の取組みを知っているだけに納得の結果です。それにしても皆さん、様々な取組みをされているなと感心しました。我々も木づかいを進化させないと来年以降は入賞すらできないかも・・・などと危機感を募らせています。

   
  或る列車について
   
 

 今回、優秀賞を受賞したJRKYUSHU SWEET TRAIN 「或る列車」は、昨年の8月に走り出したばかりの弊社にとっては最新のD&S(デザイン&ストーリー)列車です。(他の列車と同様に国鉄時代の古い車両を改造したものですが・・・)列車名がユニークなので「何じゃそりゃ?」と思われた方も多いと思いますが、この列車にももちろんストーリーがあるのです。折角ですのでここで披露させていただきます。
 明治期の九州において鉄道は今で言う民活により整備されました。明治20年に設立された九州鉄道は、並立していた筑豊鉄道や豊州鉄道を合併しつつ、明治の終わり頃には門司から八代や長崎まで路線を持つ大会社となっていました。しかし、明治40年に鉄道国有法が施行され路線は帝国鉄道庁に吸収されて会社は解散となってしまうのです。解散の2年前に九州鉄道がアメリカのブリル社に5両編成の豪華客車を発注しました。この客車は明治41年に納入されましたが、その時に九州鉄道はすでに解散しており、引き継いだ帝国鉄道庁もこれを営業運転に使うことなく戦後廃車となってしまいました。
  コクヨの専務をされた原信太郎氏(平成26年に鬼籍に入られました。ご冥福をお祈りします)は子供の時にこの客車が都内に打ち捨てられているのを発見し何度も通いスケッチしていたそうです。後年、彼はこれを模型にしたのですが、実際の車両とは異なる信太郎オリジナルも加え、真鍮の輝く壁面、木製の下張り、サロンにはグランドピアノを配し、美しく輝く宝石のような、夢の列車に仕上げました。この模型は横浜にある「原鉄道模型博物館」に展示されています。

   
 
  「或る列車」原鉄道模型博物館(横浜市)所蔵
   
 

 その原信太郎の模型を、1/1で再現したのが件の「或る列車」であります。デザインはもちろん水戸岡鋭治氏。上記のようなストーリーに加えて、ななつ星in九州以来の弊社での列車のデザインということもあり、またも凝りに凝ったデザインの車両となりました。
 外観は金色を基調とした唐草模様で、窓にはステンドグラス、内装の天井や床には木材を多く使い高級感を出しています。特に窓飾りや個室には福岡県大川市の家具職人さん達の手を借りて組子の技術を用いています。組子はななつ星in九州でも多く用いられましたが、大川の皆さんにも自分たちの技術をPRするいい機会になったと喜んでいただけています。弊社は昨年11月に経済産業大臣から「伝統工芸品産業の振興に多大な功績があった」として表彰状をいただきましたが、今回のウッドデザイン賞でも単に木材を使うということのみではなく、昔から伝わる工芸の技術を用いて木を使ったことが評価されたものと考えています。

   
 
  或る列車と由布岳
   
 
 
1号車   1号車 各天井
   
 
 
1号車 窓飾り   2号車 個室内部
   
 
  2号車 (個室タイプ)
   
 

 或る列車はSWEET TRAINの名のとおり、列車の中でスイーツを出しています。料理の監修は南青山のレストラン「NARISAWA」のオーナーシェフである成澤由浩氏。コースは九州の肉や魚、野菜を使った彩り豊かな小箱とスープからスタートし、旬のフルーツをたっぷりと使ったスイーツ3品、そしてミニャルディーズ(お茶菓子)へと続きますが、料金も一人当たり20,000円(4月以降は24,000円)とかなりいいお値段ですが、幸いにもたくさんの方にお申し込みをいただいています。ななつ星in九州の影響もあり、「九州で高価な食事をする」ということがある意味当たり前と捉えられているような気がしています。

   
 
 
スイーツ   厨房
   
 

 昨年8月から10月まで大分県内を走っていましたが現在は長崎県内を走っています。今春以降はまた大分を走り、夏からはまた長崎を走る予定ですが詳細は弊社のホームページを参照してください。
 今回のウッドデザイン賞では4件も入賞しさらにそのうちの1件は優秀賞として皆さんの前で表彰していただくという栄誉に預かることができました。これもスギダラケ倶楽部の皆さんのご指導、ご協力の賜物であります。今後とも木材の利用を通じて地域の元気をつくっていけるよう尽力して参りますのでよろしくお願いいたします。

   
   
   
   
  ●<つたか・まもる> 九州旅客鉄道株式会社 鉄道事業本部 安全創造部
   
 
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