特集  『木とくらす』 - はたらく、まなぶ -  【良品計画 x 内田洋行】
  杉で仕掛ける /第53回

文 / 海野洋光

   
 
 
 

内田洋行と良品計画の新製品発表会の2日目、新製品を前に目を輝かせて、感無量の表情の3人がいました。心の中で、小さなガッツポーズ!!「とうとう、ここまで来たね」お互いに顔を見合わせ笑顔だ。日本全国杉だらけ倶楽部の会員ナンバー1、2、3内田みえ、長町美和子、海野洋光の三人だ。杉ダラ発足から、12年は、長いようで短いように思えました。

   
 
  はじまり
   
 

□パワープレスの若杉さんからの電話

「海野さん!今度、良品計画と内田洋行で製品開発するんですよ」
「それは、面白い」
「国産材を使った同じデザインでマーケットの違う企業とのコラボなんです」
「ますます、面白いじゃないですか」
「そこで、海野さんにアイデアを出して欲しいです」
「それだったら、企業×企業×生産地という考えで進めるともっと面白くなりますよ。宮崎に若杉さんバンバン来て下さいよ」
「いくいく」
軽い乗りの電話のやりとりから、始まった。

  以前から暖めていた構想の実現に一歩近づきました。
  【杉で仕掛ける39を読んでください】
   
 
  行政との接点
   
  □内田洋行の寺田さん

「今度、担当になりました寺田です」
「寺田さん、急ですが、川崎いきませんか?」
「えっ川崎ですか」
  なんでも、突然、振る海野ですが、要は、タイミングなんです。
  「宮崎県と川崎市が、木材に関する技術提携を結んで、今度、川崎でセミナーをするんですよ。県の方も、知事も来るんで、一石二鳥なんです。川崎市もあるから、三鳥かなあ」
それでも、定員オーバー気味のところを宮崎県側の枠でパワープレス前田副社長と寺田さんの参加していただきました。
  この時点で宮崎県も内田洋行の方も何をどうするのかまったく分からない状況だったと思います。お互いの名刺交換ができたと言うことで「良し」としましょう。
   
 

□宮崎県の担当の方に

素直に気心の知れている林業・木材業振興の県の担当の河野さんに「内田洋行と良品計画が、国産材家具でデザインコラボするんです。2者の業務提携ですね。これに宮崎県も乗りませんか?」
「面白いね」
「企業×企業×自治体は、なかなかないとお思いますよ」
林野庁から出向してきている石田室長にお任せしました。さすがは、官僚です。切れが違います。

  結局、3者の提携は実現せず、2者の提携に宮崎県が協力するという形に落ち着いた。
 

正直、ここは、無理しても3者提携にこだわるべきだったと反省しています。(この点は、後述します)他の自治体の方、この様な話しが来たときは、ぜひ、考えてください。庁内のコンセンサスとか、議会の承認とか言っていたら、何もできないのです。ルールは、大切ですが、民間企業のスピード感に合わせることのできる自治体が、激動、淘汰の時代を生き残ることのできる自治体だと思うのです。もちろん、ルールは、守りながらです。

  内田洋行×良品計画×宮崎県→(内田洋行×良品計画)+宮崎県
大体が、このような流れでこの事業は、スタートしました。
それでも、宮崎の杉のことを知ってもらわないとなりません。
   
 
 

□宮崎弾丸顔合わせツアー

そこで、宮崎の産地を視察する弾丸顔合わせツアーを企画しました。宮崎の美味しいものを食べ、林業、木材業の要所を回り、さらに現地の人との交流を深めつつ、宮崎の木材技術に関して今回の事業とどのようにマッチングしていくか。腕の見せ所です。

幸い、宮崎県から日向市林業水産振興課の課長に出向した福田さんがいるので、耳川流域の視察先のスケジュールの大半をお願いしました。フットワークの良い福田さんと定評です。

   
 
 
前日入りを希望して、日向はまぐり荘ではまぐり料理を堪能。 8時半ホテルを出発。   サンケイの川添社長の見識の高い説明に一同納得の様子
   
 
 
9時前にサンケイさんの工場を見学   オークラ製作さんは、建具屋さんですが、密かに家具も製作しています。
   
 
 
10時には、日向市内の建具屋さんオークラ製作さんを視察   内藤廣氏設計の日向市駅舎を視察して
   
 
 
13時ごろ出て、高速道路を使って14時には、移動で木技センター挨拶と視察
 
12時半昼食をとって(不二カツでとんかつをヒレ派とロース派に分かれる)   15時半に県庁へ挨拶 その後、川上木材や宮崎ランバーを視察後 18時ごろ空港へ
   
 

第一回は、宮崎のポイントとなる方の顔合わせを兼ねてツアーを組みました。

次は、的な全県を回るツアーで
□二回のツアースケジュール(別名精力増強ツアー)
初日のお昼は、「まからんや」タンくず・ホルモンを食べてから

   
 
 
県の林業センターで視察。杉の苗木やしいたけを見学   村の森林全てがFSC認証の諸塚村を視察、諸塚村の森林政策を矢房課長が説明。 この説明には、同行したコンサルタントの方もびっくり!! 夜は、南郷旅館で名物「すっぽん」を食べていただきました。
   
