特集 祝! ウッドデザイン賞2015受賞
  「針葉組合」その後 〜旭川トドマツ屋台プロジェクトの受賞

文 / 写真 前田 あやの

   
 
 
 

2012年に旭川に降り立った南雲・若杉の両氏。
地元の関係者を前に、ここには杉がはえないのだからと「針葉組合」なるものを設立され、みんなの心に火をつけてお帰りになりました。その熱に浮かされ、お2人に言われるがまま針葉手形なる会員証まで作り、トドマツ(椴松)での製品の試作例がいくつか出てきたものの、継続的な取り組みにはなりませんでした。そこに追い打ちをかけて、針葉樹活用を声高に叫んでいた北海道庁の暴れん坊が、杉に呼ばれて道南に転勤に(その後のご活躍はハコダケ空港でご存じでしょう)。
そんなこんなで、旭川の針葉組合の火種はいつの間にか、小さくなってしまっておりました。
が、オバちゃんの心の火はポヨポヨと燃えていたのです。

そもそも、トドマツは北海道固有の木。太古の昔、アイヌの人々が山の間を走り回るもっと前から、この北の大地にどっしりと根をおろしていました。いわばソウルツリーなのです。本州のほんの一部をのぞけば北海道にしかありません。
一年に一段ずつ、規則正しくその枝を天に向かってのばす、行儀のよい木です。しかしこのトドマツ、北海道にいるからと言ってただただ寒さに強いわけではなく、極寒の時期には、幹の中の水分が凍って破裂し、その音を森の中にとどろかせます。寒さに耐え忍ぶだけではなく、我慢できずに身体に亀裂を入れて騒ぐなんて、ちょっと切なくて面白いと思いませんか。トドマツをアイヌの人はフップと呼び、お祓いやお浄めの時にその枝葉を使っていたといいます。まるで神事の大麻(おおぬさ)のように。しかもトドマツの枝葉から抽出される精油には、臭気を吸着させ空気を清浄する効能があり、精油そのものも爽快でとても良い香りがします。アイヌの人たちはそんなトドマツの特性を知り尽くしていたのかもしれません。

   
 
   
 

さて、話は戻って、旭川での針葉樹の火種を消さぬよう、私達は什器におもちゃ、ペット用ケージと色んなものを試作してみました。でも何かが違う。やみくもなモノづくりは針葉樹の信用を失墜するばかり…。コストをかけて強度を克服したり話題をさらったりしたいのではなくて、もっとトドマツの魅力を語りあったり、不可能だと言われていることにみんなでチャレンジしたいのに…

そんな時、若杉氏が再度来旭するとのしらせが届きます。しかも、鹿沼のご一行を引率とのこと。
鹿沼と言えば屋台。スギダラと言えば屋台、そしてお酒。あ〜どうして気付かなかったのか。
直線で構成される屋台なら、トドマツにも向いている。屋台には人が集まってみんなが見てくれる。
しかも旭川には屋台が1.7qも続く大型イベント「食べマルシェ」があるじゃないか!

その旨を伝えた若杉氏から手渡されたUSBスティックには、スギダラケの屋台が!
親分たちのお手本をお守り代わりに携えて、旭川市、旭川信用金庫、教育機関と次々にプレゼンに行きました。まあ、どこに行っても皆さん「???」という表情。途中、保管問題、耐久性等と出来ない理由が続々と出てきましたが、オバちゃんのただならぬ勢いに押されて、無事にイベントの一部に使ってもらえることに。それからは、非常識な予算とデザインコンセプトを再度若杉氏にお伝えし、トドマツ屋台プロジェクトはスタート。思い返せば、穴があったら入りたい、強引で呆れるばかりの打合せでした。そのテーブルで、若杉氏のノートパソコンにほんの一瞬映し出された、30年ぶりの九州の高校時代の同級生の名前。彼を知ってる知らないで大盛り上がり。大出世した彼がパワープレイスの皆さんと一緒に仕事をしていたのは奇跡としか思えません。

   
 
   
 

それだけではありませんでした。その後、地元の広告代理店からこども用の屋台を作りたいという話が持ち込まれたり、組立の学生ボランティアを頼みに行った旭川高等技術専門学院の先生からは「それなら作ってしまおう!」と嬉しい提案があったり。その結果、屋台づくりを通じて家具職人の卵たちが先入観なく針葉樹の加工をする絶好の機会となり、また作り上げた屋台ではイベントに訪れたこども達が、思いっきり遊んでくれました。

現在、2回の食べマルシェイベントと9つのイベントを経て、製作したトドマツ屋台は地元の信用(針葉)金庫が保管を、有志のメンバーがボランティアで組立してくれるようになりました。予算や保管など課題は山積ですが、これからもしつこく続けます。いつかこの町に色んなひとが作ったトドマツの屋台が1,7q並んだら… 
針葉組合、捨てたもんじゃないでしょ〜。

   
 
   
 

第一回ウッドデザインアワード ソーシャルデザイン部門奨励賞「旭川トドマツ屋台プロジェクト」 
株式会社北海道ポットラック、パワープレイス株式会社、北海道上川総合振興局、旭川市、旭川信用金庫、コニチャー屋台プロジェクトチーム一同

   
   
   
   
  ●<まえだ・あやの> 株式会社北海道ポットラック 代表取締役
   
 
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