 
 
サンケイさんの東郷の工場で川添工場長の熱き説明   日向の老舗製材所 清水木材で小坂さんの説明
   
 

このあとは、私は、参加できませんでしたが、都城に主戦場を移動しました。
宮崎の誇る「地鶏」料理だったそうです。かなり、都城でも堪能したようで、そのほか、高校生のデザイン課外授業の提案もだされ、大いに盛り上がったと聞きます。

現場を知ることで多くの疑問も出てきます。次は、専門的な知識を持つ方の話を聞くことになります。

   
 
 

□諮問委員会

「企業×企業×生産地」の考え方の中で、それぞれが、うまく、持ち味を出す仕組みが、必要です。パーソナルユーザーの絶大なるマーケットを持っている良品計画、法人企業、学校、公共のマーケットを信頼関係で結んでいる内田洋行。そして、杉素材生産日本一の宮崎県なのです。それぞれの優位性を持ち味に今回の事業が進んでいくことを目的にしています。

   
 
  事業の中で元宮崎県木材利用技術センター所長の飯村さんを委員長とする諮問委員会なるものが立ち上がりました。私は、同委員会に出席して言いたいことを言いました。
そのひとつが、
「デルモンテと言うトマトジュースの会社があります。トマトを栽培、収穫し加工して、トマトジュースやケチャップを販売している世界的な競争の中でも勝ち抜く会社です。
諫言、耳が痛い    
  木材は、デルモンテのトマトと違って、収穫したと ころで、利益を取って、運ぶ人が利益とって、加工する人が利益を取って、販売する人が利益を取る構造になっています。最後の消費者からの製品の販売で利益を得て、その利益で全てを環元するデルモンテのようなシステムができないと誰も儲からないシステムになってしまうのです」ああ!だから濃縮環元って言うんだ。そう思って一人で笑っている自分がいました。
   
  すみません。話を元に戻します。
   
 
 

□同じ諮問委員会の席で

もうひとつ
「木材を扱う業種、宮崎の中で、いえ、日本中の中で一番、儲かっていない業種、瀕死の業種が、建具屋さんです」
屋外木製建具は、アルミサッシメーカーに取られ、住宅用の建具が、大量生産のハウスメーカーにとられ、主力であった和室建具も、生活様式の変化による和室の減少と共に・・・。
「日本の国産材を一番高く買ってくれる大切なお客さんが、建具屋さんなのです。大量ではありませんが、少ない量でも高く買ってもらえれば、山の価値は、上がります」
現在は、山の価値を乱暴ですが、バイオマスのように木材の最低価格で話をして平均化してしまいがちです。こうなると良い材も市場には、出なくなります。
経済効果のなかで業種による波及効果を期待して補助金とか助成金などの行政の政策が出てくるのですが、林業・木材業の本質では、他の産業には、そのまま当てはめるわけには、行かない問題があります。それは、大きさなのです。1次産業でひとつの産物が4mとか、3mとか1トンとか、通常の日本の物流にサイズが乗らない産物なのです。日本の物流に乗る木製品の最大サイズ1800。これが、建具屋さんに光を当てる理由です。できるだけ産地近くで、付加価値をつけた加工製品にして消費地に送らなければ経済効果も薄くなってしまいます。といつも考えているわけです。

こんなことやりながら、「内田洋行×良品計画」さんは、次々と面白いことを始めました。

   
 
 

実は、はじめの電話の会話の中で若杉さんにお願いしたことがありました。
「若杉さん!このプロジェクトを通じて宮崎の木材のPRをお願いできませんか?」
「いいですよ、やりましょう!!」

本当に若杉兄貴は、頼りになる。

この冊子が出たときは、本当に嬉しかったです。しかも、最後を「食」でまとめていただいています。

次に「内田洋行×良品計画」さんは、凄いことをしていただきました。それは・・・。

   
 
 

日本全国の国産材で家具や日用品をつくっている方に朗報です。ぜひ、これをユーザーに見せてください。

最後に宮崎県と内田洋行さんは、もう、15年以上のお付き合いをしています。はじめは、日向市の富高小学校の課外授業でした。先の口蹄疫のときは、直接、森林環境部長に義捐金を渡し、杉コレクションでは、10年間支援していただいた経緯があるのです。このような内田洋行さんに宮崎県民は、いつも感謝しているのです。

   
 
  15年前に日向木の魔界の会長所信です。本当に今回の事業で夢を叶えてくれました。ありがとうございます。
   
   
   
   
  ●<うみの・ひろみつ>木材コンシェルジュ
ほぼ、毎日更新しています。ブログ「海杉 木材コンシェルジュ」 http://blog.goo.ne.jp/umisugi/
2009年3月31日をもって、日向木の芽会 を卒業しました。 
海野建設株式会社 代表取締役 / HN :海杉
月刊杉web単行本『杉で仕掛ける』:http://www.m-sugi.com/books/books_umi.htm
月刊杉web単行本『杉で仕掛ける2』:http://www.m-sugi.com/books/books_umi2.htm
   
 
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